表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

忘却 6 * (蜜蜂&クーニャ)

「ねぇ、ロイ。あなたは一体何をみているの? 光り? それとも闇? 私は・・・私は闇だけ。モデルなんていう華やかな仕事をしているけど、所詮は血に染まった一生を送ることしかできないのよ」


ルーシカは窓に寄りかかるように、山葉リンを見た。山葉は、そんなルーシカを穏やかな顔で見つめ返している。


「ふふっ。昔のように叱ってはくれないのね。無理もないか。あなたはもう『ロイ』じゃないのだものね。でも・・・ひとつだけ教えて。何故、あの時、あなたは持っていたナイフで私ではなく、ボーイを切りつけたの。あなたの有能なアシスタントだったのに。何故なの? そんなにボーイに手を血で染めたくはなかったの。一度は染まった手なのに・・・」


そう言いながら山葉の隣りに立つと、ルーシカはそっと山葉の頬に触れた。

温かな、懐かしい人の温もりを感じる。


「ロイ・・・」


頬に触れたルーシカの指先が震えていた。


「・・・ロイ。あなたを殺すわ。殺したいの。お願い・・・お願いだから、今度こそ死んで頂戴。私の為に・・・」


崩れるように床に両膝をつくと、ルーシカは両手で顔を覆った。

泣きたいのに泣けない、苦しい感情が波のように押し寄せる。



ふわっ



静かに空気が動いた。

ハッとして顔をあげたルーシカの頬に、温かな手が触れる。

山葉がとても穏やかな、優しい笑みを浮かべていた。


「・・・ロイ・・・何故、何故なの・・・」


氷が溶け出すように、一筋の涙が零れた。

それが合図だった。

ルーシカは山葉の手を両手で包み込むと、子供のように泣いた。

おそらく、血に染まったレールの上を歩くようになってから、初めて・・・












翌日のニュースで、トップモデルのルーシカ・フィン・マーレイの失踪が報道された。

当然というべきなのか、取材陣は高弘の元へもやってきたが、それらには姉の幸子が対応し、当の高弘が取材陣の前に姿を現すことはなかった。

そして夕刻までには、病院から行方不明になった山葉リンがルーシカと共にいるらしいということも、高弘ら3人の詳しい関係も伝わっていた。

しかし、ただそれだけのことである。

いくら重箱の隅をつつくことを得意とする者たちでさえ、5年前に真実には気付かなかった。


この話は昔、別の名前で同人誌として発行もしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