118.兄妹は不審なメイドと遭遇する
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「やっぱりないな」
「今日もないねぇ」
いつも通りダンジョンに潜った俺たちは、遺跡に入ったところで周囲を見渡す。今まで通りそこに扉は無く、モンスターすらもいない静かな道のみ。
で、あればよいのだが。
「なんかいるねぇ」
「やっぱいるよな。人?」
何もない壁。ちょうど前に扉があった場所からはなぜか足が生えている。
当然そんなものがあれば警戒するわけで、軽口をたたきながらも俺たちは武器をその足に向けている。
「なんか【看破】が効かないし、ぴくぴく動いてるし⁉」
その足の主はおそらく女性なのだろう。革靴というのだろうか、高級感のある女性ものの靴を履いている。
「ハル、いつも通り逃げる準備な」
「分かった」
ぴくぴくと動く足から目を離さずに後ろ歩きで遺跡の出口へ近づく。俺たちが離れても足の動きは変わらない。
「私たちに気付いてないのかもね」
「かもな、よし行くぞ」
アイテムポーチの中から適当なドロップアイテムを取り出し、足へと投げつける。少し足に驚かされた意味を込めて投げた勢いは幾分か強めだ。
「いったい‼ だれ、ごぶちゃんはいないか。たすけてー」
足にアイテムがぶつかると伸び切っていた足が曲がる。それと同時に壁の向こうから声が聞こえてくる。
「日本語だな」
「だね」
顔を見合わせる俺たちの耳にパンッと何かがはじけるような音が届く。まるで覇気のない声に気付かないうちに油断していた自分に気付き、慌ててその音の原因を探る。
「まじかよ……」
その音の正体は、痛い痛いと騒ぎながら振り回される足の下にあった。既に元の大きさが分からなくなるほど粉々になった何か。この場所に何があったかと言えば、俺が投げたアイテムであり粉々の何か以外に落ちているものは無い。
「たすけてー、そこにいるでしょー。ねぇー」
声の主、というか足の主は何事も無かったように足を振り回し、声を上げている。
「おにい、今あの足蹴り砕いたよ。あれ粉、投げたやつ‼」
アイテムを破壊するは難しいことではないのだ。俺たちのステータスならあのようにアイテムを粉砕することも可能ではある。だがおかしい。
「なんでアイテム粉砕できる力で足振ってんのに地面に衝撃がいってないんだよ」
その足は何度も地面にぶつけられるが、大きな衝撃もなく、音も見た目も小さな子がじたばたしているのと変わりない。
「おにい、絶対近づいちゃだめ。とりあえず今日は帰ろ」
「だな、ゆっくり下がるぞ」
暴れる足から目を離さずゆっくりと。決して足音をたてないように遺跡を出る。十分に足と距離が空いたことを確認し全力で走る、はずだったのだが。
「ばぁ‼」
「ギャー⁉」
走ろうと振り返った瞬間、ハルの視界を人の顔が埋め尽くした。驚かされ飛びのいたハルとは違い、少し距離が空いていた俺は幾分か余裕があった。考える時間もなく1年以上のダンジョン探索の経験だけで刀を振りぬく。
刀を振り始めてから、相手が人であることに気付くがもう止めることはできない。無意識のうちに首を狙っていた刃を無理やりずらすができることは精々即死を避ける程度のはずだった。
「動きがおそいぞー少年。というか、なんで剣使ってるの?」
刀は掌で止められていた。
刃先はしっかりと掌へ向かっており、指で掴んで刀を止めているわけでもない。技術などは関係なしに純粋なステータスだけで刀を受け止めているのだ。
「おにい下がって‼」
あまりにもあり得ない光景に、思わず固まっているとハルからの叱咤が聞こえ慌ててその人から距離を取る。
そこまでして、俺は初めてその相手の姿をはっきりと認識した。
小綺麗なメイド服姿の女性。俺たちが武器を向けているにもかかわらず一切の警戒を示さず自分の掌を見つめている。目だけを動かし先ほどまで足があったところを見てもそこにあるのは粉々になったアイテムだけ。
目の前にいる女性が先ほどまで足をバタつかせていた張本人なのだろう。
「ねーねー少年。なんかついてるよ」
瞬きの合間だろうか、いつのまにか彼女は俺の額に人差し指で触れていた。痛みは無く攻撃の意志も感じない。
「ていっ」
彼女の指と俺の額、その間に青色の光が爆ぜる。と同時に体の表面からごく微弱な魔力のようなものが剥がれていくような感覚に襲われる。
「君もだねー、ほい」
またもや、彼女は目にもとまらぬ速さでハルの目の前に移動し額にデコピンを当てる。指と額の間には俺の時と同様に光が爆ぜた。ハルはその光にびくりと震えたあと慌てたようにトンファーを振る。
当然のようにトンファーは空を切り、彼女は先ほどの場所に戻っていた。
「君たちってえらい人だったりするの? これ付いてる人久しぶりに見たよー」
彼女は顔の横で両手の人差し指を立てて左右に振る。指先には青色の光の玉が瞬いている。
「付いてる?」
「うん、そうなんだー。これね『共鳴』っていってね、私が作ったんだー」
「はぁ?」
俺たちはいつの間にか武器を下げ、ポカンと口を開き固まるのだった。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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