ぼっちな僕は妹へ復讐する。
高校生活において、僕が最も糞だと思う要素は友達がいないと不幸せだと思われる風潮だ。
別に、友達がいても不幸せなやつはいる。
むしろ、人間関係に囚われ、自らの個性も主張できず、人に合わせ、ノリと建前だけで構成された偽善のみの友情ごっこの何が幸せというのだろうかと僕は思う。
否、別に友達という存在を否定している訳ではない。
クラスの奴らが友達とワイワイと楽しんでいるのを見ると、別に捻くれたことを思う訳でもなく、ただ幸せそうだな……と普通に思う。
幸せな奴らを見ても、別に嫌な気分にはならないし、むしろ幸せな奴らを見ると自分も少し幸せな気分になれるから、幸せな奴らはむしろ好きなくらいだ。
だが、僕が気に入らないのはそいつらの僕に向ける視線。
『ああ……こいつは友達がいないんだな。可哀想に……』
といった感じの視線が……嫌いだ。
嫌いで、嫌いで、嫌いで、たまらない。
殺したくなる……と言えば少々大袈裟だが、負の感情が淡々と溜まっていく。
友達がいないことの何が悪い。
孤独の何が悪い。
一人であることを楽しんで何が悪い。
僕は僕だ。僕のことは僕しか分からない。
僕のことを分からない奴らに僕をそんな視線で見て欲しくない。
僕は友達なんていらない。
あんなの障害にしかならない。
友達とは……人生の障害だ。
一人で楽しむ時間を奪う敵だ。
僕は小さい頃から一人が好きなのだ。
それを否定するな! 否定するような視線で見るな!
否定なんて嫌いだ。
個性を否定するな。
お前らみたいに友達ごときに影響されて変わる偽物の個性なんかではなく、僕の個性は不変だ。生まれつき変わらない本物だ。
偽物が本物を偽物を見るような視線で見るな……お前らのその視線が僕をどれほどの苦痛に陥れていると思っているんだ。
嫌いだ。
嫌いで、嫌いだ。
嫌いで、嫌いで、嫌いだ。
お前らのことが嫌いだ!
頼むからその視線で見ないでくれ!
僕をどれだけ苦しめれば気が済むんだ!
お前ら全員気に入らねえんだよ!
数に物を言わせて調子にのるな!
僕は一人で努力しているんだよ!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
終われ、何でもいいから終われ!
僕の人生でもてめえらの人生でも世界でも地球でも宇宙でも銀河でもなんでもいいから終わってくれ!
こんな世の中は間違っているんだよ!
破壊を破壊に破壊させて破壊した破壊で破壊して破壊し尽くしたい!
破壊、破壊、破壊、破壊、破壊!
なんでもいいから壊れろおおおおお!
狂いに狂って狂わせて狂った狂いを狂い狂わせ狂わし狂い尽くしたい!
狂え、狂え、狂え、狂え、狂え!
なんでもいいか狂ってくれええええ!
世界を再構成して再構築して組み替えて組み直して改造して改築してやりたい!
何なんだよ!
