男子高校生1-9
よし、きた!
これは街におりるフラグだ!!
「あ、またリュカが、とりっぷしちゃってる……」
「いつものことじゃん。それよりもっといろいろ教えてー! ぱふぇってなにー? がうがう!」
「あうー、あぅあぅ」
「あうあう、あうあう」
ミイたちがなんか言ってるけど気にしない。
ようやく俺は、俺の物語が始められるんだ。なにをすればいいのかわからず、毎日ふわふわと生きていかなくていいんだ。
そうだな、ルーシエたちと一緒になんやかんやあって街におりたおれはそこで同じ前世持ちと出会い、きっとこの世界の謎とかそういうのを解明することになる。
実は前世持ちは種族別に何人かいて全員がそろってきっと新しい冒険が……!
いや、でも俺だけでいくのはなんだかさみしいっていうかシェイお兄さんたちやミイたちをおいていくのはいやだからどうせだからみんなで街におりていきたいな。確実にシェイお兄さんとかただものじゃないし、きっとチート楽しいです展開になるんだろう。俺にはわかる……!
「……あの子大丈夫なのか?」
「リュカは一人で考えこむことがよくあるんだ。気にしてやらないでくれ」
「あいつはうまれたときからかなりミイたちとは違ったからな、まあそういう狼もいるだろ」
「ふへへへへ」
「ほんとうに大丈夫なのか?!」
その日はもう遅いから、というのと疲れたルーシエたちを休ませないといけないということで就寝することになった。
俺は流れがかわったことを確信して、いろいろと今後の展開を想像していたせいで眠れず、シェイお兄さんに強制的に眠らされるまで、ずっと月を見つめていた。
きっと、明日か明後日の晩にはきれいな満月になるだろう。
「――――で、――――――だから」
「――――わかった」
「かなり――――――だったか?」
「あぁ、たぶんまだ――――」
まどろんだ意識のなかで心地よくうとうとしていると、遠くからシェイお兄さんたちが話している声が断片的に聞こえてきた。
ルーシエとヴィス兄の声もなんとなく聞こえる。
朝になったことに気づいて、俺はぐーっと背中を伸ばして大きくあくびをした。
昨日夜更かしをしてしまったせいで、少し寝過ごしてしまったようだ。ほかの子ども組はまだ気持ちよさそうに眠っている。眠っているときの無防備な姿はまさに子犬同然だった。
狼とはなんだったのか。
「――そういうわけだから、ルーシエ。お前たちはここでしばらくのあいだでいいから俺たちと一緒に暮らせ」
「あぁ、わかった」
「えぇ?!」
耳を疑う話が聞こえてきて、俺はいきおいよくシェイお兄さんたちのいるほうへ顔を向けた。
そこには、見たことのない幼い美少女がいた。
「だれ?!」
「はぁ?」
その美しい美少女は俺に向かって思いっきり眉をひそませてにらみつけてきた。
この恐怖……昨日体験した気がする。
え、いや、まさか。
「ルーシエが女になった!!」
「わたしはもともと女だ!!」
思いっきりげんこつをおとされた。
「俺達月狼族は月の光が力の源だってことは話したな? だが、月の光以外にも、獣種は共通して、同じ月族なら月族の力をわけてもらうかたちで栄養をというか、人種らでいう食事のようなものをすることができる。幼いころなら何族であっても自由に栄養をうけとることができるが、やはり同じ族であるかせめて同じ型である獣種の力をわけてもらうほうがいい」
だからこそ―――、そういってシェイお兄さんはチャットをひざにのせて、その細身ながらも筋肉質な両腕で優しくあやしはじめた。意外にも、赤ん坊の相手には慣れている様子だった。
「チャットはきっと久しぶりに出会った同じ月族の力をもつルーシエに一際なつき、さりげなくルーシエから力をもらっていたんだろう。そのせいで、ルーシエはどんなに食べても太らないし、むしろ細くなるばかり。だけど、昨日満月に近い月の光を思いっきり浴びれたおかげで大きく回復したんだろう」
「なるほど、だからあんなに疲れやすくなってたのか……」
シェイお兄さんの言うとおり、今日のルーシエは昨日と違って肉を食べたわけでもないのに多少肉つきがよくなり、髪もどことなくつややかになっているようだった。少し健康的な雰囲気になっただけでかなり印象が違う。
そして、なんと今回シェイお兄さんがついに人種化をした。
淡い光につつまれたかと思うと、切れ長の瞳が印象的な冷たそうな美青年が現れてとても驚いた。髪色や瞳の色、そして声は元のシェイお兄さんのままだったから少し安心した。
人種化するためにはもってる魔力を全部一度なくして空っぽの状態でないとなれないらしく、ほとんどの獣種はそんな自分を弱体化させるようなことをわざわざしないそうだ。
でも今回、ルーシエとチャットとしばらくのあいだ暮らすことを決め、マイナスにしかならない人種化を一度することにしたらしい。
次かその次で男子高校生編はいったんおわりです。
きりよく次でまとめたいところ。