初対面なんですけど……
濃ゆくもなく、淡すぎるわけでもない赤色の短めな髪。
リンネより背は若干低いが年は同じぐらいだろう。
流石は異世界。テレビで見るような女優やアイドルとは全く異なる、スタイルと顔立ち。
キッ、と睨むそんな顔もとても愛らしい。
「『バインド』!」
スタスタと歩み寄りながら右手をリンネに向け、魔法を放つ。
「っ!? うご、かない」
聖なる光のような輪がリンネの上半身に巻き付く。相手の行動を阻止する魔法。
少女はリンネの目の前で足を止め、腕を胸元で組み、仁王立ちする。ちなみに上目遣いである。
「貴方っ! まさかあいつらの仲間じゃないでしょうね!」
少女が指差したのは警察的な人たちに捕まった三人の男。言い掛かりもいいところだ、顔はいいのに。
「ち、違いますよ……。俺はただそこを通りがかった田舎の冒険者? でして」
「何で疑問符が付いたの? 怪しいわね……」
誰だってそうはなる。
通りがかっただけだ。嘘偽りのない本当の言葉。この子疑い深いな、スタイルいいのに。
「じゃあどうしたらいいんすか?」
「うーん、そうね」
腕組みをしたまま小首を傾げて考え始める少女。
リンネへの要求を何にするのか決めているのだろうか。
この子何考えてんだ、可愛いのに。
「私と暮らしなさい」
「何が目的だ!」
いつの間にか解けていた魔法に気づきながらも、少女から離れるためにリンネはバックステップ。すかさずファイティングな構えをとる。
「何、って決まってるじゃない。悪者かどうかを、一緒に暮らすことによって暴くのよ?」
さぞ当然の如く冷静に物申す少女。約0.5秒の間、リンネの脳内がフルに動き出す。
・一緒に暮らす即ち女の子の家に行く。
・美少女と一つ屋根の下、男なら叶えたい夢。
・しかしこの子はダメな空気が漂ってくる。
・俺が寝ている間に……俺は死ぬのではないか?
そしてもう一つ思い出した。
あれは、確かリンネが中学二年の時。他クラスの好きだった女の子、久美ちゃんが「今日、体育館裏に来てくれる?」と、真っ赤な顔をして言ってきた。告白だろうか、と淡い期待はやめた方が良かったのかもしれない。彼女は裏女番長だったらしく、体育館裏に行ってみるとそこには嬉々とした表情の久美と、数名の不良生徒がリンネを……。
後は言わなくても分かるね?
十ヶ月ぐらい疑心暗鬼になっちゃいました。
そんなリンネは涼しい顔をした少女目掛けて叫ぶ。
「名乗らないやつは大体怪しいと相場は決まっている! もう一度問おう、何が目的だ!」
「……はぁ。私の名前は『シャルロット・ネイル』。目的は先ほど申した通りです。それでは貴方のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
苛立ちを隠すためなのか急に敬語になる少女、改めシャルロット。女子が急に敬語になるのはやばいと昔、彼女にボコボコにされた先輩が言っていたことを思い出したリンネは深々と頭を下げる。
「私はアマウミ・リンネと申します。名はリンネ、性はアマウミ。過去に膨大なトラウマがあるため、疑心暗鬼の神様レベルです」
「よろしい、では行くぞ」
可愛らしく頷いたシャルロットは話がまとまったとばかりにリンネの手を引き自分の家に向かう。当の被害者は目の中の光が失われたまま無の心でされるがままである。