112.兄妹は悩み大人は騒ぐ
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「で、俺たちはどうするべきか。だよな」
「そうだねぇ」
俺たちがスタンピードを起こしてから数日。人間に攻撃する意思のないモンスターの前に飛び出し死ぬような探索者もいなかったようで、日本では『死者数0』とニュースで言われているのを見た。
探索者はモンスターに対して優位に立てる階層までしか潜らないので当然と言えば当然だ。ステータスに差があれば、走るモンスターにぶつかった程度じゃ転ぶこともないのだから。
とはいえ、このスタンピード。問題に気づいているのは俺とハル。そして先にスタンピードを起こそうとしていた誰か。
「あれが人為的じゃないとはどうしても思えないんだよな」
「あの部屋の入り方もわからないからね」
スタンピードを起こした翌日。俺たちは再びあの部屋があった場所に来ていた。もう一度あの部屋に入れないか、あのパソコンの秘密がわからないか、と。
しかし、扉が見つかることは無かった。数時間扉を探したが、扉が現れることはなく俺たちの努力は徒労に終わったのだった。
「スタンピード起こして、得するのって誰だ?」
「強いならモンスターを倒してアイテムを、とかできるけど。得かなぁ」
ダンジョン全体でのスタンピードを受け止め狩るともなればそれなりの数のモンスターをまとめて一撃で倒せるほどのステータスが必要になる。
それだけのステータスがあれば、奥の階層で戦っていたほうが珍しいアイテムや多くの経験値を得ることができるだろう。
「第一それだと、人を襲うような設定にする意味がないんだよな。実際俺たちが起こしたスタンピードではモンスターは一切人を狙っていない」
「あとは、愉快犯とか。そもそもスタンピードを起こしたのはモンスターだー、とかかな」
「モンスターがあれを操作したってことか?」
「人化牛も言葉を理解してたし、できないって言うのは早計だと思わない?」
「それもそうか」
あのパソコンを弄ったとき、そこに現れた文字は平仮名だった。それはここが日本だからか、俺たちが喋るのが日本語だからか、まさか無条件で日本語なのか。
「そういえば、人化牛って日本語以外は分かるのか?」
「さあ、試しに行く?」
というわけで、俺たちは人化牛の前に立ち尽くしていた。武器を振るえば倒せる。全力で殴っても倒せる。狙ってなくても倒してしまう可能性もある。ならば。
「ハル逃げろー」
「きゃー、にげてー」
俺たちは適当に人化牛の攻撃を躱し続けるのだった。
「ハル、英語話して」
「え、分かんない。キャンユースピークイングリッシュ」
「発音が日本語‼」
俺もハルも英語が得意だったわけではなく、少ない知識も試験で使う単語や文法だけに偏っているため、ネイティブっぽい発音で話すことができないのだ。
「あ、アイハブアボム‼」
「ワッツユアネーム‼」
「マイネームイズトウカ‼」
「日本語しか駄目なのか、英語でも平気だけど私たちが下手すぎなのか。どっち⁉」
人化牛の周りを走り回りながら、拙い英語を叫ぶが聞き取っているように見えない。そもそも理解できたら動きに影響が出るような言葉を英語で言えるほどの知識も無い。
「どっちだよ‼」
結局この日、人化牛が英語を理解できるかの検証をすることはできなかった。
「で、木崎さん。どういうことっすかこれ。31人まとめて行方不明になった例は無いかって。無いですよ、無かったですよ。てか、そんなに一遍にいなくなったら大騒ぎになりますって」
「だよな、たぶん子供だと思うんだが。日本の、生徒か児童か。学生ってのは無いと思うが」
「だから、その考えてることを教えてくださいって。第一もうダンジョンに潜ってないんですよね。どこでそんなよくわからない情報集めてくるんですか⁉」
「んあ? 前に言っただろ。スキルだよ。便利だがくそみてぇなスキルだ」
「前に言ったって『共鳴』とやらですか。名前しか教えてもらってません」
「だってお前に話したら言いふらすじゃん」
「言いふらしません‼ というか人の秘密勝手にばらまくのはあなたでしょ」
「そうだったか。お前の初恋のエピソードを言いふらしたことなんて忘れたな」
「覚えてるじゃないですか‼」
男二人がちゃぶ台を隔てわいわいと騒いでいると頬を赤らめた女性がビールを片手に割り込んでくる。
「はーい、初恋の麗でーす」
「な、なんでここにいるんですか⁉」
「そりゃーおめえ、嫁がうちにいたらおかしいかよ」
「嫁でーす。ふふっ」
「独身二人で何言ってるんですか。てか、麗さんの恋愛対象って女性でしょ。僕、そう言ってフラれたの忘れてないですからね‼」
「だって女の子って可愛いじゃない。そういえば志木さんの娘さん可愛いのよ。はるかちゃんっていうの。志木さんふざけて私のことを妻って紹介してね。面白いから乗っかったら嘘って言うタイミング逃しちゃったの。はるかちゃん私のこと睨んできて可愛かったぁ」
「うわぁ」
「うわぁってなによ、うわぁって」
「いや、趣味悪いなぁって。というか実際麗さんなんでここにいるんですか」
「お仕事とお手伝い。ほら私のスキルって便利だから」
「いや、僕そのスキル知らないんですけど」
「うん。内緒だからね」
「おしえてくださいよー」
「やーだ」
酒が回れば口もよく回る。こうして酒飲み中年三人組の夜は更けていくのだった。
「佐藤、子供がパソコンを使うようになったのっていつ頃からだ?」
「さあ。20年前とかじゃないですかね。もっと前かも」
「ならそこら辺から今までで人数がちょうど30人のクラスをまとめてくれ。とりあえず中学校だけでいい。標準語の地域で共学だ」
「わかりました。木崎さん」
twitterやってます。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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漫画連載中です。
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