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7日目の満月  作者: 井ノ上 成也
6/12

絶望の再会

外は雨だ。

屋根に滴る雨の音で目が覚める。

いつもとは何かが違う朝。

健介は時計を見た。


いつもよりも早く目が覚めた。

昨日はなかなか寝付けなかった。

相変わらず里紗からの連絡はない。


健介はゆっくりとベットから出て、リビングへと向かった。


「どうしたの?なんか元気ないけど?」

母の声も耳に入らなかった。

健介はトーストを一口かじると、残りを皿に残し、バックを持った。

「行ってきます」

玄関に出て靴紐を結ぶ。

リビングの方からまたあのニュースが聞こえてきた。

「怪奇殺人7人目の被害者が発見されました

発見されたのは...」

そのことと里紗を照らし合わすのが嫌だった健介は何も聞かず家を飛び出した。


「お兄ちゃん、なんか様子が変だったね」

「そうねぇ、最近元気ないのよね」

母と妹は健介の様子に気づいていた。

「何があったんだろうね...

あ!お母さんこれみて!」

妹はテレビを見て叫んだ。

母も続いてテレビを見た。

そこに映っていたのは...


降り続く雨のせいもあり、健介の気持ちは沈んでいた。

里紗と連絡が付かなくなってまる2日。

何の手がかりも掴めない。

雨が傘に当たるたびに健介の心は傷んだ。

もし里紗に何かあれば、自分の責任だ。

雨がスニーカーに染みこんで重たく感じる。

気がつくと学校に着いていた。


教室のドアを開ける。

いつもと変わらない賑やかしい教室。

つい先日までこの中に里紗がいた。

そう思うとまた不安が襲ってきた。

「おはよう

里紗ちゃんから連絡きた?」

先に来ていた達也が健介の元へ来た。

「いいや、まだだ」

「そうか...」

しばらくの間、沈黙が続く。

その沈黙は担任の声でかき消された。

「おーい、みんな席についてくれ」

皆はざわつきながらも席に着く。

いつもとは担任の様子が違った。

どこが重苦しい雰囲気に包まれている。

健介は唾を飲み込んだ。

「落ち着いて聞いてくれ...

山田が...山田里紗さんが亡くなったそうだ...」



止まった。

理解が出来なかった。

涙すらも出ない。極限状態の絶望。

予想していた最悪の事態が起きてしまったのだ。

「嘘だろ...

なんで、なんで里紗が!」

健介は勢いよく席を立った。

騒がしくなる教室。

その中でも達也だけは静かに席に座っていた。

「落ち着いてくれ!

先生だって悲しいんだ...

みんなもそうだろうが、今はとりあえず落ち着いてくれ...頼む...」

担任の目には涙が溢れていた。

「あっ、これみて!」

クラスの誰かがスマホを見てそう叫んだ。

みんなが集まって行く。

見てみると、ニュースの掲示板にこう書かれていた。

「連続殺人事件7人目の被害者。

遺体で発見されたのは、町内の県立高校に通う山田里紗さん(18)。前回同様、首元に切傷があり、犯人は同様人物とみて調査中。」

健介は膝から座り込んだ。



気がつくと、雨の中を走っていた。

どうやって学校を出たのかは覚えていない。

家の近くまで走ってきていた。

健介は里紗の死を受け入れられなかった。

きっと悪い冗談に決まっている。

そう思うしか自我を保てる自信がなかった。

「待てよ、健介!」

後ろから達也の声がした。

見ると、健介と同じようにずぶ濡れになって息を切らす達也がいた。

「何でだよ!

なんで里紗が殺されないといけないんだよ!

なぁ!何でなんだよ!」

健介は感情的になり、達也の胸ぐらを掴んだ。

「ごめん...俺のせいだ...

俺がちゃんと家まで送れば...」

涙ぐんだ声で達也が言う。

健介は我に返ると掴んでいた手を離した。

「ごめん...

そんなことない...達也は何も悪くないんだ...

誰を責めたらいいのかわからないこの状況が悔しくてたまらなかった。


その時、近くでパトカーのサイレンの音が聞こえた。

2人はすぐに音のする方へ走った。

やがて、2人の前に人だかりが見えた。

パトカーが何台も止まっていた。

゛立ち入り禁止 ゛

そう書かれたテープが張られ、たくさんの警官がいた。

「どいてくれ!」

健介はその人混みをかき分け前に出た。

そこには...


ブルーシートをかけられたものが横たわっていた。

シルエットが人の形をしているように見える。

「こら!君!何をしているんだ!」

警官の警告を無視して健介はブルーシートを引っ張った。


そこには、変わり果てた里紗の姿があった。

赤いドレスを着ており、首元には大きな切傷があった。

顔は安らかに眠っているように綺麗だった。

「里紗...嘘だろ...里紗...」

健介は叫んだ。

声が枯れてもなお、叫んだ。

警官に腕を引っ張られる健介。

何かに取り憑かれたように暴れた。

「君!公務執行妨害で逮捕するぞ!

とりあえずこっちに来なさい!」

そのまま健介はパトカーに乗せられた。




「それで、君は山田里紗の幼馴染なんだね?」

刑事の質問に対し軽く頷く。

「そうか

この度は本当に残念だった

山田里紗との関係を詳しく教えて貰えるかな?」

健介は黙っていた。

殺す。里紗を殺したやつを必ず俺が殺す。

復讐心で溢れていた。

「無理に答えなくてもいい

落ち着いてから話をしてくれるだけでいいからな

そうだ、山田里紗の遺体が持っていたものなんだが、これは君のかね?」

そう言って刑事は小包を渡してきた。

弱々しく受け取る健介。

小包には「健介へ」そう書かれていた。

開けると中には写真立てが入っていた。

その写真立ての隙間には、手紙のようなものが挟んであった。

「健介へ

お誕生日おめでとう!いつも仲良くしてくれてありがとう

いつもは言わないけど健介のこと頼りにしてます!

これからもたくさん思い出作って、いっぱい写真撮ろうね!


里紗」


そうか、今日は俺の誕生日だったんだ...。

全然気づかなった。

里紗はずっと俺のこと...


目の周りが熱くなり、いつの間にか泣いてしまっていた。

自分ではどうすることも出来ないくらい泣いた。

涙が止まらなかった。

健介は写真立てを里紗だと思い、強く抱きしめた。

そのとき、何か紙切れのようなものが落ちた。

紙を拾い上げる健介。

そこに書かれたものを見て、言葉を失った。

そこにはそう書かれていた。



「中野健介

最も美しい山田里紗を見せてあげる

次は君の番だよ


君の昔からの友より」

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