120.兄妹はストーカーを知り、犯人を知る
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「おーい、やっほー、君たち平気かー?」
声も出ないまま停止する俺たちをつつく女性が一人。まじかよと呟きながら視線を彼女へ戻す。ふと振り返れば、ハルは斜め上を向いたまま、お父さん、ストーカーとまるで呪文でも唱えているようだった。
「まじかよ?」
彼女は俺の言葉の意味が分からなかったのか、頬に人差し指を当てて首をかしげている。
「『共鳴』を使ったのが親父だってわかって驚いてるんだよ」
「えー、おとうさんなの‼ 変態だー。おっどろきー」
顔の横に両手を広げ、わー、などと言っているのを見ると気が抜ける。まあいい、親父も何か理由があるのだろう。ただ、子供の様子を見ていたかったとかなら殴ろう。そうしよう。いつまでも子供をGPSで監視する親じゃないのだから。
「うん、そしたら私はもう行こうかなー。最初は2人を捕まえに来ただけなのにさー。あ、二人って言うのはさっき言った頭のおかしい二人ね。それでね、探し回ってたら眠くなったからその場で寝てたの。そしたら君たちが来たから助けてーって言ってみてたんだー、どうだった。どうだった?」
「めちゃくちゃ不気味だった」
「えー、美女が助けてーって言ってたらきゅんと来ない? 助けてあげたいって思わないのー。ぶー、いじわるー」
彼女は頬を限界まで膨らませて体を左右に小刻みに揺らす。
「このダンジョンは俺たちしか知らないはずなんだよ。だれかいるのはおかしい、1人なんて猶更おかしい」
「えーみんな一人じゃないの? へんなのー」
再び大げさに驚いたふりをした後、彼女俺たちの横をすり抜ける。
「では、私は阿呆2人を捕まえに行くのでー、バイバイ‼」
「待って」
走りだそうとした彼女をハルが引き留める。
「あなたがさっき入りかけてたあの部屋。あの部屋のなかのやつを動かせないようにする方法はある?」
俺はハルの言葉に驚いた。そういえば彼女はダンジョンの管理側のものだと言っていた。ならばあの隠し部屋についてなにか知っていたっておかしくはない。しかも俺たちが彼女をみつけた時、彼女の半身は隠し部屋のなかに入っていたのだ。
「うん、あるよ?」
思いのほか彼女の答えはあっさりとしていた。俺たちのような探索者からすればあのスタンピードが起こせるシステムとはかなり危険なものなのだが彼女からしてみれば特に気にすることも無い話なのだろう。
「えーっとね。君たちあの文字の横の数字って見た?」
「あぁ、見たが」
俺たちが見たのはしんぐんの横の文字が増えていくところだった。
「あれって起動するのに必要な魔力がどれくらい溜まってるかを表す数なんだけどねー。って、そもそも君たちは動かせないから今の状態が動かせないようになってると思うよ?」
「でも、私たちは動かせた。だから、ダンジョンの奥に行くようにスタンピードを起こしたから」
ハルの言葉を聞いた彼女は手をポンと叩くとなるほどーと呟く。
「んーとね、起動は誰でもできるんだけど、燃料をためるのは私たちしかできないからねー、起動ボタンが押せても意味がない、みたいな?」
「燃料っていうのはあの数値のことか?」
「そうだよー私たちが魔力を入れて起動できる状態にするの。君たちが起動できたなら阿呆の二人のどっちかが貯めてたんだね。そっかー、そしたら止めたほうが良いかなー。いやーね、問題は無いんだけどあれ起こすのに使うのもダンジョンの魔力だから計画的に使わないと燃料不足が起こるんだよねー。うん、分かった。教えてくれてありがとねー、バイバーイ」
言いたいことをすべて話したらしい彼女は、そのまま俺たちに手を振り消えた。瞬きをしていなくても一瞬で消え、気配や魔法の痕跡なども残っていない。
「帰ろっか、おにい」
「そうだな、早急に帰ろう」
最後にいやな話を聞いてしまった。俺たちはスタンピードが起きるのを防ぐために数値が最大になると同時にこちらの都合の良いように起動をした。だがあの数値を増やしてるのがダンジョン側、それも先ほどまでここにいた彼女と同程度の強さを持つものだったと分かった今、それだけの強さを持つものに俺たちが攻撃される危険性が出てきた。もし、そうなれば俺たちは絶対に勝てない。リムドブムルよりもはるかに得体がしれないのだ。
名も知らぬ彼女よ、早く捕まえてくれよ。
彼女が姿を消し、多少なりとも残していた警戒を下げた俺たちはゆっくりと森林を通り、家に帰るのだった。不思議と帰り道、俺たちがモンスターに出会うことは無かった。
ただの人間とはいえ言葉を交わした仲だ。近くにいた魔物たちに道を空けてあげるように指示し、帰っていく二人を見送る。なかなか面白い人間だった。まさか私の作ったスキルでマーキングされた状態で私の前に現れるとは。思わず二人についていた『共鳴』を剥がして私の『共鳴』をつけてしまった。
私は経験値を得ることができないけれどあの二人が見れるならば十分だと思う。
私に怯えてたのに、おどけてみれば警戒を解いて。とっても可愛かった。
あぁ、なんとなく今日はいい日になりそうな気がする。
木の枝に腰をかけ一人でくすくすと笑っていると、いきなり座っていた枝が細切れになった。
「もー、あぶないじゃん」
切ったのが誰かは分かるのでさっきの二人にしたのと同じように頬を膨らませて文句を言った。
「人間相手に何してるのよ、ブルランド。人間相手に親しくして。裏切り?」
「ブルランドはかわいくないからやだー、ルンちゃんでいいんだよ。ソステちゃん」
「だれが呼びますか。それと私はソステヌートです。省略しないでください」
いつもソステちゃんは冷たい。言葉も鋭いのだ。だから刃物系スキルの担当にされちゃうんだよー。
「まぁまぁいいでしょ。じゃあ、あとはアダちゃんを探さなきゃだね」
「だから、名前を省略は。まあ、私の名前でないので良いですか」
「では、アダちゃんを探しにー」
「アダージョさんを探しに」
「レッツゴー」
一方、彼女らのはるか上の一軒家。木崎家では。
「二人とも大丈夫か、けがはないのか‼」
「天誅―‼」
心配してか、うちに突撃してきた親父にハルが飛び蹴りを仕掛けていた。
やはり『共鳴』を俺たちにかけていたのは親父だったということだ。
次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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