116.兄は考える。いつからスライムはスライムなのか
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
舞台の上に立つ勇者御一行の見た目は以前と大きく変わっていた。装備は煌びやかでありながらも戦いの邪魔にならず、防御力も高いものであることが窺える。
勇者御一行と俺たちの間にはたくさんの人がいて『看破』は届かないが、見るだけで分かる構成の装備というのは存在するのだ。それがダンジョンで敵がドロップする装備。
以前と比べ人が作る装備の質は大きく向上した。たくさんの探索者が現れそれと同時にスキルや魔法の詳細や普通とは違った使い方などが判明してくる。そしてたどり着くのがダンジョンアイテムを使い装備を作る技術の確立だ。
しっかりとした技術やスキルで作られたダンジョンアイテムを材料とする装備はダンジョン内に限り、ダンジョンが出現する前から作られていた防刃や防弾の服の性能を上回る。
しかし、そのような装備であってもダンジョンでユニークモンスターから稀にドロップする装備と比べてしまえば粗末なものへとなり下がる。
ユニークモンスターがドロップする装備のほとんどが使い勝手や耐久性を無視したかのような派手な装備にになっている。勇者御一行の装備は金色に輝いていたり棘が生えていたり、むき出しの木の根のような見た目だったりと異質だ。これがそこら辺の探索者だったら目立つために変な装備を付けているのかと邪推してしまうが、勇者御一行がそのようなことをする意味は無いだろう。
「おにい、勇者御一行すごいね。装備の質は私たちより上かも」
「俺たちのは買ったやつを改良してるだけだからな。基礎性能が低い」
俺たちが勇者御一行に比べ不利なのは人数。俺たちがどれだけ高速でモンスターを倒してもユニークモンスターは中々現れない。ユニークモンスターを倒しても装備をドロップするとは限らず、ドロップしたとしても大抵の場合、俺たちが使えないものだ。
「前に刀ドロップしてたよね。おにいはなんであれ使わなかったんだっけ」
「あの刀は長すぎだな。今のより10センチ近く長かっただろ。さすがに戦うときに支障がでる」
「私なんてトンファーだからね。トンファーがドロップしたなんて見たことも無い。やっぱりメジャーじゃない装備はダンジョンでもドロップしないんだよね」
普通の探索者はダンジョンで装備を入手し、それが自分の使うものでないときは売りに出す。基本的にドロップした装備を使う探索者は、自分の入手した使わない装備をいくつも売り、そうして貯めたお金で他の人が売りに出した装備を買うのだ。
俺たちの場合は装備を売りに出すときは量も質もセーブしているせいでお金がさほど入らない。当然他の人が売りに出した装備を買うこともできないわけで、自分たちで装備を改良することで我慢しているのだ。
舞台の上では今日までのダンジョンや探索者などの発展が映像となってスクリーンに映されている。
ダンジョンが現れて、調査が始まって。一般の人がダンジョンに潜れるようになって。ポーションを作る方法が見つかって、装備を作る技術が見つかって。でもよく考えてみれば。
「ダンジョンができてからって意外と経ってないんだな」
「そういえばそうだね」
最初のスタンピードに始まった映像は最後に先ほどまで俺たちがみていた車を映し、1つの文章をのこし消えた。
『僕たちのダンジョン探索はこれからだ‼』
「これからなんだよなぁ」
「これからかぁ」
俺とハルの脳裏に浮かぶのはあの隠し部屋で起きた出来事。そして親父の言葉も。
「ダンジョンの発展もこれからだし。問題が起きるのもこれから」
「そもそも今まで問題が無さ過ぎたんだよな」
スタンピード然りガン・セーン然りキメラ然り。ダンジョンは度々俺たちに脅威を投げかけてくる。天災とも言えるそれらで怪我をするのは自分たちが弱いからであり、探索者になるという選択をしてしまった自己の責任だと思う。
だが、あの隠し部屋でスタンピードが人の悪意によるものである可能性がでてきた。新しいものができて、たくさんの人が集まって。そうして時間が経てば何かを企む人も出てくる。そうしていつか、その企みに成功してしまう人も出てくるのだ。
探索者然り、ダンジョン然り。
「ダンジョン然り?」
何かが引っかかる。ダンジョンで経験したこと、親父が話していたこと、SNSで見たこと。たくさんの情報が駆け巡る。
「ハル、家帰ったら調べたいことがある」
「なにが?」
「親父の話してたことについて思いついた」
ハルは険しい目をしながらも俺のほうを向き首を傾げた。
「気付いてなかったわけじゃないが、疑問にも思ってなかった」
メイドが、魔王がとよくわからないことを言っていた。何を意味しているのかも分からない。でも、なんとなく親父が疑問に思ったのはこんなことなんだと思う。
「スライムがスライムであるはずがない」
スライムだけが、生物として、モンスターとしておかしいのだ。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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