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7日目の満月  作者: 井ノ上 成也
11/12

懺悔

街外れの寂れた廃墟。

そこで俺は見てしまった。

なぜ助けれなかったのだろう。


商店街で里沙と別れた達也だったが、妙な胸騒ぎを覚え、後を追うことにした。

里沙が立ち寄ったのは商店街の外れにある小さなブティックだった。

里沙が店に入った後、達也はしばらく外で様子を伺っていた。

「いや、これってストーカーだよなぁ…」

達也は足元の小石を蹴飛ばした。

帰ろうと店を背にした達也は悪寒を感じた。

慌てて振り返ると、フードを被った男がブティックに入ろうとしていた。

何か不吉なものを感じたが、気のせいだろうと達也は再び商店街へと戻っていった。


ふらっと寄った駅前の書店で立ち読みをして、外に出た頃には空はうっすらと暗くなっていた。

「もうこんな時間か」

達也はバックを背負い直し、家路へと急いだ。

途中、横断歩道の信号待ちをしていた達也はふと道路を見た。

通りかかった白い小型のバン。

その中にいたのは、口をテープで塞がれた里沙だった。

何故里沙が!?

いや、きっと見間違いに決まってる。

一瞬でそう思った達也だったが、得体の知れない恐怖が襲ってきた。

気がつくと里沙にRINEを送っていた。

「里沙ちゃん、今どこにいる?」

しかし、里沙からの返事はない。

何か大変なことが起こっている。

そう感じた達也はバンを追っかけた。


バンを見失った達也だったが、それでも走り続けた。

最後にバンを見たのは一本道の入口だったので真っ直ぐにしか行けない。

気がつくと街の外れの山奥に来ていた。

襲いかかる謎の恐怖感が達也の足を止めなかった。

追いかけるのをやめると里沙に会えなくなる気がする。不思議とそう感じた。


しばらくして辿り着いたのは街外れの廃墟だった。

地元でも幽霊が出るとか、殺人事件が起きたとか噂がたっていて誰も近づかないような場所だ。

廃墟の脇には、里沙を乗せていたはずであろう白い小型バンが止めてあった。

車の中には誰も乗っていなかった。

達也は唾を飲み込むと、ゆっくりと廃墟へと足を踏み入れた。

もう長く使われていなかったのであろうこの場所は、コンクリート作りの床を踏みしめる度に足音が妙に大きく響く。

人気を感じることもなく、静まりかえった薄暗い廊下を達也は進んでいった。

しばらく進むとボソボソと人の話し声が聞こえた。どうやら正面にあるホールから聞こえる。


ホールのドアは半分が老朽化しており、達也はその間から中の様子を伺った。

そこにいたのは真っ赤なドレスを着て椅子に縛られている里沙だった。

そんな状態の里沙の目の前にはフードを被った男。中は蝋燭の灯りがぼんやりと光っていて、薄暗く顔は見えなかった。

その男が里沙の首筋にカッターナイフを当てる。

「憧れの君を僕のものに出来るなんて嬉しいな

世界で最も美しい殺し方にしてあげるからね」

男はそういうとカッターナイフを振り下ろすた。

噴き出した真っ赤な里沙の血。

木霊する叫び声。

狂ったように笑う謎の男。

目の前で起こっていることが理解出来なかった。

見たくない。だけど、目を離すことができない。

出血が多くなるにつれてどんどん目が虚ろになっていく里沙。

首をだらんと傾けた時、目が合った気がした。

助けないと!そう思っているのに足が動いてくれない。

達也は声を押し殺して、後ずさりをした。


気がつくと走っていた。

怖かった。目の前で起こっていることが夢であってほしい。

なんかの間違いに決まっている。

涙を流しながら達也は走った。

ひたすらに逃げた。


家の近くの公園まで走り、達也はベンチに腰掛けた。まだ震えが止まらない。

恐怖に加え里沙を見捨てた罪悪感が達也を襲った。

何故助けれなかったのか。

達也はベンチに強く頭をぶつけた。

自分の不甲斐なさを恨んだ。


そう、達也は里沙が殺されていたことを知っていたのだ。

健介に会ったあの朝に。

しかし、それを誰にも伝えることができなかった。あの日の出来事を見なかったことにしたかった。


目が覚めるとあの廃墟にいた。

里沙が殺されたあの場所だった。

達也は手足を縛られて床に転がっていた。

ぼんやりと灯る蝋燭の光を頼りに達也は周りを見渡した。

里沙を殺したのは健介なのか?

いや、でも俺を殴ったのは健介に似た違う誰かだ。健介のはずがない。

もがく達也の前にフード姿の男が現れた。

「お前は白石達也だな…?」

男はそう言った。

声は完全に健介だった。

「お前は健介なのか?

なんでこんなことするんだよ!?」

達也は男を睨みながら叫んだ。

「お前、山田里沙が死んだあの晩…

見てたよな?

なのに逃げちゃったもんなぁ…

あの時お前が助けていればもしかしたら生きてたかもなぁ…」

男は不気味な笑みを見せながら言った。

達也は唇を噛んだ。

この男の言う通りかも知れない。

あの時里沙を助けていれば、もしかしたら里沙は…。

悔しさで涙が溢れた。

「君は罪人だよ

見殺しにしちまったからね

だから君には僕から罰を与えるよ」

男はそういうと手に持っていた蝋燭で達也の前方を照らした。

そこには手足を縛られて猿ぐつわを噛まされた知春がいた。どうやら気を失っているようだ。

「やめろ健介!

知春ちゃんは妹だろ…?

何でこんなことするんだよ!」

達也は手足をばたつかせながら叫ぶ。

「お前の罪の重さ思い知るといい」

男はポケットからカッターナイフを出すと、千春の首元にナイフを当てた。

その時、知春が目を覚ました。

状況を飲み込めない知春は恐怖の限り叫んだ。

「黙れ!」

男は知春の頬を叩いた。

「やめろぉ!」

縄の結びが甘かったのだろう、辛うじて力を振り絞り縄を引きちぎった達也は男に殴りかかった。

「里沙ちゃんを見捨てた俺は最悪だ…

だから今度こそは知春を見捨てるわけにはいかないんだよ!」

殴られた男は床に転がる。

達也は急いで知春の肩を抱き抱えた。

「知春ちゃん!ここから出るぞ!」

知春を無理やり立たせようとした達也の右腕に激痛が走った。

見ると肘から下が消えていた。

振り返ると男はナタのようなものを持っていて血走った目でこちらを見ていた。

「あぁ…腕が…俺の腕…」

知春と共に倒れ込む達也。

男は達也の転がった右腕を踏みつけた。

「俺を殴ったな?

お前は絶対に許さないからな」

今まで冷静だった男に怒りが満ち溢れているのを感じた。

男はナタを捨て、カッターナイフを握り直すと達也の首筋に当てた。

健介ごめんな。

里沙ちゃんを見捨てた上に、知春も助けれなかった。

本当にごめん、健介。

達也は痛みなのか、悔しさなのか、自分でも分からない涙を流した。

そんな達也に男が囁いた。

「最後に一つ教えてやるよ

俺は健介ではない」

そう言ってフードを外した。

その顔は、達也が今までずっと一緒にいた健介だった。

「健介」

鋭い摩擦と共に開けられた傷口からは濁った血が噴き出した。

男はみるみると血に染まっていった。


漆黒の闇に浮かんだ月は、達也の目に残った涙を照らした。

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