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少女、塔へと向かう


 長いこと歩き続けていると、次第に森のような、木が生い茂った所へと景観が変わってくる。空を見上げると、また少し雲行きが怪しくなってきていた。

 人の手入れがあまり無いようで雪がしっかりと積もったままであり、フォクは楽しげであったが、ルハにとっては歩くのが大変であった。


『ルハ、遅いぞ。もっと、さくさくと歩けるはずだろう』

「くっ……フォクと同じ運動能力を求めないでよ……」


 膝ほどまで積もった雪の中で歩き続けるのに、意外に体力が必要である。

 ルハの少し前方を歩いていたフォクが、急にぴたりと止まる。


『ルハ、見ろ』

「え?」


 フォクの視線を辿ると、地面が剥き出しになった一つの道が出来ていた。多く雪が降り積もる中、不自然にその辺りだけ雪が無いのである。

 ずっと長く続いているようで、片方は街の方へ、もう片方の先はずっと“シキノトウ”の方角へと伸びている。

 

「これ、……明らかに人が通っている跡だよね」


 ルハを見ると、フォクは人間の如く上下に顔を動かして頷いた。フォクは視線を戻し、体全体を使って雪を掻き分けて進んでいく。それに倣って、ルハも後に続く。

 歩き慣れない雪の積もった道無き道よりも、何十倍も足が軽くなる。フォクはぶるぶると体を震わせて、体についた雪を振り払う。

 静かな、冬の森。耳に響くのはさわさわという木々のざわめきだけであった。


「フォク、この道を辿っていこう。このまま雪を掻き分けて行けば、シキノトウに着く前に体力を使い果たしちゃうよ」

『しかし、あの男は《遠巻きに見ることぐらいなら》と言っていた。シキ国の季節に関わるシキノトウに加え、頻繁な人の往復が伺えるこの道』


 そこで一旦言葉を切り、フォクはじっとルハを見上げた。


『シキノトウには、重要な何かがあると私は踏んでいる。要するに、この通れと言わんばかりの道よりも、雪の中を隠れて進む方が良いと思う』

「えー……」


 最もに聞こえる提言だが、ルハは露骨に嫌な顔をする。フォクは良いとしても、雪の中を歩くのはルハにとって容易ではない。

 シキ国に来るまでに嫌という程雪の中を歩いてきたルハとしては、それだけは是が非でも避けたかった。


『嫌ならば、代替案を提示するんだな』


 まだまだ機嫌が良いとはいえないフォクの言葉に、ならばとルハは思考してから口を開いた。


「フォクは、シキノトウの中を見たいけれど、見張りの騎士とかが居たら入ることができない。だから雪の中を隠れて行きたい。そういう事?」

『うむ。ま、そういう事だ』

「……それだったら、より確実に見たいなら、フォク一人で行った方がいいと思うんだ」

『……どういう事だ?』


 首を傾げるフォク。上手く興味を惹きつけられたようで、ルハは口元に少し弧を描く。そのまま、畳み掛けるように続きを口に出した。


「二人で居たら、……どう頑張っても目立つだろう? このまま私はこの道を歩いて、フォクが雪の中を歩いて行く。もし見張りが居たら、私が引きつけておくからその間にフォクが中の様子を探る。そちらの方が良い気がするんだけれど、どう?」


 挑むかのように、ルハはフォクへと視線を投げ掛けた。真っ直ぐとした視線が、返ってくる。


 育ての親、と言っても過言ではないフォクに、ルハは様々なことを叩き込まれてきた。木の登り方から、武器の使い方、話方、思考の仕方もその一つである。

 全てにおいてこのキツネはルハの師であり、ルハにとってはいずれ乗り越えなければならない(かべ)であった。


 数秒間、(しじま)の中で視線だけが交差する。


 その静寂を破ったのは、ふっとフォクが笑ったかのように吐き出された声であった。


『……良いだろう。では、そうするとしよう』

「!」


 それだけ言うと、驚きで、ルハが目を見開いている内に、フォクはぴょん、と飛び跳ねて脇に降り積もった雪の中に埋もれて行ってしまう。

 ルハは突然の展開にぼうっと様子を見ていたが、はっと我に帰るとその顔に溢れんばかりの笑みを浮かべる。


 伊達だてに十数年、一緒に居るわけではない。

 直ぐに雪の中へ行ってしまったのは恥ずかしいから。あの言葉は、口下手なフォクなりの最大限の賛辞。

 全て理解しているルハは、にやにやと口が緩むのを抑えられずに上機嫌で足を進めていく。


 しかし、それに気がついたフォクが気恥ずかしかったのか、はたまた気を引き締めろという警告か。二、三歩歩いたところで、たくさんの雪玉がルハへと投げつけられたのだった。


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