男子高校生1-7
「その日はいつもよりやつらの人数が多かったんだけど……これまでおとなしく言うことを聞いていたハーフたちに油断したみたいで、逆にやつらをしばりあげて山奥に放置して、私達は脱出したわ」
「なんでそんな簡単に逃げ出せるのに誘拐されたんだ……?」
「ハーフは魔法はともかく人種に比べて腕力とかは比べものならないくらい強い。なにか特別な道具でも使われたのか……?」
ハーフはやっぱり強いのか……。
チャットみたいに、みんな耳とか尻尾とかついてるんだろうか。
リトたちはやっぱりチャットの耳が気になるようでかぶかぶ甘噛みしている。ぎょっとしたがチャットはくすぐったいみたいできゃっきゃと笑っているだけだ。
「そのへんはあんまり詳しく聞いてないんだが……、ほとんど全員、わざと残っていたらしい」
「え?」
「あるものは金のため、あるものは捜査のため、あるものは移動手段として。もちろん全員ではないが。ほとんどハーフの交友会みたいな感じになっていた。逃げ出すことは許されず、ずっと馬車のなかで閉じ込められていたが、ご飯はでるし扱いがそこまでひどいわけではなかったから、ほとんど全員が誘拐ライフを満喫していた……。ハーフってのはどうしてあそこまで常識がおかしいやつらばかりなんだ……」
なんじゃそりゃ。
「俺達の知ってるハーフの認識とかわらないな」
「あいつら人間のまま獣種とかかわりもって育つから、常識とかいろいろおかしいよな」
なんていうかなんというか俺のイメージが……異世界住人イメージが……。
「場所をうつるたびにたまにハーフが増えていたんだが、次に向かう場所がついに私達全員の引き渡し場所らしく、さすがにそろそろ逃げ出すかと――チャットの世話ができる私の存在もあってだろうが、全員が重い腰をあげてようやく逃げ出すことを決意したんだ。逃げ出した私たちは、捜査のためにと誘拐犯たちになりすまして馬車をすすめるハーフと面白がってそれについていった何人かのハーフ、すすんできた道を戻ってとりあえず村か町にもどろうと考えた私たちとで二手に別れた」
「一件落着だな」
「あれ、じゃあどうしてルーシエたちはあんなとこでたおれてたんだ? はぐれたのか?」
ヴィス兄は不思議そうに首をかしげた。
俺も不思議だった。ルーシエのぼろぼろの恰好にも説明がつかない。
「いや、一度私達は全員町まで戻れたわ。それからしばらくゆっくりしたあと、私はチャットを親元に連れて行ってあげようって思って、一緒に町まで戻ったハーフの子の情報をもとにシエラ村ってところまで直接行ったの」
「月猫族がそんな村にいるなんて聞いたことないんだが……」
「行ったけどチャットの親らしき人はいなくて、一度町に戻ろうとしたんだけど、その途中で山賊に襲われて、この通り……。あのあたりの治安ってあんなに危ないなんて聞いてなかったわ……」
「……まさかとは思うが、ルーシエとチャット、たった二人で旅をしていたのか?」
「そうだ」
「「馬鹿か!!」」
バカだ!! この子バカだ!! この世界の治安状態とか普通がどういうものなのかはよく知らないけど、小さい子どもと赤ん坊の二人で山を歩こうとか考えるのはさすがにおかしい! 絶対におかしい!
シェイお兄さんとヴィス兄の声にびっくりしてミイたちは体を震わせた。チャットもびくってなって顔をくしゃくしゃにして泣きそうになる。慌ててシュウはチャットの顔をぺろぺろなめだした。シュウがお兄ちゃんっぽいことをしている……俺たちのなかではいつも弟てきな立場にいるからめずらしくてほほえましい。
「なんで山を赤ん坊と二人で超えようなんて思ったんだ!! バカなのか!!」
「え、だって、私山育ちだし、行きは問題なく超えれた。帰りも山賊に襲われなかったらちゃんと帰れた自信はある!」
「山賊に襲われてなくても不慮の事故だってありえるんだ! 人種が、いや、お前は先祖返りの可能性が高いからちょっと違うかもしれんが……とりあえず山をなめるな!!」
「ヴィス、ちょっとおちつけ」
「山をなめるなっていわれても、シエラ村のこと教えてくれたハーフの人が近くの町へ一度向かってから山を越えたこうがはやいっていったんだ! 言われた通り山を越えて何が悪い!!」
「いや、ルーシエ、お前ハーフのこと常識ないって言っただろう……なのにおとなしく言うことを聞いたのか……」
シェイお兄さんは呆れたようにため息をついた。
ルーシエは今気づいたようではっとしてがくっと首をおとした。
ハーフほどではないにしろ、ルーシエも山奥で暮らしてたっていってたし、多少常識はずれな価値観をもっているようだ。
それからしばらくシェイお兄さんやヴィス兄から説教が続いた。
子どもが、その子どもよりも一回りは大きい狼に説教されている若干シュールな場面は見ていてちょっと面白かった。
「山賊から逃げ出せたのは幸運なことだ。ふつうなら山賊のほうがその山のことを熟知しているだろうし、下手をすれば罠もあったかもしれない」
「……そこは、チャットのおかげでなんとかなった。山賊の気配が近づいたらチャットはぐずりだすから、チャットの反応を頼りにあちこち走りまわったんだ。だいぶ走りまわったから、疲れもあって一度休もうと思って荷物をひろげようとしたんだけど、そこでめまいがして……」
「ぱたりと倒れてしまったと」
「はい……」
「ばーーーーか!!」
ヴィス兄の声が再度山中に響きわたった。