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男子高校生1-1

 がるうううぅぅ、がるうううぅぅぅ


 どこからか、けもののうなるような声がして俺は意識を覚醒させた。

 温かい何かにマフラーのようにくるまれているみたいで、目をあけてもあたりは真っ暗でなにも見えない。

 なんとかこの温かいものから抜け出そうと腕を動かしたところで、俺は違和感を感じた。けどその違和感もすぐにきえて、鼻を上のほうにぐいぐい押しつけて、なんとかマフラーのようなものから脱出しようともがく。

 もがいているうちにマフラーのようなもののしめつけがゆるくなり、俺はようやく顔だけをポフッとだすことができた。まず目にはいったのは、木々の間からうっすらと見える星空。月は見当たらない。たぶん、雲に隠れている見えないんだろう。

 けもののうなり声が聞こえた方向に顔を向けると、ファンタジーゲームでありがちな薄暗い森を背景に、鎧をまとった男二人と二匹の大きなけものが互いに牽制しあっているのが見えた。

 俺に背を向けている二匹のけものは、大きなふさふさのしっぽをたてて、低く男たちに向けて唸り続けている。男たちの詳しい様子はけものの大きな体のせいでうかがうことができないが、なんとなくびびっている気がする。

 なにがなにやらわからず、ぽかーんと口をあけて混乱していると、マフラーがほどかれて俺は地面にぽふりと腰をおとした。

 さっきからポフッだのポフリだのなんだかおかしい。

 俺はうつむいて自分の身体に目を向けた。

 手のひらには肉球。首の下から胸までのもふもふ。というか全体的にむっちゃもふもふ。

 これは、いやいや、まさかこれは――。

 きゅうぅぅ?

 隣から小さな犬の鳴き声が聞こえてきて、俺はゆっくりとそっちに顔を向ける。

 そこにはまだ幼い子犬が三匹いて、そのなかの一匹がこちらを見てつぶらな瞳をうるませて尻尾を小さくふっている。

 そしてその後ろ、二匹の大きなけものよりもすこし大きめの――たぶん狼が、背中に傷をおってうつぶせになってふるえていた。


きゃうぅぅぅん!!(うわああああああ!!)


 大きくうわああああと叫んだはずが、実際俺の口から発せられたのはかわいい子犬の悲鳴で、そのせいでもう一度きゃうぅぅぅん!!(なんだこれえええ)と悲鳴をあげてしまう。

 俺の悲鳴に気づいて二匹のおおきなけものの片方がこちらをふりかえった。もう片方も、目だけでちらりとこちらの様子をうかがう。

 その大きな二匹のけものもやっぱり狼だったようだ。その二匹がこちらに気をとられているうちに男たちは慌ててこの場を逃げだした。逃げた男たちは無視して、一度だけ大きく響き渡る遠吠えをしてこっちに近づいてくる。

 なんとなく、たぶんけものとしての本能で二匹が敵ではないことを察し、二匹に助けを求める。

きゃうきゃう!!(傷が!!傷がひどくて!!)

 子犬たちは事態がよくわかっていないらしく、たまにかわいく鳴き声をあげつつ怪我を負っている狼のそばでごろごろしたり、毛繕いしたりわりと自由にしている。一匹だけ、俺の隣で鳴いた子犬だけが心配そうに狼の顔をぺろぺろとなめている。

 俺も事態がよくわかっていない。けれど、なんとなく状況的に、この狼たちはたぶん俺や子犬を守ってくれていたのだということだけは雰囲気でわかった。

 俺をマフラーにしてくるんでいたのはその怪我を負っていう狼の尻尾だったらしく、俺がもがいているのに気づいて尻尾をゆるめたというよりも、怪我がひどすぎてちょっとづつ体に力が入らなくなったのだろうと思う。

 背中の傷は大きくななめに一線ひかれていて、たぶん剣がなにかで斬りつけられたんだろうということがわかる。

 狼の震えもおさまってとても危険な状態になっているように思えた。

 このままだと、死んでしまうんじゃないか……。血の気がひいていくのを感じて、隣に立っていた狼のうちの一匹の前足にもたれかかる。

きゃううぅ(どうにかならないのか……)

「大丈夫だ」

きゃう?(え?)

 すぐ近くで、声が聞こえた。鳴き声じゃない、声が。

「もうじき、雲がはれて月が顔をだすだろう。だから、大丈夫だ」

 隣に立っていた狼からその声は聞こえてきて、ただでさえ混乱していた頭が、さらに混乱して混乱して、なんだか気を失いそうになった。


 俺は、いつものように朝練のために朝早くに家をでて学校に行く途中に、たぶん事故にあって、そういえばあの子犬、ここにいる子犬に似ているな、てかここどこだよ、なんでおれ犬、いや狼かも、夢か、でもそれにしては感覚がはっきりしすぎてて、―――は?


 混乱して思考がぐるぐるしていると、狼の言う通り、雲のあいだから月がのぞいて見えた。月の光が優しくあたりを照らす。


 怪我を負った狼にもその月の光があたると、狼の体にきらきらとした雪のような銀色の粒が狼の体を覆い隠し、またゆっくりとその粒は消えていった。粒は傷のある背中からまっさきに消えていって、同時に痛々しい傷すらも一緒に消えていて、

「あー、痛かった。やだやだ。こんな傷負ったの久しぶりよ」

「たるんでるんだよ!」

「ここ最近子守りばっかりだったしな。しばらく俺が子守りをすることにしよう」

「えー? 最近動き回るようになってきたけどあんた大丈夫なの?」

「じゃあオレがやるー!!」

「「ヴィスはダメ」」

「えええええ!?」

 仲良くおしゃべりする三匹の足元に、子犬(子犬じゃなくて子狼なのかもしれないけど見た目はどう見ても子犬)がじゃれつく。

「おお、よしよし」

「もう大丈夫だぞ! オレとシェイで悪い人間はおっぱらってやったからな!」

「心配かけてごめんね? よしよし」

「――あぁ、そうだ。エマ、この子がすごくエマのこと心配してたぞ」

 鼻先でツンツンと耳のあたりをつつかれる。


きゃうう(なにが)


「かわいい!! 心配してくれたのね、ありがとう! わたしはもう全然大丈夫だからね!!」


きゃう(いったい)


「こいつ、全然鳴かないしほとんど動かないしで、ちょっと心配してたけど……、エマの危機で覚醒! って感じなんかなー?」

「そうだな、さっきまでのこいつとは何か全然違う……さっきまではずっと眠っているような感じだったからな」

「私の危機で覚醒?! もうかわいすぎーーー!」


きゃあうぅあ?!(どうなってるんだ――?!)



「あれ、倒れた」

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