男子高校生1-6
子どもとその赤ん坊の出会いは、俺にとって久しぶりに前世のことを思い出すきっかけになった。
悲惨な様子の子ども。狼の群れ。拾われる。赤ん坊。月。
それらで思い浮かべたのは前世で俺が読んでいた一作のネット小説。
タイトルは『狼少年と狼』。
童話風の冒険小説で、狼に拾われた少年とその弟が狼のもとで育てられ、のちに町におりて自分たちをいたぶってきた奴隷商人や権力者たちに復讐をもくろむ話だ。少年は持ち前のセンスと野生で磨かれた動きをもって兄妹狼とともに俺TUEEEEをしていく話だった。
もしや、これはかの有名な前世で読んだ物語や世界へいくタイプの転生だったのか?
俺は、この子どもたちとの付き合いが長くなることを予感した。
――のだが。
「私の名前はルーシエ、あなたのいっていた先祖返りなのかはわからないけど、月兎族を先祖にもつ人種だ。この子はチャット、たぶん、月猫族のハーフ」
「女かよ!!」
「喧嘩うってる?」
ルーシエの睨みにびびってシェイお兄さんのうしろに隠れる。
いや、だってこれって確実にそういうフラグだと思ったんだもん!
前世持ちなんて普通じゃない。少なくともシェイお兄さんは前世を持つことが普通なんて話一度もしていないし、ミイたちだってどう見ても前世持ちじゃない。
なぜ俺が前世の記憶をもったまま転生してしまったのか。
どうしても俺にはそこになんらかの作為的ななにかを感じずにはいられない。
だからてっきりこれはそういう前世で読んだ物語の世界に転生してしまったタイプなのかと思っちゃったんだ。
けっして男にしか見えなかったとかじゃないです! 最近は外見詐欺多いし、しかたないじゃないですか!
こわいんでほんと睨むのやめて。
「(がくぶる……)」
「ちっ」
こ、こええええええ。
「月兎族の先祖返りに月猫族のハーフか……」
「すげぇな。同じ月族に会うのはかなり久しぶりだ」
「かなり前の戦争で、ここらあたりの山には俺達以外獣種はほとんどいなくなったからな……」
「いても月族じゃなくて木族とか土族とかのよわっちいやつらばっかりだもんな」
え、ここの山って俺達以外にも獣種いたの?
全然知らなかった。
「成獣してない獣種は他獣種と会うことを良しとしないからな。近くにきたこともあったが、お前達の存在に気づいたらすぐにまわれ右してどこかへ行っていてくれていた」
「そうだったんだ」
「知らなかった……」
「リトも初めて知ったー」
「知った知った! がう!」
なるほど。だからヴィス兄達はここを一度離れて話を聞きに行っていたのか。
この辺りには俺達がいるせいで他獣種がいないから。
「どうしてルーシエとチャットはあんな山奥で倒れてたんだ。麓の村の人種だったのか?」
「いや、チャットはどうかわからないけど、私は違う。私は東のほうにある高い山の中腹にある小さな家で一人で暮らしてた。はじめはばあさんが一緒に暮らしていたけど、私が五歳のときに亡くなったから」
「東ほうにあるの高い山か……」
シェイお兄さんはなにか心あたりがあるようだった。
思案顔して何か考えている。
「ある日山で怪我をおった兎を見つけて看病することにしたんだけど、その兎に怪我をおわせようとした男たちが兎をおって私の家まできてしまって、気づいたときには誘拐されて両手両足がひもで縛られていて身動きがとれなくなっていた」
「その兎ってもしかして獣種だったのか?」
「たぶんふつうの兎だったとおもう。目が覚めたとき、兎はそばにいなかった。かわりにいたのが赤ん坊のチャット。他にもハーフらしき人種が何人か同じ空間に閉じ込められていた」
「ハーフ専門の奴隷商人ってことか……?」
「いや、いまは奴隷なんて制度はなくなった。もしも見つかったら重罪になるはずだ」
「じゃあハーフばっかを攫う目的ってなんだよ」
話が難しくなってきた。ミイたちはそうそうに理解を放棄して赤ん坊のチャットと戯れている。まるで会話しているかのようにコミュニケーションをとっているチャットを少し不思議におもった。言葉はしゃべれていないけど、うなずきや笑うタイミングがどう見てもおかしい。ミイたちの言葉を理解しているようにしか思えなかった。
不思議といえばルーシエもだ。
ルーシエはいったい何歳なんだ?
「わたし以外が世話をすると泣きだすから、自然と私とチャットは姉弟のような扱いをうけるようになった。そんなある日、私たちは見張りの目をぬすんで逃げ出すことに成功したんだ。ハーフの子はどの子も力が強くて、逃げ出すことは難しくなかったけど、チャットがまだ赤ん坊だから逃げる途中に泣きだしたら逃げられないからって我慢してたらしい。でも私が来たからチャットが泣くことはほとんどなくなったから、その日ようやく誘拐犯から逃げだすことができた」
ストックなしで投稿しているのでリアルの忙しさが更新頻度に影響されてしまいます。
申し訳ないです。