隣人変人朴念仁
【隣人変人朴念仁】
隣の家に住んでる
昔馴染みのお前
俺は文章書いてるし
お前の仕事は歌うこと
人前に出て 歌うのを
生業としてるはずなのに
化粧っ気なんか全くないし
髪の毛だってばっさばさ
なのにお前は
何故だか妙に
不思議な魅力に満ちている
間に合わせみたいな
雑に着たドレスで
前振りもなしに
無愛想に叩くピアノ
なのに鳥肌と寒気に
吸い込まれていきそうになる
ばさばさの髪と
がさがさの肌の中
どうやって生まれるんだ
天使みたいなその声
客の俺たちは みんな
泣きにきたんじゃないのに
心が溢れて止まらなくて
コンサートが終われば
余韻と一緒に流し込む
缶コーヒーがまた泣けて
帰るの惜しくて
たまらない
今度の作品 いちばんに
読ませてやろうか 特別だ
いやいや違うな
こんなのじゃ
きっとあいつのことだから
別にと言って寝ちまうぞ
隣の家に住んでる
腐れ縁のあいつ
私は歌い手
あいつは物書き
相も入れない世界にいても
ずいぶん長い付き合いね
書いては眠り
起きては書いて
主食は主にコーヒーで
ださいジンベエ毎日着ては
物書きぶってる 変なやつ
髪伸び放題 ヒゲ面で
最後の入浴 五日は前だし
締め切り前にはすごいヤなやつ
ボツ原稿でゴミ一袋
締め切りあがりに連れてった
紅茶のおいしい喫茶店
なんにも聞かずに
コーヒー頼むし
バカなんだよね 基本的
バカなんだけど
バカなりに
本気で書いてるものだから
私は好きだよ あいつの世界
でもいつだったかそう言ったらさ
熱でもあるのか とかなんとか
ぬかしてくれたもんだから
二度と言ってはやらないよ
小さい頃には私の歌が
好きだと言ってくれたから
誘ってやろうと思うのに
あいつはなんだか コソコソと
コンサートの日は空けやしない
なんだか怪しい ヤな感じ
次回はきっと来させなきゃ
隣の家には 変なやつ
ウチもウチとて変だけど
あいつと比べりゃまだマシか
今週忙しかったなあ
あいつは今頃なにしてるかな
たまにはケーキのひとつも持って
訪ねてやっても
みるかなあ
玄関を出て 戸締りをして
門を出たらば ばったりあいつ
え、あれお前
出かけるの?
いや、出かけるけどね
なんていうかね
お前今日ヒマ?
ヒマだけど
だったらあがるよ
邪魔するよ
おお いいけどさ
おお 俺も
おお前んとこに行こうとしてさ
あ ああそうなの
じゃあウチきなよ
ここはなんだか汚いし
うるせえ それじゃあ
お邪魔します




