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男子高校生1-2

 簡潔に説明させてもらうと、俺はたぶん死んで、前世での記憶をもったまま転生をしてしまったらしい。

 ネット小説でよくあるやつだ。俺は運動部だけど、そういうラノベ的な小説とかマンガやアニメが大好きだからよく知っている。運動部だからといってこういうのに理解がないんでしょ、知ってるよ、みたいな目で見ないでほしい。ほんとお願いです。差別反対。

 とはいえ、部活に忙しくてあんまりがっつりはまって読んでいたわけでもないから、そんなに詳しいわけではないのは事実。にわかだ。

 チートだとかハーレムだとか、わりと楽しんで読んでたけど自分だったらとかあんまり考えたこともないし、自分が異世界トリップしちゃったからといってなにかしたいやってみたいと妄想を膨らませることもほとんどなかったわけで。

 つまりはあれだ。


 月狼族(けもの)になってしまったようで


 いったい何をするべきなのか、全くわからない。








「なんてことで悩んでた時期もあったなぁ……」

「リュカどうしたのー?」

「いや、なんでもないよ。ミイ」

 異世界転生してからかれこれ一年の月日がたった。一年ってほんとあっという間だと実感。特に、手のかかる幼い子の世話をしていると。


「またため息ついて、あんにゅいなきぶんなのー?」

「あんにゅいあんにゅいー! がぁぅあ!」

「にゅい!」


 上から、ミイ、リト、シュウ。はじめはあんなに小さな子犬だった三人も今ではこんなに大きく―――実はなっていない。三匹の大人組狼と同じように、鳴き声ではなく、ちゃんと会話ができるようにはなっているが、体のほうの成長はまだまだな子ども組狼だった。

 そう、俺もサイズとしてはまだ小さい子犬だ。

 たった一年とはいえ、子どものときの、というか生まれたばかりの赤ん坊にとっての一年で体がまったく成長しないなんてあるものなのかと、大人組の頼れるシェイお兄さんに聞いてみたところ、俺たち月狼族の成長はかなり特殊な形をしているらしく、ある一定の時期までは子犬のまま、大人組のように大きく成長することはないらしい。


 月狼族は主に暗い森のなかに住む獣種で、月の光から生まれ、月の光が力の源という大変ファンタジーな生き物である。満月の夜に力がもっとも発揮され、新月のときには驚くほど弱体化する。というか、新月の日でなければどんな致命傷を負っても死なないというチートでファンタジーすぎる生き物で、とても強いけれど、そのぶんわかりやすい弱点のもった尖った特性持ちである。

 チートな生き物なぶん、今では自分たち数匹しか存在しないかなりレアな種族らしく、あの日の鎧の男たちは思っていたとおりまだ幼い子狼だった俺たちをねらっていたようだ。


 大人組の頼れるシェイお兄さんによると、この世界には主に人種、亜人種、獣種、魔種といった四つに分類できる生き物がいて、それぞれが基本的には独立して関わることなく生きているらしい。

 シェイお兄さんは狼でほとんど森の外にでることはないはずなのにそこそここの世界の情勢には詳しいようで、何度もいろんな話を聞くうちにおおまかないわゆる世界観をつかむことができた。

 この世界には魔法が存在する。魔法で生活し、魔法で治療し、魔法で戦う。この世界の生きる物はほとんど例外なくこの世界にあふれる魔力を使うことができるらしく、それで風をふかせたり、火をおこしたり、水をだすことができるそうだ。種族や個体によって相性の差もあるらしい。すごく、すごくファンタジーだ。

 そのなかで魔種だけはこの世界にあふれる魔力だけでなく、生まれもった魔力を使って強力な魔法を使うことができる生き物らしく、そのため迫害をうけたり死ぬまで兵器として利用されるなど散々な目にあっていたらしい。かなり昔に一人の強い魔種が反抗して仲間をつのり、一つのまとまりとなって国をつくり身を守るようになるまでは、戦争もかなり派手な様子だったそうだ。聞く限り、およそ千人以上が立っていた地面が浮いたとか山に津波だとかファンタジーいきすぎてゲームの世界のような話がよくあったらしい。魔種すごすぎ。

 魔種は、人種、亜人種、獣種関係なく自らの魔力を使って巨大な魔力を操ることができる種族をまとめてそう呼ぶらしく、魔種の国ではこの世界では見ることのできない多様な種族が一緒に生活するめずらしい場所となっているらしい。


 マンガやアニメ、ゲームは元から好きだったからこの世界の話は聞くだけでもとても楽しい。子どもらしく、興味津々でいろいろ聞いてきたのだけど、一年でえられた情報はだいたいこれだけ。


 なぜならシェイお兄さんはたった一匹で俺を含めて四匹の子狼を育てなければならなかったからだ。



「リュカ、またかんがえごとしてるー」

「ねーリュカ遊んで遊んで!!がぅ!」

「がぅがぅ!!」

「ちょっと待って、リトもシュウもまだ子犬サイズだとはいえ俺も子犬サイズだから二匹も乗られると重いっていうかつぶれるー!!」


 月狼族は、成長して大人になると体も大きくなりとがった特性が身につく。しかし子どものころは体もずっと子犬サイズのままだし、月狼族としてのとがった特性も発揮されず、まさに捨てられた子犬と同じくらいほっとくとすぐに死んじゃうか弱い生き物である。

 そんなか弱い四匹の子狼をおいて、出かけていったまま帰って来なくなった二匹の狼のにかわって、たった一匹で俺たち四匹のお世話をしてくれているのがシェイお兄さんだ。


 シェイお兄さんはとてもすごいし、とてもかっこいい。

 三角形のピンとたった耳、月と同じ色をした瞳が獲物をにらむときの鋭さ、月狼族特有のにごりのない銀一色に輝く毛並は美しく、あまりの美しさに冷たさすら感じるほどだ。

 見た目はクールな美形狼だけど、実際は優しく物知りでときおり母性すら感じる。俺たち四匹がもみくちゃになって遊んでいるのを見て小さく微笑むシェイお兄さんの威力はすさまじく、いつも四匹できゅうきゅうもだえている。

 シェイお兄さんと出会って、ギャップ萌えがどうのこうのいっていた女子の気持ちがよくわかった。

 これが人間のイケメンだったらまた違うかもしれないが、シェイお兄さんは狼である。強くてかっこいい孤高の狼のたまに見せる小さい微笑み。初めてそれを直視したときは、四匹そろってシェイお兄さんのほう見てかたまってしまったのは記憶にあたらしい。俺はともかく生後一年もたっていない子狼にもわかるシェイお兄さんの魅力おそるべし。


 そんなわけでみんな大好きシェイお兄さんのために、前世の記憶があるせいか他の三人に比べて落ち着いている俺はみんなの兄貴分としてシェイお兄さんの負担が少しでも減るように頑張って三匹の相手をしているのだ。


「リュカ大丈夫? ……でもいいなー、ミイも乗りたいなー」

「ミイまではむり! 俺つぶれちゃう!!」

「つぶれろ、つぶれろぅ! があぅあ!!」

「れろれろー」

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