男子高校生1-8
「ねぇ、ヴィス兄、シェイお兄さん……」
なんだかんだちゃんと様子をうかがっていたらしいミイが二人に尋ねた。
リトとシュウは相変わらず赤ん坊にじゃれついて遊んでいる。赤ん坊はハイハイができるみたいで、シュウの尻尾にまとわりついてもふもふしている。俺の前世ではまわりに赤ん坊がいなかったからよくわからないけど、こんなに動き回るもんなんだろうか。いや、個人差ってやつか。
「あの、ルーシエとチャットの事情はなんとなくわかったんだけど、っていうことは、あのよろいの人たちって山賊だったって、ことなの? においがするんだよね?」
ミイの言葉にはっとして、ルーシエをじっと見つめる。
「そういえば、それがあって二人を持ち帰ってきたんだった」
ヴィス兄は一度うむ、といってルーシエたちに近づいてスンスンとにおいをかいだ。
そうしていると、ほんとうにただの大型犬にしか見えない。シェイお兄さんに比べるとだいぶやわらかい顔立ちをしているヴィス兄は、気性は荒く狼っぽいといえなくもないけど、どことなく動作が犬っぽい。
「……ルーシエ。お前たちハーフを攫った連中の恰好はどんなだった? 鎧をきた男とか、いなかったか?」
「見張りのやつが鎧を着てた気がする」
「やっぱりか! どうりで赤ん坊の毛布から鎧の男と似たにおいを感じるわけだ。元は鎧の男たちが持ってた毛布だったんだろ」
「まさか、こんなところで鎧の男たちの情報が見つかるとは……」
シェイお兄さんは驚いた様子で、少し考えこんでいる。
「その、鎧の男のひとたちのことなんだけど、他のハーフのひとたちに聞いて不思議に思ったことが――」
そのときだった。ルーシエの言葉をさえぎって、ぐうううと何かの唸り声のような音が聞こえた。
発信源はルーシエとチャットのおなかのようだった。
「……」
「あぅー! あー!!」
そういえば、ルーシエはおなかへって倒れたんだったっけか。
いろいろ聞きたいことはあるが、何か食べるものを用意したほうがいいみたいだな、とシェイお兄さんは苦笑しつつ言った。
ルーシエがもっていた小さなかばんにはちょっとした食糧と水があり、それとシェイお兄さんがもってきた甘い果実をあわせて食べることにした。
俺たち獣種は基本的には何も食べずに生きていけるから、がつがつ食べているのはルーシエとチャットだけだ。ルーシエは乾いた肉、ジャーキーのようなものと固そうなパンと果実を、チャットは果実だけをちょっとづつかじって食べていた。見た目じゃどのくらいの赤ん坊なのか俺にはまったくわからないから食べ物はどうしたらいいんだろうとか心配に思ったけど、よく考えたらチャットは獣種のハーフである。人間の赤ん坊とはやっぱりいろいろ違うらしい。たいていのものは食べられるんだとか。
難しい話は一度やめて、ゆっくりとお食事雑談タイムだ。辺りはいつの間にか真っ暗になっていて、キレイな月が俺たちを照らしていた。
なんとなく、体感としてなのだけれど、この世界での月明かりは前世の月明かりよりも明るい。まったく問題なくシェイお兄さんたちの顔をうかがえるほどだ。これはもしかしたら、狼だから夜目がきいている、というだけの話なのかもしれないけど。
「こんな新鮮で甘いりんごがここで食べられるなんて思ってもいなかった! すごくおいしい!」
「あれ、人種ってこの赤い実食べるのか?」
「ここ何年かではやりだした果実だって聞いた。私もずっと山でおばあちゃんと暮らしてたからこの実の存在は知らなかったけど、街でははやりらしいよ」
「あうー。むしゃむしゃ」
「むしゃむしゃ!」
ここでなんと驚きの事実が発覚した。前からシェイお兄さんたちがどこからともなくとってくる赤い果実のことを、人種たちはりんごと呼んでいるということだ。シェイお兄さんたちはこの赤い実のことは赤い実としか表現しなかったからとくになにも思っていなかったけど、りんごだと言われたらこれはたしかにりんごだと思う。
しかも、ここ数年でいきなり食べられるようになった果実らしい。どうしてこれまでは食べられてなかったのかはわからないけど、急に食べられるようになって、そのうえりんごと呼ばれるようになったということから、俺と同じ別の世界からきた存在を感じとってもおかしくないと思う。
きた、これはきた!!
「街って、なに……?」
「はやりー? なにそれ気になるー! があう!!」
「街ではほかに何かはやってるものとかってあったの?」
「い、いっぺんに聞くなよ」
ルーシエはたじろぎながらも、一つ一つ丁寧に説明してくれた。
街とは人種が集まって生活しているとても大きな集まりであるということ、はやりはたくさんの人々のあいだで一気に広まること。そして、りんごだけじゃなく、とまとやいちごといったこれまではそのままでは食べられることのなかった赤い果実がそのまま食べられるようになっているらしい。
他にも、食材の新たな食べ方だけでなく、既存の食材をも使った新たな料理がどこからか流れてきており、いま食の革命が盛んになっているらしい。
もうちょっとそのあたりのことについて詳しく聞いてみると、俺の勢いに若干ひきながらもいろいろ教えてくれた。
本当に突然、これまでの常識はくつがえされて赤い果実が生で食べられるようになったこと。
おもに城下町を中心として、ぱふぇやけーきというおいしい菓子料理がはやっていること。
りんごだけなら確証はもてなかった。
しかし、パフェやケーキの存在で俺は確信した。
転生なのか召喚なのかはわからないけど、この世界には確実に俺と同じ地球の日本での知識をもった何者かがいるということを!
ちょこちょこ変なところを改稿しつつ更新していきます。
変な文章をなおすくらいで文章をつけくわえるとかそういうことはしません。