大学浪人生の手記1
~1~
国立の医学部に入学するために必死で受験勉強をしているなか、無理をしすぎて倒れてしまってそのまま死んでしまい、地球とは違うこの異世界で獣種として転生してから約五年の月日がたった。
僕はこの異世界でたぶん二度目となる大きな戦争がおきている真っ最中に転生してしまった。主に人種たちのなかで都合よくつかわれていたのちに四大種族の一つに数えられるようになる魔種の独立戦争は、獣種をのぞく人種や亜人種と魔種の対立で争われた。反抗する魔種の数は敵の数に比べて少なかったが、その強い魔力を使って派手に立ち振る舞いその強大な力で独立を成功させた。そのあとは魔種だけが暮らす自治体を国として認めるように周囲に圧力をかけ、魔国という単純な名前でありながら人種の国よりもはるかに優れた法治国家をつくりあげた。
とまあ、こんなふうに歴史が大きく動いた事件の最中に転生してしまったせいで、僕は生まれてすぐに何度も生死の危機を迎え、ひいひい言いながらなんとかここまで生き残ることができた。
獣種以外にもしも転生してしまっていたとすれば、僕はとっくにこの生を終わらせてしまっていただろう。
小競り合いも戦後の後始末もすべてが終わった今は、戦争の傷をひきずりながらも、比較的に平和な雰囲気を取り戻しつつある。魔種のレジスタンスリーダー――――いまでは魔国のトップをしている魔王の手により、迅速に事態が収束したのがよかったんだろう。
いま、僕は独立戦争が終わり同じ獣種の型持ちである水亀族のジェロのもとで、様々なことを学んでいる。この手記は、僕がこの異世界で学んだことや知ったことを頭のなかで整理するためにこれから毎日書いていこうと思う。
亀の獣種は他の獣種に比べてもかなり長命なほうらしいから、日本での記憶を忘れないように、前世の記憶もできる限り書き綴っていきたい。
………
~28~
転生しておおよそ八年の月日がたった。
毎日書くとかいっておいて、なんだかんだ一週間に一回書ければいいほうだ。
でも仕方ない。今も水亀族のジェロのもとでお世話になっているのだが、ジェロに付き合って川をのぼったり海にいったりしていると一日はゆうに過ぎていくせいで、まずこのノートを手にすることがほとんどないのだ。
メモはしているといっても、きちんとしたレポートのようなかたちで残せてはないから、いつかしっかり整理して情報をまとめたい。
今日もまた、この異世界の不思議を知ろう。
………
~34~
転生しておおよそ十年の月日がたった。
最近では、これは手記のようなものなのだから日記にみたいに毎日書く必要はないと開き直って一ヶ月に一回でもページを開けばいいところになってしまった。
だが、今日からはもっと頻繁に手記をつづっていく予定である。
ジェロの元を去り、僕は人種の姿で旅をすることにしたのだ。ジェロのもとでたくさんのことを知り、この異世界の不思議について、たくさんの疑問がうまれた。それらを一つでも多く究明するために、僕はこの異世界――いや、この世界を旅し、たくさんの不思議を知りたい。
まずは自分が転生した獣種という種族について、その不思議な生態について調べることを第一目標とする。
~35~
旅をしてたった一日で、近くの山奥にすむ月狼族の群れに出会った。
ジェロの元を離れて、初めて獣種とエンカウントした。三匹の元気な若狼だった。
その三匹から、月狼族のことやその他三匹がこれまで出会ったことのある獣種についていろいろと話を聞くことができた。今夜はその三匹が暮らす大きな木の根元におじゃまさせてもらい、そこで人種の姿のまま休ませてもらうことにする。
若狼らは人種化した獣種の姿を見るのは初めてらしく、とくにヴィスという名の若狼は見た目が人種なのに獣種のにおいがかすかにするといって不思議そうにしていた。他の二匹にはよくわかっていないようだったから、この狼が特別そういう感覚に優れているんだろう。
同じ獣種でも、能力的な個体差は思っていた以上に大きいのかもしれない。
ずっと出したい出したいと思っていた亀の出番です。
大学浪人生の手記では、主に本編のほうでいれれなかったりまとめきれなかった世界観やら設定なんかを出来る限りひろってまとめていきたいと思っています。
ストーリーでは解明されない設定のネタばらしがちょくちょくはいります。
別に読まなくても大丈夫だと思います。