119.兄妹は不審な、不審な……
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「そうそう、こう見えて私って偉いんだよー。スキルを作るときにね、追跡系っていうのかな。そういうスキルの管理のリーダーやってたんだよねー」
彼女は胸の前で腕を組みふんっと鼻を鳴らす。
「ほら、君たちも使ってるでしょ。『察知』と『把握』だよねー。最初のスキルだよね」
その言葉で初めてステータスが見られているということに気づく。ハルに『看破』でも使われると魔力の影響で気づくことができる。俺たちが魔法系の技能だから魔力に敏感ということもあるが、レベルの高い、経験の多い探索者ならば同様に気づくことができるだろう。
さらに言えば特に意識せずともステータスを見られないように抵抗することもできるのだ。
しかし俺たちはステータスを見られていることに気づかなかった。いや、ステータスを見ていることを言われた今でさえ、見るために使っているスキルや魔法を感じ取ることができない。
「『共鳴』ってどんなスキルなんですか」
今まで黙っていたハルが口を開く。俺の横に立っていたはずのハルはいつの間にか俺の後ろに半身を隠している。おそらくメイド服の彼女への警戒を緩めると同時にコミュ障が表に出てきたのだろう。
「それ聞いちゃうー? いやー聞くよね、聞いちゃうよね。えへん、私が考えた『共鳴』の効果を教えてあげよう」
彼女は突如目を輝かせ、手を左右に広げる。
「私が管理するスキルの中でいっちばん優れたスキルでね。なんと効果はマーキングした相手のステータスの自由閲覧。でもね、これだけだったら一番のスキルなんて言えないのだー‼」
いやー、このスキルを作ったときはみんなに変態って言われたよね。などと呟きながら一人感慨深そうな顔で頷いている。
「で、それ以外の効果はなんなの」
その大げさな動きにいら立ちを感じたのかハルの声は幾分か鋭めだった。
「この、スキル。なんとマーキングした人が得た経験値の一部を手に入れられるんだよ。あ、経験値ってわかる? 魔物を倒すと手に入って集めるとレベルが上がるやつのことね。つまりどういうことかっていうとね。『共鳴』を持ってる人は、だらだらしてるだけでどんどんレベルが上がっていくってことなんだよ。勿論、実際に戦ってる人と比べると手に入る経験値なんてちっぽけなもんだから、めちゃくちゃ強くなるってわけじゃないんだけどね。でも、めちゃくちゃ強い人にマーキングしたら、遊んでるだけでも強くなるんだからずるいよね。自分も魔物を倒してたらさらに効率アップ。いやー、私って天才だよね。こんなスキル思いついちゃうんだからー。わっはっはー」
高笑い、というのだろうか。大きくくちを上げて自分でわっはっはという彼女を置いておき、ハルの耳に囁く。
「やばくね?」
「かなりやばい」
自分でいうのもなんだが、俺たちのレベルはかなり高い。2人ともが90を超えていてあと数か月もあれば100に届くだろう。当然それに伴うように得ている経験値も多いはずだ。
しかも、相手のステータスの自由閲覧。俺たちのステータスを把握している人間がいる。そして、ステータスには名前も書かれている。俺たちの名前は既に知られているだろう。
「『共鳴』の発動条件はなんだ」
「それはねー、最初は見るだけでー、とか念じるだけでーとかにしようと思ってたんだけどね。それはダメだーって言われたから制限を厳しくするしか無かったんだよ。残念だよね。だから発動条件は相手に触れていることと目が合っていること自分よりレベルが低いことの3つになったんだよ。最初の2つはいいんだよ。でも残りの1つは酷くない? 自分より弱い相手じゃあ、監視しても経験値をもらっても意味ないじゃん。もー、ぷんぷん」
その言葉を聞き俺たちは青ざめる。
俺たちが初めてダンジョンに入ったのはダンジョンが一般に公開される数か月前。おそらく俺たちが一般の探索者にレベルを抜かれたことは無いだろう。外国ではもっと早くダンジョンが公開されていた場所や、国が管理できず勝手に侵入できてしまうダンジョンもあったと聞いたことはある。しかし、そこでダンジョンに入った人がわざわざ日本に来て、なんの特徴もない俺たち兄妹にマーキングをするとは考えづらい。
「スキルとか魔法っていろんな種類があるからね、分野ごとに分けて管理するグループを作ってね、そのグループのメンバーは私みたいにメイド服着てるんだよ。今、みんなは寝ちゃってるんだけどね。起きてるのは2人だけかな。刃物系のスキルの娘とねー、崩壊系魔法の娘だね。あの娘たちってちょっと頭おかしいからなー、こまったこまったー」
「まて、全員メイド服なのか?」
「そうだよー。ご主人様の趣味なんだって。かわいいよねー」
親父の言葉の意味が理解できた。きっと彼女が言っている頭のおかしな娘たちは既に誰か探索者に出会っており、その話は何故か親父に伝わっている。
「おにい、もしかしておにいがお父さんから聞いた話ってそれじゃない?」
ハルも気づいたらしく、顔を引きつらせている。いろいろとおかしいのが分かってきてしまったから。特に親父のことについて。
「そういえば前にブログで見た黒衣の女性ってそういうことかも。あとこの前できた、1人でダンジョンにいる人に近寄らないようにって言葉ももしかしたら」
どちらも詳しく伝わっている話ではない。2つ目に関しては何か被害があり、それを隠したような印象も受ける。そして、おそらくそれらの話はダンジョンを管理する側に伝わっている。
例えば自衛隊とか。
分かった。確信した。絶対にそうだ。
「『共鳴』の犯人、親父だろ」
「お父さんが、ストーカー。よかったのかよくなかったのか……」
俺たちは額に手を当て、天井を見上げるのだった。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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