親友
健介は学校に行かなかった。
いや、行けなかった。
里紗がいないという事実を受け入れられなかった。
部屋のカーテンを閉め、閉じこもった。
何もする気が起きなかった。
里紗の事件から一週間後、達也から連絡が届いた。
「おはよう健介。
お前がいちばん辛いのは分かってる
もちろん俺も辛いよ
犯人のこと許せるわけがないよ
なぁ、1度学校に来てみないか?」
達也の気持ちは分かる。
母も妹も心配してくれている。
それに周りのみんなに心配はかけたくない。
でも、それでも立ち直ることはなかなか出来ない。
健介は静かにスマホを机の上に置いた。
その夜、誰かが家を訪ねてきた。
階段を上がってくる音が聞こえてくる。
「健介、達也くんが来てるわよ」
ドアの向こうから母の声がした。
健介はドアを開けた。
そこには心配そうな顔をしたふたりが立っていた。
「健介、久しぶり
体調はどうだ?」
達也の問いに健介は軽く頷く。
母は静かにドアを閉め、1階へと降りていった。
「なぁ...健介」
しばらくの沈黙が流れ、達也が言った。
「里紗を殺した犯人...
あの事件の犯人は近い人物だと思うんだ...
健介、里紗からのプレゼントに手紙が入ってたって言ってたよな?」
「もういいんだ、犯人なんか
犯人を見つけたところで里紗は戻ってこないだろ」
自暴自棄になっていた。
健介は、犯人に向けた殺意も薄まっていた。
「そうじゃないんだ健介
また被害者が出ないようにするためにも
犯人を突き止めるしかないんだ
それが今、里紗にしてあげれる唯一のことなんじゃないか?」
達也は感情が籠ったのか、目に涙を浮かべていた。
「達也...」
里紗のために犯人を探す...。
もうこんな悲惨な事件を見たくない。
それはみんな同じ気持ちだ。
それこそが今、俺達が里紗にしてあげれることなのかもしれない。
「ありがとう達也...
俺らで犯人を見つけるぞ
必ず...」
「ああ、絶対に犯人を許さない」
達也は俺の目を真っ直ぐ見ていた。
「とりあえず、また来るから
俺は俺の方で犯人に関する情報を探すよ」
達也はいつもの笑顔でそう言って帰っていった。
元気のない俺に少しでも笑顔を見せてくれたのだろう。
達也の優しさだった。
「絶対に...見つけてやる...」
俺は今までの自分を殺した。
犯人を見つける。
達也の中で何かが変わった。
健介は、里紗のプレゼントの中に入っていた手紙を手掛かりに犯人を探すことにした。
「犯人は俺のことを知ってるってことだよな...
それに昔からの友よりってことは極めて近い存在のはずだ」
健介は考えた。
俺の昔から友人?
俺は社交的な方だとは思うが、昔からの友達と言えば里紗と達也くらいだ。
それ以外に思い当たる人間がいない。
里紗 と 達也 くらい。
達也...?
た つ や ?
達也が里紗のことを好きなのは知っていた。
でも、達也は里紗が俺のことを好きだと言っていた。
俺も正直、里紗のことが気になってはいたが、3人の関係を崩したくはなかったから達也に言ったことはなかった。
達也が俺に対する嫉妬から殺人を...?
いや、待てよ。
そうだとすると他の事件は関係ないじゃないか。
健介は頭を軽く振った。
全てが疑心暗鬼になっていた。
俺は何故、親友を疑っているんだ。
健介は考え直した。
きっと他に犯人がいるはずだ。
そう思うことにした。
ずっと信じていたかった。
突然なった通知音。
俺はそこに書いてあった事実を受け入れることが
出来なかった。
まさか...あいつが...