違う男
健介と別れた達也はそのまま学校へと向かった。
その途中、見たことのある制服姿を見つける。
後ろから声をかけてみると、健介の妹の知春だった。
「あ、達也くんおはよう」
いつもとは違い元気の無い知春。
里紗のこともあり、健介があの状態ならそうなるのも無理はない。
「おはよう知春ちゃん
今は大変だよね...
俺に出来ることあったら言ってな
俺なんでもするからさ」
達也は無理に微笑んだ。
「ありがとう達也くん
お兄ちゃんのことよろしくね」
知春はか細い声で言った。
達也はうなづくと、知春に別れを告げた。
知春と別れた達也はいつもの通学路を歩いていた。
ふと前方に現れた人物。
見たことのあるその人物は達也へと近づいてくる。
「け、健介!」
そこにいたのは健介だった。
「お前、さっきまで家に...
無事なのか?」
健介は明るく微笑みながら言った。
「達也じゃないか
さっきはありがとな
ところで知春を見なかったか?」
「え...あ、知春ちゃんならさっき会ったけど...」
達也は不審そうに答えた。
「そうか
ありがとう、助かったよ」
ポンと達也の肩を叩き、立ち去る健介。
達也は妙な違和感を感じた。
確かに顔も声も健介だ。
でも...健介とは何かが違う...。
達也は健介を呼び止めた。
「おい!お前本当に健介なのか...?」
すると健介は微笑んで言った。
「何言ってんだよ
お前の昔からの友達の健介だよ」
立ち去ろうとする健介。
達也はしばらくの間、突っ立っていた。
あれは健介じゃない。
見た目は健介だけど、違う人間だ。
不吉な予感がした達也は健介の後を追った。
健介は知春の手を引いて、学校とは真逆の方向へと向かっていた。
どこか困惑そうな顔をしている知春。
達也は2人を呼び止めた。
「健介!知春ちゃん連れてどこ行くんだよ…
学校なら向こうだぞ?」
健介は微笑みながら言った。
「知春と帰るんだよ
達也、お前も一緒に来るか?」
達也には健介の言葉の意味が理解出来なかった。
帰るってどういうことだ?
なんでわざわざ知春を…?
何か言いたげな表情を浮かべる知春。
その時だった。
健介の手に何かが見えた。
棒のようなもの。
この瞬間、達也は目の前にいる男が健介じゃないことを確信した。
「知春ちゃん!そいつから離れろ!」
が、しかし。
遅かった。
知春は持っていた鈍器で頭を殴られる。
その場に倒れ込んだ。
急いで知春のもとへ向かう達也。
すぐに声をかけたが知春は気を失っていた。
頭からはドクドクと血が出ている。
このままでは危険だ。
「お前は誰だ!健介に何をしたんだ!?」
達也は目の前の男を睨んだ。
「教えてやるよ」
男は不敵な笑みを浮かべ、達也に近づき、持っていた鈍器で殴った。
気を失う達也。
その中で達也は自分の犯した罪を後悔していた。