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異世界でも僕は僕を犠牲にする  作者: 春野並木
プロローグ~出会い~
10/20

自己犠牲4

ストーリーの1部を変更しました。

大変申し訳ありません!

 日の出と共に目が覚めた。目覚まし時計も無ければ、鳥の歌声だって聞こえない。なのに目が覚めた────早すぎる朝。まだ、日は半分くらいしか出ておらず、少し肌寒い。


  村人もまばらになっていき、そろそろ錠を取ってもいいかなと思い始めていた。


  後、三時間もしたら完全に人は居なくなるだろう。その時に動く事にした────そこからが本番だ。



 ________________




  爽やかな木々の香りを風達が運んでくる。それに煽られ、頬に薄緑の草花が踊りるように揺れ、鋭く尖った剣が時々私の頬を掠めた。


  私は今日死ぬのだ。最後くらい楽になってもいいだろうと思い、私は草原で横になって雲の行方を追っていた。


  幸い今日は晴れている。日向ぼっこにもいい天気だ。


  「将太さん……貴方は悲しんでくれますか? 私は最後に貴方に会えてよかったですよ……」


  太陽の光は母に包まれた様に暖かい。私は母と言う者がいた事が無いから分かるはずも無いのだが。

  そんな中、私は目を瞑り、振り返る。


 悲しみを、喜びを、苦しみを、幸せを。全てを振り返り、復唱する。そうして見ると、案外、私の人生も捨てたものでは無かったかもしれない────最後になってそんな気がした。



 ________________




  太陽が天頂を通過しようとしていた頃、僕は午後を全て使って本屋を探していた。本というのは、技術の発達していない場所では重宝される傾向がある。その為、大きな建物を中心的に探していたら、案の定、お昼を回る前に発見する事が出来た。


  どの本も黄ばんでいるが、埃は被っておらず、丁寧に手入れされているのは一目瞭然だった。


  僕が彼女を救うには、情報が少なすぎた。故に本なのだ。もうあんな出来事は繰り返さない為にも、石橋は叩きに叩いて渡る。叩き過ぎて割れてしまうくらいに。僕は何をしようと彼女を救い出そう。


  僕は知れるだけの情報は仕入れたと思う。まずはヘルハウンドの弱点と対策法である。余り、目ぼしい物は見当たらなかったが、弱点が弱点なだけに新たな対策法は見い出せた。後はこの作戦が通用するかどうかだ。


  後は実践あるのみだ。その決意と共に本を閉じた。


  微糖のコーヒーを尚、濁らせた様な色の扉は木目も見えないほどにすり減っていた。そんな扉に手を伸ばした瞬間、先程まで、僕のいた位置から声がした。


  突然の事でアニメの主人公なら後ろに咄嗟に後退し敵対するのだろうが、素人の僕は肩が一人でに飛び跳ねる事しか出来なかった。


  「君が欲しがっている情報をあげようか?」


  その能天気で人気は明るい声に見覚えは無かった。


  「なんの事でしょうか」


  背後を振り替えながら答える。そこにはカウボーイハットを全体的に小さくした、ホンブルグハットと言うんだったか、西洋風の帽子を被った、首筋まで伸びた金髪、スっと透き通った鼻に、薄い唇。整った西洋風の顔立ちをした。陽気な二十代半ばの男性がいた。


  顔立ち的には二十代なのだが、どこか年齢不相応な雰囲気があった。────私はなんでも知っている。そう言わんばかりの。そんな雰囲気


  こいつには関わってはいけないと、咄嗟にドアノブを握り廊下に出ようとした──が、次に発した彼が言葉が僕の体を捕まえた。


  「悪魔、情報を知りたいんでしょ? 私ならこの情報を提供出来るよ? どうする?」


  そう。どうしてか、どの本にも悪魔に関して決定的な解説はされていなかった。だが、何故、彼はその事を知っているのだろうか……彼はどこまで知っているのだ。


  「条件は……?」


  「ふふっ、物分りがいいね。そう言うの好きだよ。条件は至ってシンプル! 君ついて教えて欲しいのさ!」


  それは、乗るには危ない橋すぎた。相手が嘘をつくかもしれない。僕も嘘を付けばそれでいいだろう、と思うかもしれないが、それは通用しないだろう──圧倒的に僕に不利な条件だった。


  「ふふっ、私が嘘をつくと思ってるでしょ? 鋭いよね! そんな事だろうと思ったから実は本がある。これなら信用して貰えるかな?」


  先と述べたが、紙というのは実に貴重である。技術の発達していない時代ではかなり貴重し代物である。だが、そうすればこちらにとってかなり有利になる。僕は嘘をついてもいいのだから。


