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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

目覚めた先に

作者: xxx

 目覚めてから、もう半年が経った。

 三十年以上の間コールドスリープの中で眠っていたオレには、今でもまだ現状を受け止めきれていないところがある。


 時代に追いつけないオレにも国は手厚く保護してくれているから、どうにか生活は出来ているが、未だ今の生活には慣れていない。

 国がオレに回してくれた仕事は、とある施設の窓口受付。

 眠る前に身に付けた能力は今になっては役立たずだから、仕事をくれるだけで感謝している。

 現実世界の仕事であることには、特に感謝している。

 仮想世界での仕事なんて、俺にはできる気がしない。


 まだ仮想世界には数度しか入った事は無いが、そこはあまりにリアルだった。

 オレには現実世界と見分けが付かなかった。

 仮想世界から出た時には、本当に現実世界に戻ったのか分からなかった。

 こんな生活をしていれば精神が狂うと思った。

 以来、オレは現実世界だけで生活している。

 世間ではオレのような奴を『囚人』と呼ぶ。現実世界に囚われる哀れな奴、と見下されているのだ。


 まったく嫌な時代だ。

 オレが眠ったのが、第三次世界大戦が終結した直後のことだった。

 核爆弾が飛び交い、修復不可能と呼ばれた地球を立て直した事は確かに驚くべき科学の進歩だ。

 しかし、世界の有り様はがらりと変わってしまった。


 半分以上が仮想世界で成り立つ経済活動。

 どこもかしこも監視カメラが張り巡らされた街。

 思想教育から始まる学校。

 人と見分けがつかないAIロボットなどなど。

 


 オレは三十年というものを甘く見ていたようだ。

 コールドスリープで眠る前に、オレの病気を治療させる技術が生まれるには十年以上の際月がかかると、医者の説明とAIによる予想は受けていた。

 タイムスリップと何ら変わりは無い。

 何もかもが変わってしまうことの覚悟は、出来ていた。そう思っていた。

 しかし、いざその事実に直面すると、心が追いつかない。

 知り合いがおっさんになってビックリとかそんなレベルではない。

 オレにとってここは、異世界だ。


 憲法なんて300条を越えていた。

 働き過ぎだぜ国会議員、と言うわけではなく、AIが憲法を最適化したらしい。国民投票も、『天皇が国民の名で~~』も完全に破棄してやがった。


 オレはもう流れに身を任せて毎日のんびり受付の仕事をする|決心≪現実逃避≫をしていた。

 

 しかし体が元気になると、それはもうたまるわけですよ‥‥、性欲が。

 彼女なんて当然いないし、風俗に行くことにした。

 その時になってオレはようやく気が付いた。


『現実世界における性行為を禁ずる、ってふざけんなよ! こんな滅茶苦茶な憲法あってたまるか』


 今でも声を荒げた事を鮮明に覚えている。

 風俗どころか、そもそも性行為が禁じられていた。

 理由としては、エイズだけは医療技術が発達した今でも治療が困難だから、ということらしい。

 代わりに仮想世界での性行為を解禁したことで、国民はそれに従順に従っている。


「ふざけんなよ‥‥‥」

 あ、声が漏れてしまった。

 これでも今は仕事中だ。

 国の方にはイラつくけれど、さすがに職務怠慢やら素行不良で解職されたくはない。最悪、思想犯で殺処分と言う事もありうるらしい。

 実際先月も国内だけで数十人が殺処分になったと報道されていた。

 核兵器で牽制し合っていた昔も怖いが、今も今で怖い世の中だ。


「すみません。子どもを見に来たのですが、入館許可をいただけますか」

 若い男女が受付に来た。

「分かりました。でしたらこちらの端末から仮想空間に入って、中で手続きをお願いします」

 オレはマニュアル通りに相手に伝えた。

「あ、はい。‥‥‥おわりました」

 五秒と経たないうちに目の前の男女は受付を終えた。

「では、こちらが入館証になります。どうぞ」


 入館証を受け取った男女は仲良く施設に入っていった。

 オレは彼らが消えたのを確認してから、一息ついた。 


「相変わらず気持ちが悪いな‥‥‥」

 彼らは僅か五秒で受付を済ませた。

 ―――――そんなわけない。

 現実世界の五秒は仮想世界の五分に匹敵するのだ。

 そのおかげで仮想世界の経済活動は活発化し、人の成長も促進される。

 良い事なのだろう。


 しかしなぁ‥‥‥。

 言ってしまえば、もう見た目で年齢が分からなくなっている。

 ただでさえ、老化を抑える薬が完成されているのに、精神年齢まで絡まってしまったら、もう誰がどういう人物なのか皆目見当が付かない。

 言ってしまえば、さっきの見た目二十代の男女にしても、お互いに肉体年齢六十代、精神年齢数百歳だって事もあり得る。

 だってそうだろ? 仮想世界と現実世界の一秒には大きな差があるのだから。


 まぁもうそんなこと、どうだっていい。

 諦めたのだ、オレは。受け入れる事も、理解する事も。


「けど、S○Xだけは諦められねえ‥‥‥。このまま残りの半生、自家発電の日々とか嫌だぜ絶対‥‥。どうにしないとな‥‥、っと、いらっしゃいませ」



 ぼやいてたら入館希望者が来た。

 最近独り言が多くなった気がする。気をつけねば。


 オレは先程の男女と同じように対応し、目の前の男女を施設に通した。

 

