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少女、捕まる


 どこに行くのだろう。


 そう思いながら、ルハは門兵に連れられ王城の中を歩いていた。


 城の中はどこもかしこも綺麗に磨き上げられている。質素でありながら価値が高いだろうことが窺える調度品たちは淡い橙の灯りに照らされているが、寒いからだろうか、はたまた人の気配が少ないからだろうか。閑散とした、何というか寂しさを感じた。


「君は、どこから来たんだい?」


 歩きながら、先導する門兵がそう聞いてきた。


 確か、サス、と呼ばれていた男だ。不審人物として捕まえているルハに対しても粗雑に扱う事はなく、なんというか人当たりが良いな、と思わされた。


「私は、旧コクリヨ和国の方から来ました」


 そうルハが告げると、ちらりとサスは後ろを振り返って申し訳なさそうな表情を見せた。


「嗚呼、あの辺りか………酷なことを聞いたね」

「いえ、お気になさらず」


 コクリヨ和国とは、シキ国と同じように山の中にあった国だ。十数年前までは存在したが、旧とつくように現在はただの廃墟群でしかない。


 一人の狂った術士によって死に絶えた国の生き残りは、ほとんど居ないと言われている。


「この国にも一人だけ、その辺りから来た方が居るよ。といっても会うことは出来ないだろうけど……」

「そうなのですか。お話を聞いてみたいものですが、残念です」


 実のところ、ルハにはその頃の記憶を持ち合わせていないのだ。どんな国だったのか聞いてみたいところではあったが、今はそんなことに気を回せるような状況ではなかった。


「私は、どうなるのでしょうか……」


 そう不安が零れ落ちる。


 此処で頭と胴体がおさらば、なんてことになったらフォクが独りぼっちになってしまう。今まで共に旅してきたのに加えて、このシキ国の後にも他に様々な国を一緒に巡る約束である。そんな事では困ってしまう。


「とりあえず、不審な行動が見受けられた旅人、ということで、聞き取り調査をさせてもらうだけだよ。この国の状態が今、普通でないことは知っているかい?」

「はい、少しばかり耳に入ってきています」

「そうか。その事が原因でね、どこもかしこも少しピリピリしているんだ」


 そう告げて振り返ったサスの目元を見ると、今までは気が付かなかったがうっすらと隈があった。“シキノトウ”での厳重な警備の件もあるが、この国の異常事態に兵士達も大変なようだった。


「何もなかったら無事に帰れるはずだから、そんなに身構えなくて大丈夫だよ」


 そう言い終えたところで、彼が扉の前で立ち止まる。そして、目の前にあった扉を開けて。


「さあ、入って」

「はい」


 誘導されるがままに中に入ると、そこにはいかにも兵士、といった風体の(いか)つい顔した大男と、数人かのサスと同じような兵士が居た。


 さしずめ、詰所といったところだろうか。木造りの大机や椅子が大量においてあり、壁には剣や槍、盾などの武具や防具が立てかけてある。


「隊長、不審人物を連れてきました」

「ああ」


 サスがそう告げると、大男が短く返事をした。背後で戸が閉まる音がする。部屋の真ん中を陣取っているその隊長の呼ばれた男がルハに気が付くと、驚いたように目を丸くした。


「おお、なんだ。彷徨(うろつ)いてたってのは、こんな嬢ちゃんだったのか?」

「はい、そうです。伝書鳩の情報とも一致します」

「そうかぁ。まあ、なんだ。嬢ちゃん、座れや」

「はい」


 頷いて、ルハは勧められた椅子に座った。少し歪んでいるようで、体重移動をするとがたがたと音がするが、我儘をいっても仕方ない。


「えーと、シキノトウの辺りを彷徨(うろつ)いていたんだって? 何してたんだ」

「街の人にシキノトウについての話を聞いたので、見に行ってみようと思いまして」

「ほう、それだけか?」


 鋭い瞳で、そう尋ねてくる大男、もとい隊長。若く見えるが、やはり隊長たるだけあってかその眼力、気迫たるや凄まじく、気圧されそうになる。


「ええ。あわよくば冬の女王(スノーホワイト)様に御目見えできれば、と思ったのですが……。それどころではないみたいでした」


 残念そうにそう言うと、なんとも言えない表情をして隊長は頭をがしがしと掻いた。部屋の中の兵士達の、様子を伺うような視線がこそばゆい。


「まあ、嬢ちゃんには分からんだろうが……色々あって大変なんだよな」


 隊長とて例外でなく、目の下にくっきりと隈ができていた。


「ええと、お疲れ様です……」

「ああ、ありがとな。あーまぁ、害なし、ということで」


 その言葉にぱあっとルハは輝かんばかりの笑みを浮かべた。その時だった。扉が、豪快に開かれたのは。


「失礼するよ。旅人が此処に居ると聞いてね」


 柔らかく爽やかな、まだ若い男の声が部屋に響いた。ルハが振り向くと、そこに立っていたのは明らかに兵士ではない、位が高そうな格好をした人。その背後には、ひっそりと影のように執事(バトラー)が一人佇んでいた。


 ルハと目が合うと、その男はにこりと笑みを浮かべた。何故だろうか、ただの笑みに間違いはないのに、薄ら寒さを感じさせる。


「このようなところにいらっしゃるなど、どうなさったんですかい?」


 そう言う隊長は、少しその顔に面倒くさいという表情を浮かべながらこう続けた。


王太子殿下(・・・・・)


 と。

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