  何を彼が考えているのかが、さっぱりだ。だが────ここは呑む以外の選択肢は無かった。


  「分かりました。呑みます」


  「よし! 条件成立だ! 君が物分りが良くて本当に助かったよ!」


  彼は薄い唇を上に吊り上げ、ニヤリと笑うと、僕に本を差し出した。


  カビ臭い薄緑の表紙。それを手に取り、黄ばんだ紙を丁寧に、一枚一枚めくる。


 ────後悔した。激しく後悔した。


  その本は、どのページを捲っても捲っても真っ白だった。いや、黄ばんでいたから真っ白では無いのだが、何も綴られてはいなかった。


  「惜しかったねー! 最初の方は良かったのにー油断しちゃったね! でも、もう無しって言っても遅いよ? 交渉は成立しているからね! 」


  騙された。僕とした事がとんだ凡ミスだ。彼は一度も悪魔についての本とは口にしていない。彼は本があるとしか。


  「では、始めようか。悪魔って言うのはね────」


  「以上だよ。故にモンスター等も危険な者だけど、正直、今のこの国では悪魔の方が危険視されてる。 他に質問はあるかな?」

 

  「いいえ……」


  「じゃあ、次は私の番だね! じゃあ行くよ!」


  彼は懐から窓から射し込む光に当てられて、異様な明るさを纏った、白光に輝く短刀を僕に向けて突き出す。距離は警戒して五メートルは離れていたはずなのに、彼の顔はいつの間にか僕の目の前にあった。


  僕のお腹からは鉄の臭いの黒赤色の液体と、眩しいくらいに輝く短刀がすっぽり収まっていた。


  「うっ……ぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

  次の瞬間、僕には先程までは短刀を収めていた腹は細長い穴が空いていた。


  「危ない、危ない! あとちょっと遅れてたら抜けなくなってたよ! 本当に回復早いねぇ!」


  滝のように流れていた血は、いつの間にか小粒の雨ほどに減っていく。そして、次の瞬間にはもう止血していた。残ったのは刀がすっぽりと収まるほどの穴だけだった。

 

  「本当に、面白い体質だねっ! ふふっ! 私からはこれぐらいでいいさ!」


  血が止まったとは言え痛みは続く。激痛に悶えながら、これで終わってたまるか、と最後の悪足掻きをして見ることにした。


  「お前は……誰だ……」


  「あー確かに、私だけ知ってるってのも不平等かもねー、私はね、周りからは『脚本家』『情報屋』『観察屋』なんて呼ばれ方をしているよ」


  それは不平等な回答だった。結局は名前は聞けなかったのだから。だが、それでも二つ名、あだ名、呼び名が分かっただけでも収穫だろう。


  「あっそれと忘れてたけど、君の事探してる女の子がいるよ? 名前なんだっけなー……あっ、神奈ちゃんだっけな!」


  その時、僕は痛みを忘れて走り出していた。扉をを開け、学校の廊下を連想させる長い廊下を真っ直ぐ駆け抜け、もう一度、先程と同じような茶色く濁った扉を開け放つ。

 

  外に出ると、もう既に太陽は大きく西に傾き、赤く大地を照らしていた。そして、そこには時を見計らったかのように神奈がいた。


  彼はどこまで知っているのだろうか。どこまでが彼の計算通りなのだろうか。


  「将太! すごい探したのよ! 捕まってたのかとおも……っ! どうしたのその傷! すぐ手当しなきゃ!」


  「神奈、大丈夫、すぐ治るから。それより何で逃げてないの……早く逃げて!」


  「将太を置いて逃げれる訳無いじゃない! 手当するまで逃げないから! 良いから体貸して! 将太疲れてると思って元から布団のある場所準備してたの!」

 

  そう言って、僕の体を悠々と神奈は背負った。それもそうか。彼女も例外なく力を与えられているのだから。


  着いたのは埃や蜘蛛の巣があちらこちらに見え、お世辞でも綺麗とは言えない家だった。扉も他の家とは違い引き戸だった。


  中に入ってもそれは同じで、布団だけが綺麗に整えられていおり、家の雰囲気に似つかわしく無かった。


  「将太、取り敢えずここで寝ててね! ちょっと包帯とか取りに行ってくるから!」


  神奈は僕をベッドに寝かせ、そそくさと外に出ていった。


  本当に疲れていたのだろう。僕は深く深く目を瞑った。この時に気が付いてもよかった。伏線はいくらでもあったのだから。


  木が擦れる音と共に足音がこちらに近付いてくる。神奈が帰ってきたのだろう。僕は体を起こそうと目を開けた時だった。


  そこには黄色い閃光放つ、一種の気絶具があった。皆がいう所のスタンガンだ。


  それは閃光を放ちながら、僕の首元目掛け飛んできた。


  僕はすんでのところで首を右に逸らし、避け、すかさず右に身体を捻って転げ落ちる。


  神奈は慌てず僕の逃げ道を塞ぎ、負けじと気絶具を僕に突き出す。


  それを避けようと両手をついて、立ち上がろうとした時だった。片腕が無かった。こんな大事な時でもミスをしてしまった。いつもそうだった。『詰めが甘い』とよく言われたものだ。案の定、そのままバランスを崩し無防備な体制になる。


