姉弟を襲う恐怖!
孫悟空は桃源郷にて手に入れた力は五行の力であった。
もはや敵無しの孫悟空と思いきや・・・
それは丑三つ時
寺院にまで続く長い階段道を私達姉弟は登っていました。
「フォン!早く来なさい!」
「お姉ちゃん待ってよ~!」
私達は寺院におられる大僧正様に、差し入れの饅頭を持って行く所でした。
あっ!すみません!
私の名前はファン。後から付いて来ているのが弟のフォンと言います。私とフォンは寺院までの長い階段道を登って行く。
《ガサッ…》
そんな私達を物陰から覗き見る者がいるとも知れずに・・・
「ウケケ…人間のガキだ!美味そうだ…人間のガキは肉が柔らかいからなぁ…」
私達姉弟に迫る脅威。それは最近この辺りに出没しては人間を襲い、人肉を喰らう妖怪だったのです。
その妖怪は私達を獲物と見定めると、突然私達の目の前に飛び出して来たのでした。
「きゃああああ!」
その姿は蛙頭をした半獣半妖の化け物!
恐怖に怯えながらも私はフォンの手を握り締めて階段を駆け登り逃げたのです。
フォン「お姉ちゃん!」
ファン「フォン!走って!」
が、蛙妖怪はゆっくりと私達を追って来る。
そこには獲物をわざと逃がし狩りを楽しむ。そして絶対に逃がしはしないという余裕が見て取れました。
蛙妖怪「グヘヘ…逃げろ!逃げろ!だが、絶対に逃がさないゲロよ!」
「アッ!」
駆け上がる足は思った様に動かなく、
とても時間が遅く感じられました。
身体は震え、
足が浮き…
息が苦しい
その時、弟のフォンが階段に足を引っ掻けて転んでしまったのです!
「フォン!」
私は引き返しフォンを庇う様に抱きしめたのでした。
逃げられない…
殺される!
覚悟した私達姉弟を妖怪は下卑た笑みを見せて近付いて来る。
蛙妖怪「さぁ!覚悟しなゲロよ?寂しくないように二人まとめて喰らってやるゲロよ!」
蛙妖怪の手が私達に迫ったその時でした。
蛙妖怪「うぎゃあああ!」
突如、目の前の蛙妖怪が苦しみ出したのです。まるで電撃を落とされたかのように身体を焦がしながら??
蛙妖怪「何だこれは?どうなってやがぁるぅゲロ!?」
その時、背後から私達を呼ぶ声が?
「お前達!こっちへ来るのだ!」
ファン「だ…大僧正様!」
そこに現れたのは大僧正と呼ばれる高僧様だったのです。
私達は立ち上がり、大僧正様の後ろに隠れたのでした。
蛙妖怪「何だ貴様は?」
大僧正「ここには結解が幾つも張られている!貴様達妖怪は決して入っては来れまい?」
大僧正様は数枚の術札に念を籠め、蛙妖怪に向かって投げつける。術札が蛙妖怪に貼付いたのを確かめると、同時に隠れていた数人の僧侶達が現れたのです。僧侶方は指先を交差させながら繰り返し呪文を唱えている。
大僧正「妖怪よ!我等人間の力は小さくとも!数集まればお前達妖怪にも負けはせぬぞ!」
『炎雷念爆札』
蛙妖怪「うぎゃああああああああ!」
雷と炎の念気が札から放たれると、雷と炎は蛙妖怪に纏わり付いて消滅させたのでした。
全てが落ち着いた時、緊張と恐怖から一気に解き放たれた私と弟は、つい泣き出してしまったのでした。
大僧正「ほれほれ!大丈夫だよ?寺に温かい茶と菓子があるから食べにおいで?」
ファン「だ…大僧正様…」
そうです。私達の住むこの村の近くには高い位の僧侶様が集まる寺院が幾つもあり、こちらの大僧正様が全ての寺院を束ねておられるのです。そして人間を襲う妖怪達の魔の手から、力なき人間達を守ってくださっているのでした。
私とフォンはそんな大僧正様を尊敬していました。
同時刻・・・
私達のいる村から少し離れた別の寺院で事件が起きていたのです。そこには百人近くの僧侶様がいたはずでした。にもかかわらず、物音一つしないどころか誰一人といない?
