114.兄妹は技術を求めダンジョン市場へ
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「お父さん、なんて言ってたの」
「メイドがなんだ、とか魔王はなんで城から出てこないんだとか」
「それだけ?」
「あとは、ハルが元気かだってよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「ならいい」
朝食を食べ終えたハルは小さく鼻歌を歌いながら食器を片付ける。
「あ、もう1つあった。ハル、ダンジョンに1人で潜るボロボロの服の女性って知らないよな」
「しらなーい」
ボロボロの女性については案の定ハルも知らないらしい。そもそも普段からダンジョン関係では全て一緒に行動しているのだから、俺が知っていてハルが知らない情報や、その逆はほとんど存在しない。
去年から徹底していたダンジョンに関する情報収集とその共有のたまものだ。
「おにい、今日これ行こう。気分転換に」
ハルはノートパソコンの画面を俺のほうへ向けてくる。それはダンジョン市場で開かれているイベントのホームページだった。
『君も一緒にダンジョンに行こう』
正直に言えば直前に大規模スタンピードが起きたのによくできるなと思う。勿論俺とハルしかいない場であってもスタンピードを起こした身でそんなことは言わないが。
「ハル、それ前から狙ってただろ」
「な、なんで知ってるの」
「いや、パソコン開いてすぐ見せてきただろ」
ハルは昨日からこのイベントに行くことを狙っていたらしく、ノートパソコンを開くと、すぐに俺に見せてきたのだ。
ハルは口を丸く開きあぁーと呟きながら納得したように何度も頷いている。
「それで、いきなりどうしたんだ。ハル人混み苦手だろ」
「まあ、そうなんだけどね。これなのよ」
ハルはパソコンを操作し再びこちらに画面を向けてくる。そこにはダンジョンアイテム記念館の文字。
「ダンジョンでドロップしたアイテムを体験できると、行く意味あるか?」
「その下、これ。機械とアイテムのハイブリッド。次世代の機械ってあるでしょ。見たいの」
ハルが指差したのは変わった見た目の車の画像だった。ダンジョンのドロップアイテムを利用したことにより、まるで浮いているかのような振動の緩和と従来のガソリン自動車の10分の1ほどの燃料消費を実現と書かれている。
ただし、ダンジョン産のアイテム。安全性が保証できないため、公道は走れないらしい。
「こういうのが作りたいと」
「うん」
「で、見てみたいと」
「見てみたいと」
「なら行くか」
「うん‼」
ハルが珍しく、自分から出かけたいというのだ。親父との会話で若干疲れているが行くとしよう。
俺はとりあえずの準備として、スマホに充電コードを差し込むのだった。
「おにい、あったよ。ネットで見たやつ」
いつになくハイテンションではしゃぐハルの声を聞きながら、周囲を見渡す。つい先日スタンピードがあったというのにここダンジョン市場は大勢の人がひしめき合っていた。
イベントが行われているからだろう。普段探索者しか入れないダンジョン市場は今日だけ一般に開放されているらしい。そのおかげで込み合っているということもあるのだろう。
ハルが張り付きそうなほどに近づき見つめているのは、家で俺が見せられた車。おそらくハルは『看破』でも使っているのだろう。
『看破』ほど強力な鑑定系スキルの使えない俺は車の横に建てられた看板を読む。そこにはこの車を作る上で使われたアイテムが書き連ねられていた。
【衝撃吸収】衝撃を吸収し微量の魔力を放出する
【熱吸収】熱を吸収し微量の魔力を放出する
【浮遊】浮き上がる
【液体収納】液体を収納し質量を消すが取り出すことはできない
【反転】効果を反転させる
この下にもずらりと使われたスキル、なんのスキルの効果を及ぼすアイテムが使われたかが書いてある。
「このアイテム全部買い集めたらどんだけかかるんだよ」
「1億じゃ足りないかもね。あと、ここに書かれてないスキルの付いたアイテムもあるっぽいよ。企業秘密かな」
「なんてスキルだった」
「【爆発】だって」
「エンジンか。安全管理だろ」
「たぶんね。外側から見えないとこだったし。『察知』と『看破』一緒に使ってたら見つけた。座席の下の辺りかな」
「まじかよ。乗るのこわ。え、そしたらボンネットのとこには何が入ってんの」
「他のスキルのものだね、スキル同士の接続で場所が必要だからボンネットのとこ使っちゃったみたい」
ハルは苦笑いをしながら、ここら辺とボンネットを指さす。
「普及はしないな」
「だねー」
車が置いてあったのは入り口に近い場所。奥には車を上回る巨大な装置がいくつも置かれている。
「よし次行こう」
「行くかー」
ハルの掛け声に合わせ、俺たちは歩き出すのだった。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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