  この絶好の機会を逃す神奈では無い。すかさず気絶具を僕の首元に強く押し当てた。


  「うっ…………」


  強い痛み、痺れと共に睡魔が襲ってきた。いや、睡魔では無いのだろう。


  僕は寝てはいけないと、何度も、何度も、自分に言い聞かせる。


 ────まだやらなければならない事があるんだ。嫌だ、と。だが、目はそのまま重くなる。意識は段々と薄れていき、最後に神奈の悲しい顔だけが目に入った。


  「神奈……どうして……」


  「ごめんね……もう、将太が傷付くのなんて見てられない……」


  銀色の鱗が彼女の頬をつたって地面で弾けた。


  僕の記憶はここで途切れた。


  神奈は決意と共に将太を縄で縛る。その姿はまるで、蛹であった。これだけでは終わらない。神奈は外に出て、予め準備していた木の棒で引き戸を支えた。これで将太は出れないだろう。


  神奈は赤く染まった夕日に照らされながら門に向かって歩き始めた。

 


 ________________




  同時刻、門のから三百メートルほど離れた草原で、彼女はゆっくりと腰を上げた。


  「そろそろでしょうか……欲を言うなら……もう一度、将太さんに会いたかったな……いいえ、駄目です。最後に会えたのがあの方であっただけでも満足しなければ……」


  徐々に日が暮れる。夜に近づくにつれ黒い羽毛で体で覆う化け物もその数を増やしていた。終わりはあと少しで訪れる。


  もし、もしも、違う所で彼に出会えていたら、それでも貴方は私を助けてくれていただろうか。

 

  愚問だった。

  助けてくれただろう。彼はそういう性格だ。



 ________________




  こちらも同時刻、場所は門前。


  俺らは斧からスコップ、武器になりそうな物は所構わず集め、一人一人、数々の野望を胸に、この戦場に赴いていた。

 

  俺は名誉と地位の為だ────と睦は改めて確認する。確認と言うよりは確信。確認と言うよりは確定。


  これから始まる戦いがどれほど過酷な物かは知らないが、俺達には圧倒的なまでの武力がある。ヘルハウンドすら一撃で倒す程の……この程度、おままごとの域を出ない。


  「おめぇら!行くぞ!」


  『おう!』


  一斉に声を上げる。


  中には余り気の乗らない顔をしている奴もいるがそんなのどうでもいい。そんな奴は早くに死ぬだけだ。俺は、俺の為に戦場にいる。後はどうなろうとどうでもいい。


  「さぁ!来いよ化け物共!全員まとめてぶっ殺す」



 ________________




  神奈が去ってから約三十分後、僕は目を覚ました。


  腕も足も拘束されまるで蛹である。自由なのは口だけだった。


  ドアから微かに漏れる光から、まだ夜では無いことは分かったが、もうすぐ始まってしまう。時間はもうない。早く、早く行かなければ。


  嫌だ、嫌だ、また失うのは嫌なんだ。もう後悔したくない。もう……嫌なんだ。喉が詰まって息苦しく、苦痛と後悔が脳をぐるぐる回って止まらない。


  「クソがっ!何でだよ!何で……何で何だよ!クソがぁぁぁぁぁぁぁっ!」


  お腹にあった傷は治っても出てきた涙は収まらない。


  また同じ事を繰り返してしまう。自分無力さに、この世界の残酷さに、また僕は……嫌だ、嫌だ、さちと約束した。ココさんと約束した。蕾さんと約束した。助けると、僕は、僕は────。


  喉から血が出るほど叫んだ。


  「ぁぁぁぁぁぁぁっ!動けぇぇぇぇ!」


  叫んでも動く筈も無かった。


  何でこうなった。どうすればいい。いつまでなら間に合う。どこに行けばいい。何で、何で、何で、何で、何で。


  「全く、うるさいね……君は……ちょっとは静かに出来ないのかな?」


  そこには、先程の西洋風の男が立っていた。彼の顔は先程の能天気な雰囲気とは違い、真剣そのもので、怒っているような、試しているような、そんな威圧感があった。


  この男の登場は神の悪戯なのか、はたまた恩恵なのか、罰なのかは僕には皆目検討も付かなかったが、僕にはこの男に頼るしかなかった。それ以外選択肢などある筈も無かった。


  「助けて下さい……お願いします……」


  「助けて欲しいか……いいだろう……私はその為に来たようなもんだしね……ただし、この借りは高く付くよ?」


  この男はどこまで分かっていたというのだろうか。だが、そんなの今はどうでもいい。今はココさんを助ける事だけを、それだけを考えよう。


  「分かりました……」


  彼は懐からナイフを一つ取り出し、蛹に巻き付く糸を難なく切りほどいた。


  「分かった。この代償は次会う時に返してね」


  僕は縄というしがらみから解放され、勢いよく走り出した。


  まだ間に合う。まだ日は落ちていない。もう後悔したくないのだ。


  腕が取れてしまうのでは無いかというほど振った。足が折れてしまうのでは無いかと言う程、走った。


  空はもう赤を超え、紫に変わっていた。星もあちらこちらに見え始め、戦いの始まりを予見している。


  戦いの時は近い。


  僕は額に汗を浮かべ、眉を吊り上げ、歯を噛み締め、走り出す。


  「君は……一体いつになったら気付くのかな……」

 

  彼は真剣な表情のままペンを取り出し、物語を綴り出す。ペンは止まることは無い。



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