もぬけの殻?
「兄じゃ!ここも終いだな?」
「あぁ…次行くか!確かもう少し東に行った先に大きな寺院があったはずだ!」
「じゃあ、今直ぐに行こうぜ!」
「待て!」
兄じゃと呼ばれし者が、突然持っていた刀を壁際に向かって投げつけたのです。
「うぎゃああ!」
刀は隠れていた僧侶の胸を貫いたのでした。
「何だ?まだ生き残りがいたのか?」
「ふっ…」
生き残った僧侶が震えながら二人の男に懇願し命乞いをする。
僧侶「命ばかりはお助けを!お願いします!殺さないでください!殺さないでください!お願いします!助けてください!」
二人組は僧侶を見下ろしながら、
「ん?馬鹿か?生かしておくと思うか?」
僧侶「そんな…」
しかし一方の男は
「まぁ、待て!」
そう言うと、男は生き残った僧侶に変な事を質問したのです。
『お前の名前は何と言う?』
突然予想外に名前を問われて、僧侶は素直に名を答える。
僧侶「わ…私の名前ですか?…わ…私は…」
その直後、命乞いをした僧侶の叫び声が響き渡ったのでした。
一体、何が起きたのでしょう?
場所は再び変わり、私とフォンは大僧正様に連れられて寺院の中にいたのです。
大僧正「怪我はなかったか?ファン?フォン?」
ファン「はい!これも全て大僧正様のお陰です!本当にありがとうございます!」
フォン「ありがとうございます!大僧正様!」
大僧正「お前達が無事で本当に良かった」
私とフォンは出された菓子を戴きながら大僧正様と会話していたのです。
大僧正「それにしてもお前達は幾つになったのだ?」
ファン「私が十四でフォンが十になります」
大僧正「そうか…お前達がここに来てもう五年になるのか…」
私とフォンは身寄りのない孤児だったのです。行き場のなかった私達姉弟を大僧正様がこの近くにある村まで連れて来てくださり、ここで生活出来るようにと世話をしてくださったのです。
大僧正「それにしても…」
ファン「?」
大僧正様が不安になられているのは、ここ最近になって妖怪達の動きがやけに活発になっているからなのだそうです。この寺院からも力のある僧侶様方が各地に依頼を受けて、妖怪退治に赴いていたのでした。
大僧正「まさか、この本寺院の麓にまで妖怪が踏み入れて来る様になるとはのう…」
ファン「わ…私達は大丈夫なんでしょうか?」
大僧正「大丈夫だ…そのために我々僧侶がいるのだからな?安心するが良い!」
そう言うと大僧正様は優しく私達の頭を撫でてくれたのです。
フォン「お姉ちゃん!大僧正様がいれば安心だよね!」
ファン「そうね!」
大僧正「ハハハ…さぁ?ゆっくりして行くが良い!」
そこに大僧正様に急ぎの用事があると若い僧侶様が入って来たのです。すると大僧正様が強張った顔付きになったのです。そして無言で立ち上がると、早々と出て行こうとしたのです。
ファン「何処に行かれるのですか?」
大僧正「少し用事が出来たみたいなのでな?失礼するよ!お前達はゆっくりしていきなさい…」
そして付け加えて言ったのです。
大僧正「私が戻るまで、決してこの部屋から出てはならぬよ?」
突然真面目な顔付きで出て行く大僧正様の背中を見た時、私は何かとても嫌な予感がしたのでした。
大僧正「揃っているか?」
そこには錫杖、剣や独鈷杵を手に武装した僧侶達が深刻な顔付きで集まっていたのです。
僧侶「大僧正様!やはり東の寺院との連絡が一切つきません!それ所か様子を見に行った使者さえいつになっても戻っては来ないのです!」
大僧正「一体、何が起きていると言うのだ?」
その時…
この寺院の入り口に不穏な二人組みが足を踏み入れたのでした。
結解が反応する!?
