107.兄の手は復活を遂げ、クッキーを作る
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
ここは転移の間。俺とハルはその一角に座布団を置き、その周りにいそいそとポーションを並べていた。
座布団の脇には数枚の写真を並べた。写真に写るのはすべて、俺が今の身長に成長してから手を無くすまでの全身が写っている写真だ。
写真はたくさん見つかったのだが、今の身長まで成長していること、全身が写っていることの2つの条件を満たすものとなると数枚しか見つからなかった。
進化の水による体の変化がイメージを基にしたものとなると仮定した俺たちはそのイメージがはっきりとできるように写真を用意したのだ。
欲を言うのなら四方八方から撮った全裸の写真があれば良いのだが、当然そんなものは無い。というか自分のそんな写真を保存している人なんているのだろうか。
「さて、やるか」
座布団の周りに数十のポーションを並べ終えた俺は、中心にある座布団の上に座る。まとめてあった写真を広げ、自分の前に並べた。
「じゃあ、おにい。手順を確認するよ」
ハルはそう言うとビシッと人差し指をこちらに向けて突き出す。
「初めに進化の水を飲み干す‼ 飲んでる途中で変化が始まっちゃって中途半端に終わったらだめだからね」
ハルは2本目の指を突き出す。
「次‼ 腕がもとに戻るのを待つ。違う場所が変わりそうだったら随時ポーションを飲んで調整」
俺に向けている手を一度上に掲げたハルは三本の指を立て、その手を振り下ろした。
「最後‼ 手が治ったらポーションを飲みまくる。私は掛けまくる。分かった⁉」
「おう‼」
俺は進化の水が入った瓶のふたを開け、唾を飲む。
「行くぞ」
「うん」
覚悟を決め、一息に進化の水を飲み干し、意識があったのはそこまでだった。
サブマスターコアへアクセス 認証完了 ステータスを開示します
名前 :トウカ
技能 :付与・錬金
魔属性 :無・呪
レベル:90
強度 :134
魔量 :193
スキル:隠密・座標・物質認知・支配・ショートカット・
魔法 :スピード・パワー・ガード・バインド・チェイン・スロー・ロス・アンプロテクト・カース・封魔・セーフゾーン
パッシブ:把握・加速・錬金
データログへアクセス 解析を開始
亜人族への適性を確認
身体の欠損を確認 再生を許可
記憶データ・行動データを参照 問題なし
脅威度を計算 レベル1 問題なし
進化の許可を確認
進化を実行します
進化ボーナス 情報01を付与しました
「おにい‼ っいたぁ⁉」
ハルの叫び声で目が覚め、俺は飛び起きた。と同時に頭に強い痛みを感じる。頭を強く殴られた後のような鋭い痛みだった。
ぼんやりとした視界を晴らすように目を数回こすり、辺りを見渡した。そこはダンジョンの入り口である地下室。俺は毛布の上に寝かされていて、装備していたアイテムポーチや武器は部屋の隅に並べられていた。
そして、俺の横には頭を抱え小刻みに震えながら寝ているハル。
「ハル、どうした。大丈夫か?」
俺はふらつく体を手で支え、ハルに手を延ばす。寝転がるハルを数回揺らした後、俺は違和感に気付いた。
「おい、ハル‼ 手が治ったぞ」
俺が寝ている間に生えていた左手はしっかりと俺の体を支えていた。左手を開き、握りと数回繰り返し異常が無いのを確認する。
右手で触り、押し、骨格に異常がないことも確認した。妙に力が出なかったり、出すぎたりということも無い。
「ハル、起きろ。完全に戻ってる‼」
再度ハルを揺する。小刻みに動きだした。次は強めに揺する。ハルはぴたりと動きを止め、次の瞬間跳ね上がるように顔を上げた。
「手が治ったのは知ってる‼ 頭痛いんだけど‼」
1時間後、怒り狂うハルに事情を聞き謝罪をし続けた俺は、痺れた足の痛みに耐え、キッチンに立っていた。どうやら俺は起きるとき、ハルに盛大な頭突きを仕掛けたらしい。
とりあえず、生え変わった左手の最初の仕事は、怒るハルをなだめるためのクッキー作りだったということだけ、覚えておこうと思う。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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漫画連載中です。
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