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男子高校生1-3

「シェイおにいさんはまだ帰ってこないのかな……。リュカ、大丈夫?」

「なんとか……。リトもシュウもちょっとはおとなしくシェイお兄さんの帰りを待てよ!!」

「おとなしく待つなんてつまんない! がう!!」

「ないないー!!」

 もうそろそろしたら久しぶりにヴィス兄とエマお姉ちゃんの帰ってくるころだろうと、シェイお兄さんは二人がいつ帰ってきても大丈夫なように狩りにでかけている。食事をしなくても生きていける獣種は、ときおりこうして何かあったときだけ娯楽としていろいろなものを食べる。毎晩月の光をしっかりあびるていれば死ぬことはないらしい。ほんとうにファンタジーすぎる。


 ヴィス兄とエマお姉ちゃんはあの日俺たちが襲われた日から何日かした後から、長期間棲み家を離れてどこかへでかけるようになった。鎧の男たちが現れたことについてなにか気にかかるところがあるみたいで、人の住む町や村の様子をうかがうためにわざわざ遠出をしているのだ。

 とはいっても狼である。基本的には人の住む町や村近くで暮らしている獣種の知り合いに声をかけて何か異変はなかったのかを聞きまわっているだけのようで、町や村自体はその周辺をうろついて遠目で確認するだけらしい。

 これだけファンタジーな世界の生き物なんだったら人間にはなれるんじゃないかなと思って聞いてみたところ、人種型をとることはできるとあっさり言われた。それなら旅人のふりでもして直接様子をうかがえばいいのにと思ったのだけれど、それの辺りを詳しく聞く前に、リトが俺たちのそばを離れて勝手に動きまわっていることに気付いて話は終わってしまった。


 リトはちょっと方向音痴気味なところがあるおてんばな女の子だ。一度森のなかを散歩してるときにテンションがあがりすぎてはぐれてしまったことがある。シェイお兄さんとエマお姉ちゃんが一緒になって丸々一日探しまわり、次の日の夕方になってようやくエマお姉ちゃんは見つかった。疲れて眠っていたリトをくわえて戻ってきたエマお姉ちゃんと、そのあとをぐったりした様子で帰ってきたシェイお兄さんに育児に疲れ切った主婦のような哀愁を感じた。

 リトほどは手がかからないものの、ミイはよく泣くし、シュウは人一倍(狼一倍?)こどもっぽくて甘えんぼう。俺だけはおとなしくちゃんと言うことを聞いているけど、頻繁にいろんな話をせがむからたぶんめんどくさい。

 なんというか、ほんとシェイお兄さんは一匹でよくこんなにめんどうな四匹を同時に世話できるものだと思う。大好きなシェイお兄さんの苦労が少しでも軽くなるように、最近はどんなに興味がわいても自重して三匹の面倒を優先的にみるようになった。



 はじめは異世界転生してしまったことに対していろいろ思うことも多かったし悩んだりもしたけど、今ではそんなこと考える余裕なんてないし、気にならないわけじゃあないけど、ほんと正直それどころじゃない。

 前世で読んだネット小説では、たいていの場合で前世の記憶を何かの役にたててチートなり思いのままの生活をしていたものだ。けど俺が今世になってしていることといったら、ファンタジーな狼の子守りだけ。転生してたったの一年しかたっていないが、月狼族は基本この生まれた森をでることはほとんどない種族だから今後にも期待しづらい。大きな戦争もないらしいし、魔王が!とか勇者が!!なんてことも予兆すらなし。異世界転生してファンタジーな狼に生まれ変わったけれど、前世の記憶がある必要性が全くない。これがもしも小説だとしたら、理由のない設定なんてと文句を言っているところだ。あ、そういうものだって納得できないからおれってこれだから運動部はてきな目で見られてたのかな。好きなものは一緒でも、好きな理由とか違うとおたくはつらいんだよな。いやなことを思い出した。



「リュカまた考え事してる! ちゃんとリトのことかまってよー! そうだ、前にリュカがいってたぷろれすごっこしよう!! がぅがぅ!!」

「ぷろれすぷろれすー」

「ちょ、やめ!!」


 今回初めてシェイ兄さんは俺たちだけを残して一匹だけで狩りにでかけたのだけど、もうむり、はやくシェイお兄さん帰ってきてください!!


 俺の上でごろごろころがったりぽこぽこウルフパンチ(ほとんど痛くはない)をしてくるリト、リトのよく動くふさふさの尻尾をきらきらした目で見つめるシュウ、地面に這いつくばって苦しむ俺を見て心配しながら、でも尻尾は左右にゆれているミイ。


 これでもしもミイががまんできなくなって俺のうえにのっかかってきて、シュウもリトの尻尾をおって暴れだしたりしたら圧死してしまうかも……!!

 もっとうまく三匹を世話したいところだけど、一人っ子でいとこもほとんど年上ばかりだった俺にはどうしようもない。やっぱり前世の記憶やくにたたない!!

 助けを求める必死の祈りが届いたのか、同じ月狼族の気配が俺たちに近づいてきていることに気づいた。獣種は本能的に同じ種族の気配を察することができるのだ。第六感的な。


「おいおい、リュカ大丈夫か? てか、あれ、シェイは?」

「ヴィス兄!!」

「あー! ヴィス兄だー! おかえりなさい!! ぐぁあ!!」

「ぐえっ!!」

「ヴィスにい、ヴィスにい!」


 シェイお兄さんよりも先に、ヴィス兄が帰ってきたようだ。

 リトは思いっきり俺の背中を飛び跳ねてからヴィス兄のほうにいった。内蔵が口からとびだすかと思った。

 シュウはヴィス兄の姿を確認したとたんにダッシュで近づいていったようで、俺が立ち上がってヴィス兄のほうに顔を向けたときはすでに足元にすり寄っていた。

 そして、いつもだったらミイもシュウやリトのあとを追ってヴィス兄にすり寄っていくのに、今日は目をうるませてヴィス兄に近づこうとはしなかった。

「ミイ?」

「リュ、リュカぁ……あれ」

「あれ?」

「ヴィス兄の背中……なんかいる……!」


 そう言われて初めて気づいた。ヴィス兄の背中になにかがのっている。毛布にくるまれたそれは、バランスよくヴィス兄の背中でうつぶせになって寝息をたてていた。

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