大僧正「何者か良からぬ者がこの寺院に入り込んだようだ!お前達は早急に戦いの準備をせよ!」
僧侶達「ハッ!」
武装した僧侶方は大僧正様と共に戦いの決意を固めたのでした。
その頃、寺院へと繋がる階段道では・・・
「うぎゃあああ!」
「うがああああ!」
断末魔の叫び声、幾人もの僧侶が無惨な屍として転がっていたのです。
「兄じゃ?ここの僧侶達はやけにイキが良いなぁ?」
「ふふふ…それでこそ、ここまで来た甲斐があるって事だ!」
その二人は二メートル近くある大男。
一人は銀髪をボサボサに伸ばした細身の野生味溢れた男。
もう一人は金髪を後ろにオールバックに整え、少し知的さの見える男でした。
しかし二人の男達の目は獲物を狙う野生のギラついていたのです。
二人は楽しむかのように武装した僧侶達を血祭りにあげていく。
人間離れした驚異的な強さで蹴散らす姿はまさに化け物染みていました。
いえ!二人の額には一本の角が突き出ていていたのです。それはこの二人が人間ではなく妖怪である事を証明するには充分でした。
二人の妖怪は階段を全て登りきり、寺院の中にまで入って来たのです。
そして二人は寺院の中にまで入って行き、広間の扉を開いたのでした。
そこには、
「おっ?待ち伏せとはスゲェ歓迎のようだな!」
「フフフ愚かな人間風情が!」
二人の侵入者の前には大僧正様と武装した僧侶様達が待ち構えていたのです。
大僧正「お前達妖怪だな!この妖怪退治を生業としているこの寺院に入り込むとは、馬鹿な奴達よ!」
しかし二人の妖怪は怯む事なく、逆に笑みを見せてこの状況を楽しんでいたのです。
「ふっ…人間ごときが戯言を!」
「恐い恐い!本当だな!弱者の人間達が調子に乗って、マジおもしれぇ~ぜ!」
大僧正様が手を上に挙げて合図すると、仲間の僧侶様達が二人の襲来者を囲む。
大僧正「皆!妖怪を討つのだ!」
大僧正様の掛け声で武装した僧侶様達が攻撃を仕掛けたのです!
「ヘヘヘェ!俺達に喧嘩売るとは生意気だぜぇ!冥土の土産に教えてやるぜ!俺の名前は銀角!」
「俺は金角だ!」
銀角と名乗る妖怪は右手に冷気を混ぜた妖気を籠めると、それは凍り固まって氷の鎖大鎌となったのです。そして振り回しながら武装した僧侶様達に投げ付けたのです!
銀角「細切れに、斬り裂かれちまぃなぁ!」
「うぎゃあああ!」
鎖鎌に切り裂かれた僧侶達は、身体に寒気を感じたかと思うと凍結していき、そのまま真っ二つになった後、粉々になっていく。
大僧正「クッ…結解陣を張るのだ!」
僧侶達が大僧正様の合図で呪文を唱えると、部屋中にに仕掛けられてあった術札が作動し、二人の妖怪の動きを止めたのでした。
大僧正「この結解の中では、如何なる妖怪も身動きは出来んぞ!」
しかし、それでも金角と銀角は余裕の笑みを見せていたのです。
銀角「あんな事を言ってるぜ?金角兄じゃよ?」
金角「こんな物で俺達を止めようなどとは片腹痛い!」
金角と銀角の身体から妖気が立ち込めると部屋中にあった結解が弾けたのです!
大僧正「ば…馬鹿な?あの気は妖気ではないではないか?あれは!あれはまさか!神気なのか!?」
金角「驚いたか?人間よ?俺達は妖気だけでなく神気をも使えるのだ!人間が作った玩具〔結解〕など役には立たん!もはや我等を止める事は何者にも出来んぞ!」
金角の神気が辺り一面に放たれると、結解札が全て消滅したのでした。
大僧正「ば…馬鹿な…貴様達は一体?」
《コトッ…》
「大僧正様?」
そこに何も知らない私と弟が、いてもたってもいられずに入って来てしまったのです。
そこで私は、
ファン「キャアアア!大僧正様!」
私が見たのは血みどろの惨劇だったのです!
私が見たのは悪夢?
