古の亡霊 番外 * (アオイ&マサ)
「・・・ん・・・ううん・・・」
ぼんやりと瞼を上げたアオイは、否応なく視界に飛び込んできたそれに、一気に眠気が吹き飛んだ。
「よ、おはよ」
サングラスを外したマサの笑顔と、好奇心に満ち満ちた無数の視線と笑顔。
落ち着こうとすればするほど、肩と右半身にマサの温もりをイヤというほど感じた。
「な、な・・・」
「やだぁ。何、赤くなったり青くなったりしてるのよ」
もう、アオイってば可愛いんだから
冷やかしとも取れる声に、アオイは反射的にマサから離れる。
「な、なんで・・・どこだよ、ここ!」
「私のお店よ。覚えてないの?」
嬉しそうな笑みを浮かべる剣持由美子ママに、アオイはイヤな予感がした。
「お、覚えてないのって、何をさ。第一、どうして・・・。ここ、ママの店なんでしょう。だったら、なんで他の店の人間がこんなに居るんだよ」
自分に視線を注いでいる女性だちを指し示す。
「どうしてって、ねぇ」
「ねぇ。2人ともただでさえ目立つっていうのに、今回はものすごく目立ってだし・・・だから、ねぇ」
女性達は「ねぇ」「ねぇ」頷きあう。
要領を得ない答えに、アオイは苛立つ。
「だから、なんだってんだよ!」
「アオイ。あなた、マサに抱えられてここまで来たのよ」
「・・・まさ、か」
ママの言葉に、アオイは血の気が引いていくのを感じた。
「いくらなんでも、俺の家に連れていくわけにもいかないかと思ってさ。だからって、他に行くとこなんて思いつかなかったからな。あの後、お前を抱えたままここへ来たんだぜ」
「う、そ・・・」
「本当。お前ってば途中で寝ちまってさ。・・・可愛かったぜ。俺の服をギュッと掴んで、目には薄っすらと涙を浮かべてさ」
思い出すように、一言一言ゆっくりと噛み締めながら言うマサに、アオイは口を動かすばかりで何も言い返せない。
「絵になってたわよねぇ」
「そうねぇ。・・・でもさぁ、やっぱりショックよね。アオイが女の子だったなんて」
「ほんと、ほんと。あたしなんか密かにアオイの事、狙ってたのに」
大きな溜息が次々と漏れ聞こえてくる。
アオイはソファの上に足を乗せ、両手で頭を抱えた。
「本当はさ。いくら一番奥とはいえこんな店の中じゃなくて、ちゃんとした部屋借りてそこに寝かせてやろうと思ったんだぜ。だけどお前が俺の服掴んだまま、ちっとも離してくれないし、この人達がお前の寝顔見たいっていうからさ」
マサはアオイの頭をポンポンと叩きながら、実に明るくそう言った。
「・・・あぁ~もう。もう帰る!」
勢いよく立ち上がると、アオイは女性達を押し退けて歩き始める。
「きゃっ。アオイったら照れちゃって、カワイイ」
後ろにハートマークでも付きそうな台詞に、アオイの顔が赤くなる。
「うるさ・・・きゃっ」
ふいに腕を引っ張られ、アオイは思わず女らしい小さな悲鳴をあげた。
「ひとりで行くなよな」
腕の中にアオイを収めながら、マサが優しく笑う。
「嬉しいわ。アオイが女の子らしくなって。マサ、アオイの事よろしくね」
ママが追い討ちをかけるように、胸の前でパンと手を合わせた。
暫く絶句していたアオイだったが、マサの腕を思い切り振り解くと、フンと鼻を鳴らして歩き出した。
「あっ、おい。待てよ、アオイ」
バタバタと騒がしく2人が店を出て行く。
それを見計らったかのように、今度は奥の部屋から男が姿を現した。二木だ。
「これでなんとか一安心ですかね」
「そうですね。あとはこのままマサが少しずつ、アオイのキズを癒してくれる事を祈るのみですね」
ママは愛しそうに、2人が出て行ったドアの方を見た。
「大丈夫よぉ。アオイってば、昔に比べたら明るくなったもの。・・・ところで、アオイのキズって何?」
隣りで聞いていた女性の台詞に、ママと二木は顔を見合わせて苦笑する。
「そうね。一種の人間不信かしらね。さぁ、早く自分のお店に戻らないと、クビにされるわよ」
さぁさぁ、ママに促されながら各自の店に戻っていく女性達は、結局、アオイのキズが何であるかわからないと首を傾げていた。
いつか、グリス視点の話を書いてみようかな。グリスにとってアオイはどういう存在だったのかとか、裏切る切っ掛けとなった出来事とか。
1/18 余白を少し増やして、読みやすくしてみました。