はい、つまり死ねばよろしいのですね?
登場人物が死ぬ話が苦手な方は読まないいいです。
ご不快になられても、責任がとれません。
死にました。
おそらくは、脳卒中というやつで。
そして、転生しました。
異世界に。
――訂正。
元の姿のまま、転移、したようです。
「これはこれは……一体どういうことでしょう?」
普段はTPOを意識して使わないようにしている本来の口調が、思わず出てきてしまいます。
それも、仕方のないことだとご勘弁いただきたく願います。
ただならぬ頭痛によって意識を失い、気がつけばまさしく幻想的な夜の森の中。仰向けに倒れていた体勢から起き上がって辺りを見回してみると、暗い中でも目を惹く見慣れぬ美しい花々が咲き誇り、これまた目を惹く様々な色の光球が飛び回っているのです。ちょうどそこは巨樹が離れて並んでいる、広場のような場所。見上げた空に驚くほどの星々と、ただしく、青白く輝く巨大な月。
えぇ、私が暮らしていた世界の月は、ぼんやりとした淡い黄色だったと心得ております。
それ以前に、ただの光の乱舞ではなく、明らかに意志を持って飛び回る光球など、果たして存在しているのでしょうか?
夢を見ているのですね、きっと。
そう思わず結論付けても、おそらく多くの方が同意してくださるでしょう。
それほどまでに、非現実的な光景です。
――最も、ここが夢であれ、現実であれ、私にはさほど変わりはありませんが。
上半身だけを起こした体勢から、学生服についていた土を払いつつ立ち上がってみます。
酷く神秘的に見える、眼前の光景。
思わずしばしの間見惚れ……たのが、まずかったようです。
ガサッ。そう、自らの後ろの茂みが揺れるのに肩を跳ねさせて振り返ると、そこには。
とても可愛らしいとは言えないサイズ。
実に凶悪なお顔をされた、大熊さんがいらっしゃいました。
「おや、これはいわゆる」
詰んだ、と言うやつですね。
その言葉を残し、私は大熊さんにガブリ、といただかれました。
それはもう、間違いなく。
頭から盛大に、ぱくっと。
はて、しかし。
ではどうして、私はまたこの広場に転がっているのでしょう?
眩しさに瞳を開けば、夜とはまた違った鮮やかな光景を見せてくださった、この広場。
見上げた空には見間違いようのない太陽が浮かび、良く晴れた天から光を降らせています。
ゆっくりと起きて、もう一度確認。
はい。どうやら私、まだ生きているようです。
――訂正。
また、生き返った、と言ったところなのでしょう。
「これはこれは……一体どうすれば良いのでしょう?」
そう呟いた私の頭の中に、一つの声が届きました。
それによって、私はこの世界での私の在り方を見出し、旅を始めることとなります。
声は、私にこうおっしゃいました。
『おまえはこの先、数えられぬほどの死を経験し、そのたびにまた甦る。これは、我の遊戯のひとつに過ぎん。おまえは我の玩具のひとつとして、この世界で最期の死がおとずれるまで、その運命に従って生きることしか出来ない。……まぁ、せいぜい我を楽しませろ』
私は、笑顔で返事を返させていただきました。
「はい、心得ました。つまるところ、私は数えられないほど死ねばよろしいのですね?」
『……何?』
不思議なことに、私の頭へと声を届けていらっしゃるそのお方は、先の私の言葉に驚いたように問われました。
はて、私は何か間違ったことを言ってしまったのでしょうか?
確認のために言った言葉が間違っていては、この世界での私の生き方をただしく再現することが出来ませんね。
では、もう一度。
「はい。もう一度言い直させていただきます。――あなた様がおっしゃられたお言葉を、私なりに解釈いたしますと、私はこの世界で、あなた様の玩具として、数えきらないほどの死を体験しながら、生きてゆく――という事であると理解しましたが、これでよろしいでしょうか?」
『……』
今度は説明があまり得意でない私にしては上出来なほど、良く言えたと思ったのですが、その方は沈黙してしまいました。
ややあって、ぽつり、と声が響きます。
『……面白い』
「そうでしょうか?」
反射的に問い返した言葉に、次は笑い声が返ってきました。
『実に愉快! これは思わぬ儲け物だ。死を恐れぬときたか! おまえ、それでも〝人間〟か?』
実に楽しそうにそう問われるお方に、小さな苦笑がこぼれてしまったのは、許していただきたいです。
一体私のどこをどう見て、人間でない、とこの方はおっしゃっているのでしょう?
もしや、私に声だけしか届いていないように、あちらにも私の声しか届いていないのでしょうか?
そうであるならば、仕方ないとは思いますが……。
と、疑問はつきませんが、いつまでも黙っているのは失礼です。
私は苦笑を引っ込めて、この言葉に返します。
「ご期待にそえず申し訳ないのですが、私はれっきとした人間でございます。ただ、少し……」
そう、私の〝考え方〟は、ほんの少し。
「私は、一般の方々とは異なった考え方をしているようではありますね」
『――なるほど』
声は、酷く納得したような響きを宿していました。
以来、私はこの箱庭の異世界で、旅をしています。
元は二人の男神と、一人の女神の三人の神々が創造したらしきこの世界。
三人の男女神のうち、一人の男神と元々一人しかいなかった女神が愛を育み、残されたもう一人の男神は不貞腐れて邪悪の道に走った、という伝説は、あながち間違っていないように思われます。
さて、今日はどのような死が、私に降りかかるのでしょうか?
端から端まで、私が生きていた元世界の、すんでいた国、その四つ国の面積ほどしかない円盤状のこの異世界にて。
私は今日も、元気に死をまっとうしております。




