ココロ ナナイロ
【消灯時間】
寝るよと言って
明かりを消した
二段ベッドの下の段
上の弟 身じろぎするのが
ベッドが揺れてよく分かる
しんと静かな吐息の中で
次第にリズムが整って
穏やかになって 寝たなと思う
等しい感覚 同じリズムで
寄せては返す生命活動
そこはかとなく安心をして
ぼくも静かに目を閉じる
あたたかく包む闇夜の重さ
意識が溶けて薄れていって
遠い世界へ伸びてゆく
きっとどこかに弟もいる
夢の中への扉の場所が
その曖昧な意識の底
じつは繋がっている この
人間の「種」としてのかたち
大きな流れの源流の中に
あるような気がする
そのたったひと粒がぼく
どこかのひと雫が弟
その計り知れない流れが
流れてきた記憶
描いたすじの模様
無限の可能性を思い出しに
毎晩ぼくたちはそこへ
帰るのかもしれない
闇に薄く引き伸ばされて
自我を保てなくなると
ぼくはそんな夢を
見ることがある
【工事現場の締め祭り】
餅をついた
餅をついた
工事現場の地下駐車場で
どんどん餅をついた
今日は餅つき大会だから
えいやっと ついた
今日で仕事納めだから
よいしょっと ついた
新年に頑張れるように
今年はお疲れ様でしたと
ぽっこんぽっこん
餅をついた
工事現場の職種も諍いも超えて
みんなでわいわいついた
若い女の子たちが
ご飯を炊き出していたから
独り身のおじさんたちは
どっこいしょとついた
お酒の入った若い衆は
へろへろよいしょ
働き盛りの奴らは
げらげらどすこい
みんな輪になって
何回も乾杯して
真っ赤な顔をしながら
果ても無く音頭をとって
食べるそばから
ばっちんばっちん
餅をついた
【殻】
悲しいことが あった
辛いことが あった
そういうときに
篭る殻は
頼りない
居心地の良さに満ちて
出ようにも出られない
殻の中は
周囲への憎しみや嫉妬や
弱い自分を正当化する
いたたまれない気持ちで
押しつぶされそうなのに
外の世界が
苦しいに違いなくて
殻は一層硬さを増して
抗えない自分が
切ないほど嫌で
奥へ深くへ
沈み込んでゆく
いつか誰かが
助けてくれるまでは
出るまいと
思いながら
【ムラサキウニ】
ぼくはウニです
ムラサキウニ
紫色って地味だなあ
いっそ赤とか青だとか
金色なんて好きだけど
あんまり食べたく
ないかなあ
ぼくはムラサキ
ムラサキウニ
あんまり高級じゃありません
バフンウニくんなんか
高級品でも
バフンウニって
馬糞海胆でしょ?
ムラサキウニでよかったな
ぼくはウニでも
ムラサキウニ
貝とかタコの仲間です
ぺたぺたくっつく吸盤も
貝殻だってないけれど
トゲトゲ殻がふっさふさ
実は歩いているんです
ぼくの名前は
ムラサキウニさ
みんな覚えてくれたまえ
トゲの中身は
ほとんどタマゴ
不思議な生き物なんだよう
それではいつか
また海で




