105.兄妹は進化を望み試案する
3月18日、漫画発売しました‼
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「で、とりあえず安全な場所に戻ってきたわけだが。これはなんだ?」
そういいながらリンクスライムからドロップしたポーションを顔の前にぶら下げる。俺も『物質認知』のスキルを持っているため自分で調べることは可能なのだが、期待が大きいためか自分で確かめるのは憚られた。
「というわけでハル、『看破』頼む」
「おにいが自分ですれば良いのに。違ったら教える方も心が痛いよ。『看破』」
ハルはそのままじっとポーションを眺めるとそのまま首を横に倒す。
「これは、どうなのかな? とりあえず名前は〈進化の水〉だって」
「効果は?」
「飲んだものの体を望む形に変化させる」
「は?」
ハルの言葉が消化しきれず、頭の中にはてなが並ぶ。
「たぶんね、効果が言葉の通りだったら手が生えるように願って飲んだら手が生えると思う。でもこの望む“形„っていうのがねぇ」
「曖昧だよな。悪い意味でダンジョンっぽい。得体の知れなさがすごいよな」
形というのを最も安易に考えるのならばハルが言ったように腕を作ることも可能なのだろう。しかしそう安易に考えていいのだろうかという不安がある。
もしかすると変わるのは本当に形だけかもしれない。望んだように腕は生えてくるがその腕に神経は通っておらず、そこにぶら下がっているだけという可能性もある。
一番最悪なのは深層心理ではこう望んでいるのだ。と進化の水が勝手に判断するという仕組みだった時だ。俺は腕が治ることを真っ先に望んでいるつもりだが、それをこの進化の水がどう判断するかは予想できない。
「他に看破で分かる情報は無いのか?」
最後の頼みの綱と、ハルにもう一度聞き直す。
「うん、残念だけどこれだけ。飲む?」
「飲むかぁ?」
思わず頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
上手くいけば腕は元に戻る。では最悪だった場合。体の形が変化してしまったときはどうすればいいのだろうか。
望んだ形に、とあるのだから俺が俺でなくなるようなことは無いはずだろう。例えば物になるとか。そうなればもはや死んでいるのと何も変わらない。さすがに深層心理でも俺が死ぬことを望んでいないのぐらいは理解できる。
問題は、考えているのと別の方向へ良くなってしまうことだ。ダンジョンに潜ることが増え、自分が求めているものが強さになってきている現在、もしかしたら昔ゲームで見た魔王や勇者の見た目に変わってしまう可能性がそこそこ高いと思うのだ。
そうでなくても俺の面影を残さないレベルでイケメンに変化する。とか、性別が変わって絶世の美女になるとか。いや、女になりたいという願望は無いと思うのだが。そうなってしまった場合はどうすれば戻るのか、戻る。ん?
「なぁ、ハル。ポーションってどういう仕組みか分からないが怪我を治すだろ」
「そうだね」
「あの怪我を治す基準ってなんだ? 中級のポーションであれば多少肉が抉れてても治るよな」
「それは怪我の大きさが、あれ? そういえば指先の欠損とかは無くなった身体の割合は少ないのに戻らないよね。なのにお腹とかは治るって聞いた気がする」
「流れた血とか、削られた身体の体積は、指が無くなったときより多くても治るだろ。そう考えるとポーションで欠損が治らないのって怪我の規模は関係ないんじゃないか?」
「そっか、怪我が大きいときは使うポーションの量を増やすだけで平気だもんね」
「そう考えると……」
今まで俺たちが聞いたことのあるポーションは3種類。
1つ目は洞窟の6階層からドロップする低級のポーション。擦り傷、切り傷、腹に武器が突き刺さったなんて状態でも回復するが、血は戻らない。
2つ目の中級ポーションは骨折を治すほどの効果があるらしい。モンスターがドロップはしないものの、そのポーションを作るのに必要なスキルはそこまで珍しいものでは無く、一時期値段の高騰していた中級ポーションは現在、少し奮発するだけで買うことができる。
飲めば失っていた血も傷も戻るので、大抵の怪我はこれがあれば問題なく治る。だが欠損した部位、手足や指は勿論、内臓がズタボロになっていると治らないためポーションの効果を過信していると死ぬことになる。
そして最近見つかったポーション。名前や効果などの詳しい情報は公表されていないが、一般に高位ポーションと呼ばれている。
噂されている効果は部位欠損の再生までを含むすべての回復。飲むだけで、完全な健康状態にもどるということだ。
これでは高位のポーションに上がるにつれて効果が強くなるというよりは。
「ポーションの本質は高位になるにつれてできないことが減っていくってことか?」
「もし、そうなら。おにい、ちょっと見てて」
ハルは低級のポーションを取り出すと自分の手、正確には爪を指さした。
ハルが指差した爪は切ってから何日も経っているのだろう、そろそろ切った方が良いのではと思う程度には伸びていた。
「私、ここまで爪が伸びてるのは良くないと思うの。伸びっぱなしの爪は健康じゃないと思う。だから」
ハルが手にポーションを少しだけ垂らした。普通なら怪我の無い状態、ポーションは何の効果を与えることもなく、そのまま地面に垂れていくだろう。しかし今回は違った。
ハルの爪の先が光り、その光が消えたときハルの爪はちょうどよい長さまで縮んでいたのだ。
「初級ポーションは欠損を治すことに制限がかけられてるけど、増えすぎた部位を減らしたり、戻したりするのに制限は掛けられてない‼」
ハルはそこまで言ってから、ハッとしたように口を閉じ少しだけ微笑む。
「多分、進化の水で変なことになっても戻せると思う。だからって手が生えるかは分からないけど、進化の水を試す機会はあると思う」
理屈は分かる。その理屈はきっと間違っていないと思う。俺は覚悟を決め、それと同時に頭の中に1つのアイテムが浮かんだ。
「ハル、一応実験としてモンスターに再生ゲルを与えてみないか? ここらの普通のスライムがドロップするあの毒」
俺の頭の中に浮かんだのはスライムがドロップする再生ゲル。普通に使えば体が再生しすぎて膨らんでしまう。
「まずは、それで膨らんだ体がポーションで治るかを確かめよう」
俺はにやりと笑ってハルにそう告げた。
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