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少女、図らずも謁見す


 王太子殿下。と、いうことは王位継承第一位の、次代の王位を望まれている人。


 そんな人が、何故こんな兵士の詰所らしきところへ来ているのか。その理由を、ルハはできれば知りたくないと思う。


「やあ、ディドル。お邪魔するよ」

「お邪魔だから帰ってくれるか?」

「つれないなぁ全く……」


 隊長はディドル、という名前らしい。そんな事より身分を鑑みても驚くほど親密な会話に、ルハは目を丸くして固まる。これは不敬だと切り捨てられかねない。

 その様子をあくまで部外者として見ていたルハを、視線を向けて微笑んだ王太子は次の一言で当事者として巻き込んでいく。


「では、この()を借りてくよ」

「……えっ!?」


 何故、どうして、こんな旅の小娘に。そんな驚きを含んだ不思議だという表情が思わず浮かぶ。座ったままルハが少し尻込みをすると、音もなく距離を詰めてがっしりと腕を掴まれた。


「逃がさないよ?」

「……怖がってるぞー、王太子殿下ー」


 これがフォクの言う野生の感、というものなのだろう。理由もなくなんだか危険な匂いがするのだ。

 そういった訳で固まっていると、ディドルが立ち上がってルハの肩をポンポンと叩いた。


「嬢ちゃん、俺も付いてくからまぁ、怖くて恐ろしい(・・・・・・・)かもしれんがコイツに連れていかれてくれや」

「いつもながら君は本当に一言余計だよね」


 言葉には幾多もの棘があるが、お互いに信頼があり仲が良いからこそ容赦なく言えるのだろう。いや、そうではなくて、何かしらの返答をせねばならない。こういう時の言葉は、何をフォクに教えてもらっただろうかとルハは思い出す。


「謹んでお受けいたします」


 そう告げると、にっこりと――そう、まさににっこりと――殿下は笑った。


「では、こんな悪趣味な拘束具は外してしまおう。……ディドル?」

「はいはい」


 適当な返事と共に部下から短剣を借りると、ディドルはルハの背後に回る。そして、ルハの両手を拘束していた縄を慎重に切った。後ろ手で腕を拘束されるというのは初めての体験だったが、やっぱり気分のいいものではない。


「有難うございます」

「いや、手首に跡が残っちまった……。強く縛って悪かったな」


 申し訳なさそうなディドルの言葉に、ルハは自分の手首を見てみる。確かに、縛られていたところに縄の跡がついて赤くなっていた。軽く手首を回してみると、ただ軽く擦れているだけのようで。骨や筋肉にくは傷ついていない。


「仕方のないことです、気にしないでください」

「ディドル、君……まさかそんな趣味が」

「殿下は静かにしててくれます?」


 どうやら、ディドルと殿下は相当に仲が良いようだった。二人の掛け合いにくすっと思わずルハが笑みを零すと、殿下は微笑を浮かべる。


「うんうん、やっぱり女の子には笑顔が良い!」

婚約者(フィアンセ)の居る身で堂々と口説かないで欲しいですねぇ……?」

「おや、嫉妬かい? 独り身は辛いね」

「意趣返しですか。一言余計ですよ殿下」

「世事の一つも言えない武骨な男はこれだから全く」

「……嬢ちゃん、俺の手が滑ってコイツ(でんか)を殴る前に行こうや」


 訂正しよう。仲が良いのは良いことだ。しかし、その渦中に巻き込まれるとなるとどうしたものか、困りものである。


「……では、参りましょうか?」

「そうしよう」


 おずおずとルハがそう言うと、殿下が笑みを浮かべてそう返した。三人で部屋を出る間際、殿下が部屋の中に居た兵士達に声をかける。


「お邪魔したね、各々仕事に励むように」

「「はっ!!」」


 ルハからその表情は見えなかったが、同じ声色でもなんというか、込められている覇気が違うように聞こえた。多くの国を回っていたが、国の王たる器の男とこうして面と向かって会ったのは初めてだ。


『国の王たる者は、(じゅう)でありながら(ごう)でなくてはならぬものだ』


 いつかのフォクの言葉が思い出された。

 殿下が自らの先導にて城内を歩き進む。背後にはディドルが歩き、間にルハを挟む形だった。


「此処に入ってもらえるかな?」

「……はい」


 案内されたのは、城内の一室。先程の詰め所とは違って、どちらかと言うと位の高い人々が個人的に会談するような、応接室のようなところだった。


「どうぞ、座ってくれ」

「有難うございます、失礼します」


 向かい合うように低い長机(ローテーブル)を間に挟んで置かれた長椅子(ソファ)に、それぞれ座る。ディドルは有事の際にルハを取り押さえられるように、ルハの背後に立っていた。


「私はシキ国の第一王子、メヴスィム・シキ・フォーシス。君――ええと、名を教えていただいても?」

「申し遅れました、ルハです」

「……フルネームを伺っても?」


 むやみに言うものではない、とフォクに口止めされているが、滞在している国の殿下に尋ねられたとなれば言うしかないだろう。人生の師の言いつけを破って良いことは一つもなかった、そう思いつつ言いにくそうにルハは口を開く。


「ルハ・コクリヨ・カンナギ、です」


 殿下が少し目を見開き、背後のディドルが息を吞んだのが分かった。


「……言いにくい事を言わせてしまったね、非礼を詫びるよ」


 悪いことをした、と殿下は目を伏せる。


「気になさらないでください、仕方の無いことです」


 やんわりと笑みを浮かべてルハは言った。

 仮にも次代の国を継ぐ方に、隠し立ては出来ないだろう。こうして興味半分で国の問題に首を突っ込んでいる以上、遅かれ早かれ知られていたことだろう、とルハは結論付けた。

 そこで焦れたように、背後のディドルが咳払いを一つ。


「……殿下、さっさと本題に入ってはどうですかい」

「そうだね。では、ルハ。聞いてもらえるかい?」


 形ばかりの問いかけに、頷き返す。ふぅっと息を吐いて、一呼吸をおいた後。


「この国の話をするとしよう」


 殿下は物憂げな瞳でそう告げた。


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