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少女、街を見聞す


 ぱちぱちと暖炉の火が音を立てていた。ルハは伯母さんの言葉に目を見開く。


「行方不明、ですか」

「そう、行方不明。“宣言”は、それぞれの季節(キセツ)を司る女王、今で言うと(フユ)の女王・スノーホワイト様と(ハル)の女王・チェリスフロウ様のお二人の言葉が必要なの」

「変わる前の季節と、後の季節を司る女王様のお言葉が必要だ、と。だけど、チェリスフロウ様が行方不明になってしまっているから“宣言”が出せない……」

「そういうことなのよ。普段から食材などは備蓄しているからいいものの、ずっとこのままじゃあね……」


 困ったように笑う伯母さん。ルハはじっと見つめることできなかった。畳み掛けるように、伯母さんは続けざまに言った。


「それにね、この国の第三王子も失踪してしまっているのよ。今では駆け落ちじゃないか、だなんて噂も出ているくらいよ」

「それは、第三王子とその、チェリスフロウ様がということですか?」


 ルハの言葉に伯母さんは頷く。そして、あくまで噂だけれどね、と付け加えると少し曇った笑みを見せた。

 そこで、キィィと鳴った部屋の扉。二人して視線を遣ると、フォクが少し開いていた扉を立って押し開けたらしい。


『クーン……』

「あら、おはよう、キツネちゃん! そうだ、ルハちゃん、キツネちゃんの朝ごはんは何ならいいのかしら?」

「えっと、生の野菜、とか……ですね」

「わかったわ〜、ちょっと待っていてね」


 ぱたぱたと伯母さんは台所の方へと歩いていくのを見送ると、情け無さげに鳴くフォクにルハは駆け寄り、抱き上げた。


「おはよう、フォク」

『……フッ』


 ルハの挨拶あいさつに、フォクは目を合わせずに少しそっぽを向いた。朝、起こさずに先に食事を摂った事についてへそを曲げているらしい。変に気難しいところがあるから面倒である。

 謝罪の意を込めてルハがフォクの頭を撫でると、抵抗はしなかったが少し不服そうに顔を背けた。


 先程までルハが座っていた椅子の近くに、フォクを降ろす。すると、見計らったかのようにお皿を持った伯母さんが戻って来る。


「はいはい、お待たせね〜」

「すみません、有難うございます」

『クーン……』


 伯母さんの手にある皿には、生の野菜と(いぶ)したお肉がのっていた。長い冬、そう簡単にお肉は手に入るものではないだろうに。


「お肉まで! 有難う、ございます!」

「全然いいのよ! お野菜ばかりだと良くないものね〜。キツネちゃん、お肉も食べてねぇ」

『カン!』


 先程とは打って変わって嬉しそうに鳴いたフォク。外面だけは良いんだよね、とルハは苦笑いを零した。




























「どこもかしこも雪が積もっているなぁ」

(ハル)が来るとは思えぬ様相だの』


 屋根の上、道の脇、昨日の散歩で見たよりも実に多くの場所が雪によって白く染め上げられていた。吐いた息でさえも、白い。

 朝食を済まし、一人と一匹は街へと繰り出した。幸いにも青い空が垣間見え、昨日よりも視界が開け、街の様子がよく見てとれた。


 表通りへと出ると、久方ぶりの晴れ間なのだろう、人々が陽の光を浴びに野外へと多く出て来ていた。その中外套(マント)を羽織った旅人姿と見たこともない黄色い動物は嫌に目立っており、人々の視線を集めていた。

 話しかけられることはないが、常にどこかから視線を送られ続けるのは実に居心地の良いものではない。


「……視線が痛いなぁ」

『ケケッ』


 だからと言ってどうすることもできず、ルハは苦笑することしかできなかった。素知らぬふりでフォクは歩く。


 そして、遠巻きに眺める人々がほとんどを占める中、ルハとフォクに向かって悠然と歩いてくる者が一人。

 少し長い、茶色がかった髪の色に優しげな目元の男。しかし、どこが影が差しているような、不思議な雰囲気であった。男は、柔らかな笑みを浮かべてこちらを見ると、口を開く。


「やぁ、見ない顔だね。街のみんなもこんな時分だから珍しがってるみたいだよ」

「そうですね……。粗方の話は聞きました。大変なことになっているようですね」

「それはもう、ね。ところで、“シキノトウ”にはもう行ったかい?」

「……“シキノトウ”、ですか?」


 聞いたことのない言葉に、ルハは思わずフォクを見遣るが、首を傾げられるだけだった。


「北の外れにある高い塔だよ。季節ごとの女王が住まう塔さ。遠巻きに見ることぐらいはできるはずだからさ、行ってみたらどうかな?」


 続けて、それじゃまたね、と男は言うと、あっという間に街の中へと消えてしまう。まるで嵐のような、そんな印象であった。

 遠巻きに見られている視線はもう、気にならなくなった。


「さて、どうしようかな」


 フォクを見るが、ルハの心持ちなんぞはお見通しのようで、既に北の方角へと歩き始めていた。


「待ってよ、フォク!」


 お腹が膨らんで機嫌が直ったかと思っていたルハだが、そうでもないことを態度で知らされたのだった。



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