117.兄妹は親父の言葉を推理する、なお意味はない
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「スライムはスライムでしょ。『看破』でもそうやってでるし」
「そういうことではなくてだな」
ダンジョンに現れるモンスターであまりにもおかしなモンスターというのは存在しなかった。おかしいと感じないということはそれらのモンスターは全て俺たちの想像の範囲内であるということだ。
ダンジョンに出現するのはオオカミやイノシシ、モグラそして人。実在する動物、それも俺が見ただけで分かるような有名どころの動物を巨大化、変形させたモンスターばかりだ。
1階層のモンスターがおかしいのだ。ゴブリンとスライム。どちらも実在する生物がもとになっているとは思えない。
いや、ゴブリンはぎりぎり人やサルがモデルとして納得できる。だが、スライムは違うだろう。一応アメーバやプラナリアなどスライムに似た形状の生物は存在する。だが、それは有名どころだろうか。
他の動物と並べてモンスターにするものだろうか。
「スライムが架空の生物として認識され始めたのっていつだか知ってるか」
「知らないけど、神話とか読んだときにはそういう生物はいなかったかな。あ、クトゥルフは?」
「あれは架空の神話だよ。いや、神話に架空と言って良いのかは知らないが古い時代の話ではない」
スライムだけの話ではない。現実存在しないとされているモンスターは他にもいる。リムドブムルとガン・セーンという強力なモンスターだ。リムドブムルはドラゴンであるし、ガン・セーンはデュラハンのように見えた。
「改めて確認するがモンスターのモデルは地球の生物と、その中で生まれた文化だろ」
「それも、最近の文化ってこと、かな?」
「スライムを見る限りはそういうことだろうな」
「なるほど、それで」
「それで」
俺とハルはお互い顔を見合わせながら数秒停止する。
「あー、言ってなかったか。親父がメイドだなんだって言ったとき、俺ぐらいの歳だとメイドのことどれくらい知ってるのかって話だったんだよ」
「どれくらい知ってるの。ご主人様? もえもえきゅん?」
ハルがにやにやと笑いながら俺を肘でつつく。
「どっちも聞いたことがあるだけだよ。てかハルも知ってるじゃねえか。親父が言っていたのは本当のメイドのほうだってよ。あの貴族のやつだ」
「あーなんとなく分かるかも」
こんなやつと言いながら、ハルは手を横に広げカーテシーをする。カーテシーの作法なんて全く知らない俺からもそれは十分に下手であることがよくわかる。
「そう、なんとなくしか分からないんだよな。たぶん親父もそういうのが聞きたかったと思うんだよな」
「つまりは」
「ダンジョンを作ったのは俺たちと同い年ぐらいの、もしかしたら日本人だと考えてるんじゃないか、と」
「なるほど」
「うん」
まあ、それが分かるとどうなるかと言えばどうにもならないわけで。
「それだけ」
「それだけかぁ」
「明日もダンジョン行こうか」
「おう、そうだな」
親父が何をしているのか、何をしたいのかは分からないが大抵の秘密は知らなくてもどうにかなるのだと思う。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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