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少女、耳を傾ける


「我が国では一定周期で四つの季節キセツが巡っているのだが……、現在の季節が、フユに留まっていることは知っているかい?」


 殿下との会話は、ルハの情報量を知る為の質問から始まった。


「はい。ハルの女王様が行方不明であり、“宣言”が出せないから、とお聞きしました」

「そう。表向きには・・・・・、そうなっているね」


 その言葉に、やっぱり、とルハは思う。“シキノトウ”にてフォクが感じた呪術の気配。それは間違いではなく、この国を襲う異変の一端であるということだろう。そんな様子を見て、殿下は意外そうに片眉を上げて見せた。


「おや、驚かないのだね」

「……え、あ、いや」


 確かにそうだ。普通ならば、驚くとかそういった反応を示すべきところだった。ルハは焦り、挙動不審に両手とわちゃわちゃと動かす。


「その、ですね? 色々と見回る中で、分かったこともある……というか!?」

「嬢ちゃん、落ち着きな。不審な人物じゃないってことは俺が殿下に保障してやっから」

「そうそう、大丈夫。牢獄に入れたりしないから、さ」


 ディドルと同じ笑みを浮かべながら紡がれる言葉は、ルハの脳内で危険信号を鳴らすのに容易に事足りるもので。


「ろ、牢獄……!?」

「いたいけな少女をサラッと脅すのは良くないと思いますぜ」

「はは、冗談だよ。こんなやり取りは久しぶりだからつい、揶揄からかってしまうね」


 冗談でも聞きたくない、とルハは思った。


「……嬢ちゃん、話を進めるぞ」


 呆れ交じりながら、ディドルがそう告げる。

 こういった場で普段ならフォクの協力を仰ぐものだが、その頼みの綱も此処には居ない。シャキッとしなければ、とルハは両手を膝の上を両手を握る。


「――はい、お願いします」

「うん、いい返事だ」


 にっこりと笑ってから、その面差しを真面目なものに変えて殿下は話始めた。


「……まあ、予想が付いているとは思うけれど、市民に伝わっている話と真実は異なる」


 ルハは頷きで返す。淡々とした口調で、殿下は続けた。 


「春の女王は、行方不明なんてことはない。寧ろ彼女にはなんら問題はなく、現在は王城の一角で生活をしてもらっている」

「……! ということは」

「嗚呼。“宣言”を出せないのは、冬の女王にある。……君は、シキノトウの辺りに行ったのだろう?」


 フォクと共に訪れた“シキノトウ”。フォク曰く、中から酷い呪いの匂いがしており、ただの警備にしてはや兵の数が多かった。


「冬の女王様に、何が起こっているんですか……?」


 恐る恐る尋ねると、沈痛な面持ちで殿下は告げる。


「……眠っているんだ・・・・・・・ずっと・・・

「眠って、いる?」

「そう、シキノトウの中で覚めない眠りについている。現在は様々な生命維持装置を付けて対応し、また君も見たようにシキノトウの周囲を警備している状態だ」


 一人、心の中で確信する。冬の女王の覚めない眠りは、フォクが嗅ぎ取った呪術によるものだ、と。

 国を揺るがす、覚めない眠りの呪い。ルハにはもう一人、街で拾った呪いに掛けられていた少年についても気にかかっていた。同時期、という訳ではないが、魔術や呪術に疎い国で呪われた者が複数居るとなると、何らかの関係性があるとみるのが妥当だろう。


「成程……そうなのですね」

「嗚呼。此れが我が国の現状だ。この事は、国の機密事項だ、他言は無用だよ。いいね?」

「はい、勿論です」


 ルハは頷きながら殿下に返した。その反応に、ディドルは呆れ交じりに心配そうな顔をし、殿下は壮絶な美しい笑みを浮かべる。

 数拍二人の様子を眺めてから、ふと、ルハは気が付く。

 何故、殿下は一介の旅人・・・・・国の機密事項・・・・・・を話したのか、その意図を。


「まさか……」

「――君も知っているとは思うが、お国柄として魔術や呪術やいった類には疎く、また四方を山に囲まれ雪深い気候となっている」

「はい、……存じ上げております」

「そんな中、吹雪く山々を越えて外からの旅人である君が来た。旧コクリヨから旅をしているというならば、魔術の心得もあるのだろう?」


 まあ、確かにフォクから少しばかりは教わったが、術士と言える技量はない。そう思ってルハは無言を貫き通す。少しだけ、顔が強張る。


「……ふふふ、そんなに怯えないでくれるかな」

「すみ、ません……」

「これに関してちゃあ殿下が悪いと俺は思いますよ」

「あはは、そうかもねぇ。ごめんごめん」


 ディドルがすかさずフォローを入れるが、殿下は変わらず薄ら笑いを浮かべる。そして、底知れぬ瞳でルハを射抜いた。


「……まあ、此処まで言えば、言いたいことは分かるよね」

「……」


 嵌められた。そう気が付くのが遅すぎたのだ。


「君に、我が国を襲う異変についての調査を依頼したい」


 にっこりとしたあの・・笑顔だ。

 国の機密を知るということの重さを、失念していた。この事態が知れ渡ることは、国全体が魔術に疎く、地形さえ乗り越えれば簡単に攻め落とせるよ、と他国にアピールしているようなものだ。

 ルハに残された道は二つ。一つは、頷いてシキ国の味方となる。もう一つは、――断って、シキ国の敵となること。


「引き受けて、くれるね?」


 ルハには、頷く他なかった。


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