002 ある日の昼下がり
某所。
その部屋に三人組はいた。
今日も今日とてやかましい奴等の日々は、全くもって止まることを知らない。
「おっはおっは」
【よーっす】
「おけー」
【いや何がだよ】
太陽が真上に君臨する頃、ようやく登場した「一番目」に【三番目】はテキトーな返事をする。窓から突き刺さる光はその場を照らして部屋の状態を浮かび上がらせる。家具、調度品、何やらアヤシイもの、その他諸々が雑多に、見慣れた光景を作っていた。
「ところで“返事を返す”って合ってるようで合ってなくない?」
【知ら――――】『知らんな』
三番目の返答に被らせるように、台所から『二番目』が姿を現す。その手にはおぼん。おぼんの上には三人組の出来立ての昼食。
『まったく、二番目の作る食事は最高だぜ!!』
【自画自賛かよ!】
『せやな』
【肯定しやっがた……】
「噛んでる噛んでる」
相変わらずの言い合いをしながらそれぞれの席に着く。いただきますと手を合わせ、しばらくは静かになる。ただ食べる音、そして時折食器を動かす音だけが響く。
しばらくしてから、一番目が満足そうな声を上げた。
「はーーーごっちそうさまっとぉ」
【いやマジで美味だったわー】
『流石は二番目ですわー』
【いやお前が作ったんやろ】
「おっとまた自画自賛パターン?」
『Wせやな』
ですよねー、と同時に言う。そして三人組は、今のやり取りがおかしかったのか笑い転げる。三人組の笑いのツボが浅いのか、はたまたそれ以外の者たちが深いだけなのか……それは確かめようがない。
【ん?】
『どうしたんで、アニキ』
【誰がアニキだよ。お前そんな呼び方してなかっただろ】
『せやな』
「それはもうええわ。次言ったら-5000兆点な。んで、どうしたよ三番目」
【いや、こんな会話……前にもしなかったっけ】
三人組は突如黙って顔を見合わせる。目を瞬かせ、互いの顔を覗き込み、ゆっくりと首をひねる。それぞれ“したっけ”とつぶやく。あまりにも静かにつぶやくので風が窓を叩く音がよく聞こえる。ただ三人組はそれすらも気づかないらしい。首をひねりにひねっている。
【あ、わかった。多分二年前だ】
「そんな前? 昨日とか一昨日じゃね?」
『あーそうかも。だって一番目、ずっと寝ていたし』
「そんな寝てる?」
二人に言われた一番目は、壁の液晶パネルに目をやる。数字の羅列を見ている目はある一点で留まる。その表示をしばし見つめていたと思うと、納得したような声を上げてうなずく。その目線を液晶パネルから二人に戻すと告げる。
「多分、せやな」
その発言に二番目は一言告げる。
『うん。-5000兆点』
三人組はまた笑う。妙な騒がしさを取り戻した部屋はもうじき暗くなるだろう。
これも日常であって常識。その状況も、某所の三人組ならではのことである。
三人組の声は、今も昔も留まることを知らない。