表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

少年、目が醒める


 ぼんやりとした視界に、何かが映った。

 暖かい。

 ぱちぱちと弾ける音。


 様々な感覚を認識し始めて、急激に意識が覚醒した。半身を起こし、周囲を見渡す。暖炉に火が焚かれ、天井は(はり)が剥き出しになっている。部屋には誰もいないようで、自身以外の人の気配はしなかった。


「う……」


 小さく呻くような、幼い声が出る。寝台(ベッド)から降りて立ち上がると、未だにくらくらとしているような、酩酊感めいていかんに襲われる。思わず、ずさりと床に座り込んだ。


 吸って、吐いて、吸って、吐いて。

 ゆっくりと呼吸を繰り返していると、容体がだいぶ落ち着いてくる。


「はぁ……はぁ……」


 立ち上がろうとしたところで、部屋のドアがキィィイと開いた。驚いた顔を引っ提げた、恰幅かっぷくの良い伯母さんが立っていた。


「あぁ!! 目が覚めたのね!!」


 そう言うと、伯母さんは嬉しそうに顔をほころばせたのだった。






 誰かもわからない、人の良さそうな伯母さんに促され、共に階下に降りると食事を用意してくれた。

 椅子に腰掛けると床から足が離れ、ぶらぶらと手持ち無沙汰な感覚がした。美味しそうな野菜とお肉、カップから湯気の立つミルク。

 いい匂いがすると、急激にお腹が空いていることを体が主張し始めた。


「お腹減ってるでしょう? どうぞ、食べて」

「はい。ありがとう、ございます」


 いただきます、と言ってその小さな両手を合わせるとカップに手を伸ばし、ホットミルクを口に含んだ。暖かく、優しい味が口の中に広がる。心まで暖かくなったような、そんな気がするほどだった。


「いいのよ。あなた、名前は?」

「名前……。俺の名前は、シオン、です」


 眠り続けていた少年――シオンは、そういうと野菜を口に入れる。体が栄養を欲しているようで、その後も次々と肉や他の野菜を食べる。


「そう、シオン君ね。あなたは、雪の中で倒れていたんですって。何か、覚えていることはあるかしら……?」

「……」


 ごくり、と口に入っていた食べ物を飲み込むと、すこしシオンは考え込んでから口を開く。


「あまり、覚えていないです……」

「そう。今は居ないけれど、この宿に泊まっている女の子があなたを助けてくれたのよ。後でお礼を言うと良いわぁ」

「はい」


 そう話している間に、出された食事の粗方をシオンは胃に収めてしまっていた。


「あらあら、よっぽどお腹が減っていたのねぇ。お代わり、いるかしら」

「少しだけ、ください」

「ええ、持ってくるわ。雪の中で倒れていて、長く眠っていたんだもの。栄養を取り込まなきゃ、ね」


 柔らかな笑みを浮かべてから、伯母さんはお皿を持って野菜や肉を取りにへと立ち上がる。


 伯母さんを見送ると、シオンはじっくりと部屋の中を見渡した。

 机、椅子は共に質素な木造りで、使い込まれているのか角が丸くなっている。暖炉ではぱちぱちと音を立て、火が揺らめいていた。

 ここでも人の気配は感じれず、宿と言っていたが繁盛はしていないらしい。やはり、天候不順(てんこうふじゅん)ならぬ季節(きせつ)不順(ふじゅん)の影響は大きいようだった。


 そんなことを見渡しながら考えていると、伯母さんがお皿を手に戻ってきた。


「はい、お待ちどうさま」

「ありがとう、ございます」


 おずおずと小さく頭を下げてから、シオンはお代わりをぱくぱくと口に放り込んだ。

 その様子を、微笑ましそうに伯母さんはじっと見つめている。


 ぺろりとこれまた全てを平らげると、シオンは(ぬる)くなったホットミルクをゴクリと飲み干す。

 両の手をを合わせて、ごちそうさまでした、と呟いた。


「お腹、いっぱいになった?」


 伯母さんの言葉に、こくりと頷いた。

 食事をとったからかどうかは分からないが、シオンの重かった身体も今では幾分か軽くなり、気分の悪さもなくなってきていた。


「そう、よかったわぁ。とりあえず、シオン君のお母さんとお父さんを探さないとね。見つかるまでは、ここに居ていいから」

「はい」


 柔らかな口元に弧を描いて、シオンは返事をした。床に着かず心許ない足をぶらぶらとさせながら、優しい宿屋の主人に感謝した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