「今日の入館者は4組8人か。少なめだな」

 オレの仕事は受付。

 国立人工胎盤センターの受付。

 もう母親が子供を産むということは、廃れつつある。

 出産にはいつも危険が寄り添うからだ。また、女性の社会における生産力の阻害になるからでもある。

 思想教育が行き渡った現代では、オレが生まれた時代のような情緒などない。

 合理性ばかりを追求している。

 人間の本能は、壊れたと同然だ。








 仕事が終わり、帰路に就く。

 帰宅後は、昔ならビールと煙草でのんびりとしていたが、今はもう酒も煙草も販売されてない。

 体に悪影響を与えるから、と憲法で製造すら禁じられている。


 やってられない、世の中だ。

 おかげで帰宅後の日課は料理と筋トレだ。

 娯楽も大半が検閲に引っ掛かって、消し去られている。

 アニメもゲームも、スポーツだって八割以上は禁止されている。

 なんでも危険思想の種になるからやら、暴力性を高めるからやらで禁止されている。

 絵画や音楽は、多少ましだが、それでも検閲の厳しいご時世だ。

 

 つまり幼稚園児レベルの健全さが求められているのだ。

 ホント、くだらん!



 スーパーに立ち寄り、AIが作り上げた完璧すぎる面白みのない野菜を見て回っていると、一人の女性が目に入った。

 一見では二十歳くらいに見えるが、おそらくもっと年上だろう。

 オレが注目したのは、彼女の手の動きだ。

 彼女の手は落ち着きなく腕をさすっている。

 特段、スーパーの中が寒いわけでもない。

 彼女の顔色が悪いわけでもない。

 視線も落ち着きなく動くと思ったら、急に止まることもある。視線の先には男性が立っている。


 つまり、なにが言いたいかと言うと、彼女のあの仕草は欲求不満の表れだとオレは思っている。

 一度現実世界で性行為した人は、また現実世界でしたいと思うのだが、中々相手が見つからず、欲求が溜まってしまい、挙動不審になってしまう。

 という情報を最近ネット雑誌から得た。犯罪者を見分けるための雑誌だけど。

 それはそうだ。なんて言ったって、現実世界での性行為は犯罪なのだから。


 だが、オレにとっては都合が良い。

「ふっふっふっ」

 計画を実施する!!








 と、意気込むのは良いけれど、やる事は簡単だ。

 ただ一切れの紙を、彼女のポケットに|分かる≪・・・≫ように入れる。

 そして、一言、

「オレも溜まってるんだ」

 と、告げてオレは立ち去った。



 ちなみに渡した紙には、オレの仕事先の場所が記されている。

 そこなら施設内の監視カメラも付近のカメラも、オレが施設の中からダミーの映像を流すことが出来る。と言う事も書いてある。

 ダミー映像は、見た目がオッサンになっていたオレの同級生からもらった。かつては親友と言っても良い仲だった。今となっては対応に困るが、それでも良い物をくれたことには感謝だ。

 そいつもアウトローな奴で、犯罪すれすれの事をやっては逃走を繰り返していた。

 だが、役に立った! サンキュー!


 さあ、どう転ぶか。

 相手の出方次第では、オレも犯罪者の仲間入りだが、おそらく大丈夫だろう。

 オレの一言に彼女は、ビクンと大きく体を震わせていた。

 この反応は当たりに違いない。

 雁字搦めのこの世界で、ようやくコールドスリープから目覚めて初のS○Xができる。


 久々過ぎてかつてない興奮がオレを襲っている。きっと背徳感も良い感じに作用しているのだろう。

 オレは早足で職場に戻った。

 準備は抜かれない!






 施設の監視カメラにダミー映像を流し込んだ。

 あとは彼女を待つだけだ。

 彼女はすぐにやって来た。

 その顔はすでに蕩けきっていた。

「ねぇ。はやく、しましょう」彼女のオンナとしての本能が現れていた。

 オレもその声にオトコとしての本能が反応した。

 ムードも、流れもいらない。

 オレはもう彼女の艶やかな肉体を獰猛に貪ることしか考えられなかった。


 オレは彼女の体を力強く引きよせ――――。


『警察デス。憲法246条違反ノ現行犯デ逮捕シマス』


「なっ!」

 なんでAI警察にばれた!?

 監視カメラは誤魔化せれたは‥‥ず。

「騙された、のか‥‥‥」


 警察がオレと彼女の体を拘束しようとする。

「ふざけんなっ! S○Xして何が悪ぃンだよ! お前ら異常なんだよ! 機械機械機械!! 人間止めたような生活して何が楽しいんだ! くそっ! 離せっ!!」

「いやっ!! 離せっ!! 止めて!! 処分はイヤッ!! お願いゆるして」

 人間では相手にならない力で警察はオレ達を羽交い絞めにした。

 抵抗は無意味だった。


「なんで、なんでロボットごときに人間が従わなくちゃならねぇんだ!!」


 AI警察の一体が無機質に答えた。

『ソレガ法デス』

 




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