それは正に地獄絵図のようでした。
散らばる僧侶方の無惨な屍の中央に、二人の一本角の妖怪が立っていたのです。
銀角「ん?ガキがいるぜ?」
金角「ガキ等必要ない!始末しておけ!銀角!」
銀角「ああ解ったぜ!金角兄じゃ!」
銀角と呼ばれる妖怪が私達に向かって来る!
大僧正「そうはさせぬぞ!」
『発火法術!』
大僧正様が放った炎が金角と銀角を包み込んだのです。
フォン「やったー!」
ファン「大僧正様!」
大僧正「お前達…逃げるのだ!早く!ここは私が食い止める…だから…」
えっ?妖怪達は今、大僧正様が倒したはず?
その時、私は見たのです!
銀角と銀角を覆っていた炎が消え去り、そこには傷一つなく平然と立っている姿を!
ファン「大僧正様も一緒に逃げましょう!」
すると大僧正様は私達に逃げるように合図した後、
大僧正「私は逃げはせぬ…お前達を逃がすためにな!だから逃げよ!そして三蔵法師と呼ばれる僧侶殿に助けを求めるのだ!」
…三蔵法師様?
大僧正様は私と弟を逃がそうと、二人の妖怪を食い止めるために残ったのでした。
銀角「逃がしはしねぇよ!」
大僧正「行かせはせん!」
大僧正様は札を撒き散らせた後、印を結び
『多拡手火炎術』
※タカクテカエンジュツ
金角と銀角に向かって火炎放射を放ったのでした。
銀角「無駄だと解らないのか?愚かな人間が!」
銀角が鎌を振り回すと、その風圧で炎がいとも簡単に消えていく。そして大僧正様に向けて氷柱を投げつけたのです!
大僧正「ぐわぁ!」
氷柱は大僧正様の肩に突き刺さり、血が噴き出す。
銀角「慌てんなよ?今殺してやるからよ?」
金角「待て銀角!」
大僧正様に近寄ろうとする銀角を金角が止めたのです。
銀角「兄じゃ?ああ…なるほど…」
すると金角と呼ばれる妖怪が懐に入れて持っていた瓢箪の蓋を開ける?
金角「おい!そこの人間!貴様の名前は何と言う?」
大僧正「何?私の名前は朱恩!決して貴様達の好きにはさせぬ!私の命に代えてもお前達を道ずれにしてやるぞ!」
大僧正様は死ぬ気だ…
大僧正様はその身体に炎の術札を何枚も忍ばせていたのです。
大僧正(私事…自爆してでもあの化け物達を始末せねば!あの者達は危険だ!そして、あの子供達を助けねば…)
そう覚悟した時、金角と呼ばれる妖怪が叫んだのです?
金角『朱恩よ!』
大僧正「何だ!?」
大僧正様が金角の呼び掛けに返事をしたその時です!
大僧正「こ…これは?あっ!あっ!うわああああああああああああ!」
驚くく事に大僧正様の身体が金角の持っていた瓢箪の中に吸い込まれてしまったのです!
《スポン!》
私は目の前で起きた信じられない現状に自分の目をうたぐりました。
そんな・・・
ハッ!
私は我に戻り、咄嗟にフォンの手を掴んでこの場から逃げ出したのです。
銀角「逃げちまうぜ?」
金角「そう遠くには逃げられまい!それよりこれは上玉だ!」
金角は持っていた瓢箪の中身を呑みはじめたのです。
中身は酒?
金角「さて、これを飲み終えたら…」
銀角「そうだな!」
『人間狩りの時間だ…』
孫悟空「まさか!この俺様が登場しないなんて!ありえん!一体あの人間の姉弟は何なんだ?俺様の許可なく突然、語り初めてよ~」
八戒「そもそも語りはいつもどうやって決まるらか?」
沙悟浄「許可なんて必要ないですよ!あるとしても、この物語を書いている河童王子さんに、物語中に語り申請だして、オーディションして通れば次の話を語れるのですから!」
孫悟空「マジか!!有りか?そんな裏事情!」
三蔵「馬鹿者!あるか!そんな話が!そもそも誰だ?その河童なんたらとは?」
孫悟空&八戒&沙悟浄「さあ~???」




