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夜の風 3 * (ブルー&雅)

街で一番高いビル。

そのビルの一室で、麻生は柔らかすぎるソファに座り、出された紅茶をじっと見ていた。

そんな麻生の後ろには2人の男、そして向かいにはどこかの社長らしき男がどっしりと構えていた。


「どうした。飲まないのかね。それとも紅茶は嫌いだったかね」


穏やかな口調で言うと、社長は自分の紅茶を口に運ぶ。

指には、大きな石の指輪が光っている。


「あの・・・どうして俺が・・・」


思い切って開いた口の中がなんとなく苦くて、麻生は必死で唾を飲む。

社長は腹の上で手を組み、ソファに深く沈むように身を預ける。


「君が彼等の親友だからだよ。まぁ、安心しなさい。彼等がおとなしく我々から手を引いてくれたなら、君は手も足も出さない。約束しよう」


口許に浮かんだ笑みは、上手く相手に勝利した犯罪者を思わせる。


「・・・何を、してるん・・・あの2人は・・・」


頭の中では聞きたいことが整理できているはずなのに、上手く言葉にならない。麻生の背筋を、嫌な気が走る。


「知らない方が君の為だと思うけどね。まぁ、知った所で君には到底理解のできないことだがね」


楽しげに言うと、社長は再び紅茶に手をのばず。

と、その時だった。


「理解できないような事に、堅気さんを巻き込んでおきながら、随分と楽しそうですね」


瞬時に変わった空気。

冷やかな声に視線を上げると、そこにはドアに寄りかかり腕を組んでいるブルーと雅の姿があった。


「いつの間に・・・!」


半分腰を浮かせ、社長は目を見張る。


「御宅ご自慢の防犯装置。あんなもんブルーの手にかかりゃ、ただのガラクタだぜ。情報屋から俺達に関するデータを買ったんじゃなかったのか」


全く隙のないブルーと雅に、男たちは一歩も動けずにいる。


「・・・馬鹿な」

「僕達が子供だと思って高を括りすぎたようですね。おまけに貴方は初歩的なミスまで犯した。気付きませんでしたか? その人の耳の裏に盗聴・発信機を仕掛けておいたことに」


そう言うとブルーは、受信機を社長の前に放り投げた。

社長は僅かに肩を震わせ、それを凝視している。


「・・・せ。そいつらを殺せ! 生かして帰すな!」


ダン!

思い切りテーブルを叩く。


「遅いんだよ、行動が」


楽しそうに言うが早いか、雅が床を蹴る。

袖口から伸びたワイヤーが美しい光の弧を描きながら、雅の動作を彩るように宙を舞う。

行動が遅れた男たちは雅の動きに着いて行けず、派手な音と共に倒れていく。


「弱すぎる」


つまらなそうに呟くと、雅は青い顔をしている社長を見る。


「どうする? 御宅ひとりだぜ」


雅の口許が、獲物を追い詰めた獣を思わせる笑みをかたどっていく。


「・・・クッ。こ、こちらには人質がいるのだよ」


苦し紛れにそう言うと、社長はその場に立ち尽くす麻生の腕を掴んだ。


ビクッ

麻生の体が大きく震え、そのままテーブルの上に倒れる。

紅茶が床の上に小さな海を作っていく。


「さ、さぁ。これで逆転だ」


無理に作った笑みが引き攣っている。


「わかってないな。そういうセリフは自分の後ろを見てから言うもんだぜ」


雅は薄い笑みを浮かべながら、顎で社長の後ろを指す。

恐る恐る、注意深く後ろを振り返った社長の体から、これ以上ないというほど血の気が退いていく。


「どうしました。顔色が悪いですよ」


心持ち顎を引き、冷やかな笑みを浮かべたブルーが、社長の真後ろに立っていた。

社長はギリギリと奥歯を噛み締めると、次の瞬間。

その場から逃げ出そうと動き出す。

しかし。


ガシッ


ブルーの見事な手刀を首筋に受けた社長が、数滴の唾を吐き出しながら失神し崩れていく。

テーブルやソファにぶつかりながら倒れた社長を冷やかに見下ろし、やがてその指から指輪の抜き取る。


「雅」


抜き取った指輪を、ブルーは無造作に雅に放り投げる。


「一先ず任務完了だな」


指輪を透かし見るようにしながら、雅はニヤリと笑う。


「大事な証拠品だ。無くすなよ。・・・行くぞ」


釘をさすように言うと、ブルーはほとんど放心状態の麻生を立たせる。

そして、麻生の背中を押しながらドアまで来ると、ブルーは倒れている社長を振り返った。


「聞こえてはいないと思いますが、僕達に関するデータは全て消去させていただきました。後日、貴方方の頭のデータも消去させていただきますので、そのつもりで」

「俺達の管轄に入り込んだのが運の尽きだったな」


雅はそう言って静かにドアを閉めた。










頬を撫でつける夜の風が優しく吹いていた。

麻生の家の近くに来るまで、ブルーと雅は麻生にはわからない暗号のような会話を繰り返していた。


「忘れられるな」


突然、全く感情を持たない声が麻生に向けられた。

麻生はドキッとして立ち止まる。

雅が困ったように、呆れたようにブルーの肩をひとつ叩く。


「お前は言葉が簡潔すぎだ。・・・あんた、口は堅いな。もし軽いんなら、ちょっと頭ん中いじらせてもらうことになるけど」

「・・・え、あ・・・」

「雅、お前は意地が悪い。この人は変わってるんだろう」


ブルーはいつまでも乗っている雅の手を軽く払う。

雅は肩を竦めると、麻生に笑いかけた。


「あんた、変わってるんだよな。他の奴等とは違う。おもしろいオーラを感じる。だからってわけじゃないんだけど、あんたは決して俺達のことを他言しなような気がする。・・・でも、もし他言するようなら、その時は強制的に俺達のことは忘れてもらう」


最後のセリフは完全なる命令口調、最後通告のように思え、麻生はただ黙って首を縦に動かす。

何も言えない。

決して逆らえない。

逆らったが最後、殺されてしまうような気がした。

どのくらい立ち尽くしていたのか、気付くと麻生は一人で立ち尽くしていた。















廊下の窓に寄りかかるようにして、智世と雅弘は何かを話していた。

生徒たちはチラチラと2人を盗み見ている。

そのほとんど、特に女子生徒が智世の笑顔を期待していた。


「お、会長さんだ」


いつものように取り巻きたちと歩いてくる麻生を見つけた雅弘は、麻生に向かって軽く手を上げる。

麻生もニッコリを笑って、手を上げ返してくる。

それを見た生徒たちが不思議そうに、または驚いたように見ていた。


「うん。あいつはそうとう変わってる」

「気に入ったのなら、相棒にでもしたらどうだ」


歩いていく麻生を楽しそうに眺めいる雅弘に、智世は素っ気無く言い放つ。

その声のトーンが僅かではあるがいつもとは違っていた。

雅弘は一瞬目を丸くしてから、智世の頭をポンと叩く。


「今さらコンビを解消する気はないね。それに、あいつじゃ力不足。いくら変わってるったって、『仲間』としてはやっていけない。まぁ、何かと役立ってくれそうだけどな」


そう言う雅弘の目は優しかった。

しかし、それでいて厳しい、真実を語る目をしていた。


「・・・お前の方が変わってる」


雅弘を見上げ、智世はふわりと微笑む。

雅弘は「そうか?」と首を傾げて笑う。

そんな2人に、まわりからは感嘆の溜め息が漏れていた。


夜の闇など知らぬ、幸せ色の溜め息が・・・


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