115.兄妹は発明に憧れたり憧れなかったり
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「超小型かぁ。これ小型か」
1人入れる程度の金属の箱にはなぜか達筆な字で発電機と彫られていた。
「おにい、これなら作れそうだし電気代タダになるよ‼」
「いや、でかすぎだろ」
「私たちなら小型化できるもん」
横にある看板には増幅型発電機と書かれている。もとになる電気を機械に流し、そのエネルギーをアイテムの力で増幅しているということらしい。
「つまりは、電圧が上がるってことか」
「電力を増やすんじゃないの」
「いや、だって電圧は電力と、比例、反比例、ん?」
「んー?」
二人そろって看板の前で首を傾げる。看板にはもっと詳しい内容が書かれているのだが頭の悪い俺たちには良くわからない。
「で、中身はどうなってんだ」
「【増幅】とか【強化】とかそれっぽいのがいっぱい入ってる」
「案外適当なのな」
確かにこれを大量に用意すればエネルギー問題が解決するかもしれないが、そんなに用意するのは難しいのだろう。元手になる電気を大量に用意すればいいのかもしれないが、あの発電機も限界があると思う。
「家帰ったらやってみるか。増幅系のスキルがあるかは分からないが、たぶんあるだろ」
ダンジョンで手に入れたアイテムは、容量の多いアイテムポーチの能力に任せすべて保存している。どれだけあるかは覚えていないが数か月分はあるのだ。増幅系のスキルの付いたアイテムもいくつかはあるだろう。
「うん、気が向いたらやってみる」
「それ、やらないやつだろ」
ハルは機嫌よさそうに鼻歌を歌いながら、気の向くままに展示品の周りを動き回る。
「見ておにい、冷蔵庫だって」
「それは、電気で良くないか」
【冷却】のスキルを利用して作られた冷蔵庫、冷凍庫であったりとか。
「これ欲しい」
「これは、欲しいな」
【通気】のスキルのついたベッドであったり。
「これはいらない」
「いや、ハルは欲しがったほうが良いと思う」
【保湿】を軸にいくつかのスキルで作られた美顔器。
しかし本当に色々なものがある。ダンジョンでランダムにドロップするアイテムを素材にしているだけあって全て普及は難しいが、もしこれから量産できるようになれば世界の技術は何歩も進むことになるだろう。
「ハルはどれが一番良かった?」
「わたしは車かな。私とかおにいって結構魔力多いでしょ」
「そうだな。魔法系技能だしレベル高いからな」
「あの車なら燃料無しで走り続けられると思う」
そもそも俺たち二人とも車に興味がないという問題はあるが、もしあの車が公道で使えるようになれば、ガソリン代も電気代もいらないのだ。
「確かに効率的だな。ガソリンとかって結構高いって聞くし」
「それにね、多分あのシステムでバイク作ったらダンジョンの中で乗れると思う」
電気や魔力を使わない化学反応の燃焼爆発が起こせないダンジョン。そのなかで動力付きの乗り物に乗れるというのはかなりの進歩になるだろう。
「あの車みたいな仕組みで重火器作って乗り物で運べばスタンピードの制圧とかも余裕になるかもな」
「あーたしかに。結局は銃になるのか、ファンタジーぽくなくてやだね」
「結局は誰でも使える遠距離高威力が便利ってことだな。金がかかっても人の命よりは安い」
「他の国だともうやってるとこもあるのかもね」
俺とハルは最初に見た車の場所まで戻り、その周りをぐるりと回る。
「おにいはどれがよかった?」
「そうだな」
なんとなくハルと別のを言おうと思い考える。
「俺はベッドだな。あの【通気】スキルがついてたやつがあっただろ。日常で快適に使えるのが欲しい。見てて面白かったのはハルとおなじ車だけどな」
「ベッドかー、確かに寝心地は良さそうだったね。簡単に作れそうだったし」
「絶対に蒸れないって書いてあったからな。おそらく冬は寒そうだ」
「あと、寝室の冷暖房がしっかりできればいらないね」
「それでも少しは寝心地よくなるだろ」
「そうかなー?」
その時だった。ダンジョン市場の中にある舞台から大きな歓声のようなものが聞こえてくる。その歓声のなかには、勇者や勇樹といった言葉が含まれている。
「なんかデジャブ」
「初めてここに来た時もこんな感じだったか」
俺たちが今いる場所からは舞台は見えないがおそらく勇者御一行がいるのだろう。性格の良い美男美女がそろった日本最強の探索者の人気は留まるところを知らない。最近ではいつダンジョンに行っているのだろうと思うほどテレビに出ているようだ。
「見に行ってみよ」
ハルはうきうきと普段は近づきもしない人混みへ足を運ぶのだった。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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