何なんだよ…………この世界はよ……。
「さっさと起きろよ、糞兄貴」
そんな声が聞こえて、僕は目を覚ました。
僕を糞兄貴と言う妹の声だ。
「ん、起きたよ」
「え? 聞こえないなー? 私に起こさせる手間をかけさせておいてそれだけで良いと思ってるの? 言葉は? お礼の言葉は?」
「は?」
「だーかーらー、お礼の言葉! 『いつも愚かな僕を起こして頂きありがとうございます』というお礼の言葉だよ!」
「……」
僕の妹は、毎朝そんな風に僕を馬鹿にする。
それもまあ当然といえば当然だろう。
この妹は髪を金髪に染め、バリバリのお洒落をしたスクールカーストトップに君臨している、まさに学校ではお嬢様という女なのだから。
僕はまあそれに対して毎日しぶしぶお礼の言葉を言っているわけだが……。
「あれ? なんで黙ってんのかなー? 訳わかんない、死ねば? あ、そっか。お腹空いているのかー」
「は?」
「ほらよ!」
ベチョリと、僕の全身にかけられたのは納豆だった。
「糞兄貴には相応しいよね〜超うけるー!」
言ってギャハハ、と下品に妹は笑った。
「……」
いつもなら、こんな行動に対しても我慢して風呂に向かうだけだ。
でも、なんていうかなぁ……。
今日の僕は、穏やかじゃあなかった。
朝起きた時からイライラが止まらない。
「なーに黙ってんの? あ、わかった〜、兄貴ってドエムだもんね? もっとやってほしいんだぁ?」
「そんなこと言ってねえだろ……」
「納豆にはお米だよね?」
そう言って妹は熱々の白米が入った炊飯器を投げた。
この妹……僕を殺す気なのだろうか?
あぁ……イライラするなぁ。
今ここで暴れられたらどれほど気持ち良いか…………あ! そっか、暴れればいいんだ。
僕はスッと立ち上がり、炊飯器を避け、妹に近づいた。
「あん? なに生意気に避けてんの?」
「生意気なのはてめえの態度だ、ゴミ」
「はあ? なにそれウケるぅ〜」
またも妹はギャハハ、と下品に笑った。
その顔にムカついた僕は、ベッドに沈んだ炊飯器を手に取り、妹の顔面に勢いよく投げつけた。
「うぐぅっ」と声をあげ、妹は倒れる。
「死ね「死ね「死ね「死ね「死ね」
僕は繰り返し言って倒れた妹を蹴り続ける。
「や、やめろよぉ……あぐぅっ! くそっ……うぐぅっ! あにきぃのぉ……あがっ! くせにぃ……ゴホッ! アグッ、グ、ぐううぅがぁっ……!」
生意気なことを言い続ける妹を僕は蹴り続ける。
「ふ、ふざけるな、こんなことして……!」
「こんなことして?」
「どうなると……ゴホッゴホッ! えぐっ、……思ってるぅ……げふっ、思ってるの?」
「どうなるのかな?」
そう言って僕は足に思い切り力を込め、妹の脇腹を蹴った。
「あぐっっううううううっ!」
「あ、そっか。こんなことしたら妹ちゃんが死んじゃうんだー、確かに困ったなー」
「あ、兄貴ぃ……どうした……」
「黙れよ」
何かを言いかけた妹の顔を僕は蹴った。
「うーん、あ! そうだ! 死なないように少しずつ痛めつければいいんだ」
「ひっ!」
「ん? どうしたのさ、可愛い声を出して」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい、今までごめんなさい」
「許してほしいの?」
僕が聞くと妹は首を縦に何度も振る。
「首振ってるだけじゃあわからないよ」
「はい! 許してほしいです!」
「無理」
そう言って妹の首を掴み持ち上げ、腹パンした。
「あぐぅっうっうううう」
「許してほしいなら裸で土下座かなぁ〜……出来るよね?」
「え、裸……」
「出来ないのかぁ……」
僕はもう一度腹パンした。
「ひぐあうううっ、し、します! 裸で! しますから!」
「うん、じゃあはやく」
僕はそう言って首から手を離した。
妹は地面に倒れる。
「まだ?」
倒れた妹を僕は蹴る。
「い、いますぐしますからっ!」
「まだかな〜……」
そして妹は汚い肌を晒し、土下座した。
寛大な僕は約束通り許してやった。
「二度とこんなことしたら駄目だよ?」
「は、はい」
「『うん』だろう? 兄弟で敬語なんて良くないよ。蓮ちゃん」
「う……うん」
蓮ちゃんが素直にそう言ったところで、僕は制服に着替え始めた。
さて、学校かぁ……まあ今日もいつも通り楽しくぼっち生活するか。