100.兄妹は怪しげな何かに気付く
大変長らくお待たせしました。
昨日無事、コミカライズの配信が始まりました。
『ひびぽん』さんが書いてくださり、かなり素晴らしい出来になった思いますので是非一度見てみてください。
https://seiga.nicovideo.jp/watch/mg498843?ref=nicoms
「はぁ、いやな予感がして帰ってきたわけだが。無事か?」
「うん。特に何もなかったと思う。他の階層にモンスターが溜まってたわけでもなかったしね」
モンスターが発生しなくなった森林に違和感を覚えてから数分。俺たちは地下室に戻りため息をついていた。
今考えてみれば空にいたはずのリムドブムルも消えていたし、その気配が消えたのにすら気付くことはできなかった。
「俺たちが森林に入ったとき、リムドブムルはいたよな」
「他のモンスターを倒してるときもいたよね」
「そのあと魔法の実験をしてるときに消えたのか?」
魔法の実験をしてからはそれに集中してしまい周りを意識していなかった。それはモンスターが近くにくればスキルで察知することができるからであり、そのスキルはモンスターがいないことを一々伝えてはくれない。
「なんもないといいんだが、この前スタンピードがあったばっかりだからな。今日は休んで情報を集めよう」
「そうだね」
時間を見れば11時。ダンジョンに潜るときは昼食を食べないこともあるが、早く帰ってきたのならば作った方がいいだろう。
「俺は、昼食作るから情報集め頼んだ。全国的に同じようなことが起きてたら誰かがSNSに上げてるだろ」
ハルはパソコンを取り出し黙々と調べ始める。ダンジョンの中では電子機器を使うことができない。今SNSに上がっているのだとしたら俺たちよりも早く異変に気付き、帰るという選択をした探索者だろう。
正直、それができる人は少ないと思う。
俺たちの察知系スキルは直接戦闘には関わらない、当たりとは言い難い程度のスキルだがダンジョン探索においてはかなり優秀なスキルだ。
しかし、そのようなスキルを持ち森林のような深い階層に潜る探索者はかなり少ないだろう。
俺たちの持つスキル以上に優秀で戦闘に役立つスキルを持つ探索者など数えきれないほどいるだろうし、強力な探索者はそんなスキルを持っている人の集まりであることが多い。
森林とは、元々仲の良かった人たちが不遇なスキルを抱えて仲良く行けるほど甘いところではないのだ。
「おにい、やっぱない」
「だよな。そもそもうちのダンジョンでしか発生していない現象なのか、他のダンジョンにはそれを察知できる人がいなかったのか」
森林にいる探索者で察知系のスキルを持っている人はおそらく、ほとんどいない。
「実際どっちでもありそうなんだよねぇ。私たちの違和感も気のせいかもしれないんだし」
「まぁ、今日は様子を見よう。この後、ダンジョンから出た探索者の誰かがそう言えばってな感じで思い出すかもしれないしな」
「んー、そうだね」
ハルはパソコンをテーブルの脇に寄せ、後ろに寝転がる。俺も研いだ米を炊飯器の中へ入れ、ハルのすぐ横に座った。
どかされたパソコンを手繰り寄せ、調べてみるがやはりモンスターがいきなり減ったという情報は無い。
前回のスタンピードから日本ではモンスターの発生が幾分か遅くなった。とはいえ、発生しなくなったというのは聞いていない。
スタンピードの直後にはモンスターがほとんど発生しなくなったらしいが数日で回復したのだそうだ。
おそらくその理由は、海外で人が死んだから。
以前俺たちが立てた仮説はダンジョンが人の命を燃料にモンスターを作り出しているということ。だから人がたくさん死んでしまえばモンスターが増えるし、スタンピードが起きてもなお死人が少なかった日本ではスタンピードはあっさりと収まり、モンスターの発生も遅くなった。
「ただ、それだと今回のモンスターが発生しないのは説明がつかないんだよな」
「私たちがモンスターを倒しすぎたからダンジョンがモンスターを作るのを無駄と判断したとか?」
「今更じゃないか? ダンジョンが一般開放されてから、死人なんてほとんど出てない。全国で倒されたモンスターの数に比べたら俺たちの倒したモンスターの数なんて雀の涙だろ」
「だよねー」
頭を悩ませながら、適当に見つけたブログを遡っていく。たった今モンスターが発生しなくなったという投稿を探すのは諦め、過去に同じような事象があったかを調べるためだ。
そのブログを選んだのは、調べた時に上の方にあったから。それだけ。
「お、ダンジョンで黒い服のめちゃくちゃ強い人を見つけたって書いてある。やっぱり俺ら見られてたんだな」
「やっぱり? あ、ほんとだ」
ブログに書かれたのは黒い衣服に身を包んだ女性がモンスターを寄せ付けず倒していたのを遠巻きに見た、という記事だった。
なんとなく恐ろしく感じたのとマナーのこともあって近づかなかったため正体を確認することはできなかったとも書いてある。
「その女性は森林をたった1人で亡霊のようにふらふらと歩いており、襲ってきたモンスターは女性の放った小さなビー玉ほどの黒い魔法一撃で、消し去られていた。なんとも恐ろしく素晴らしい探索者だろうか。私はこの日、岩手で見たこの光景を忘れることは無いだろうだって。岩手?」
「岩手ではその服装してないだろ。間違いじゃないのか」
俺たちが黒い服で入ったのは東京ダンジョンだけだったはずだ。
「いや、しっかり岩手って書いてある。それに私ふらふら歩かないし」
ハルの言葉を聞き、冷や汗が流れるのを感じた。なにか、俺たちの知らない、俺たちと同等以上の力を持つ誰かがいることの証明であることに気付いてしまったから。
twitter始めました。
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