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タンポポ

寒い寒い冬を越えて

人知れずこっそり

春の川べりに

わたし花をつけました

せせらぎの光が

華奢なわたしを

励ましながら

力をくれます

このあたたかな

岸のどこかに

母と過ごした茂みがあって

きっとここからも

そんなに離れては

いないと思うのだけれど

母の姿はもう

そこにはありません

母がわたしたちを

支度をして背中を押して

大空へ飛ばしたのも

思えばこんな日和だったかしら



昼下がりの河原は

ひんやりとした風たちが

わたしの頬を撫でていきます

風たちが笑うと

水面がクスクスと揺れて

くすぐったくて魚がはねます

湿気を含んだ

春の岸辺は

わたしの他にも

たくさんの生命を抱きしめ

ちょっと暴れん坊な

風の子どもからも

優しく守ってくれます

おとなりのヨモギや

赤ん坊のツクシが

頑張って綺麗な花をつけたね

お日様みたいにあったかいねと

しきりに褒めてくれるので

風はないのにもじもじしながら

少しだけ胸をはりました



初めての雨の日

わたしは大喜びで葉を広げ

ごくごくとお水を飲みました

おとなりさんも

お向かいさんも

おいしいね 嬉しいねって

全身をきらきらさせて

根っこをふるわせていたけど

わたしはちょっぴり

母といたときに

母が吸い上げてくれた水の方が

もっともっと甘くて

美味しかった気がしました



だいぶ暑くなった頃

どこからか飛んできた花粉で

わたしは母になりました

ふわふわの産毛の

かわいらしい生命

この子達のために

たくさん大地にお願いをして

うんと甘いお水を

お腹いっぱいもらおうって

お星様に誓いました

母の水がなんで

あんなにも美味しかったのか

初めてわかりました



川の反対の岸辺に

菖蒲が咲いた日に

その日はやって来ました

わたしの子ども達の

旅立つ日です

子ども達は

ぐずったりくっついたきり

離れようとしてくれませんが

わたしがいちばん

泣きたい気持ちでした

それでも わたしは母

わたしの母もそうだったように

たんと甘い水を持たせて

力強く背中を押して

気持ちの良い南の風に

子ども達を飛ばしました

遠ざかる我が子を見て

かつてわたしの花だったものは

気が抜けてしぼんで

一気にお婆さんになったような

淋しい気持ちになったけど

涙を拭って

通り過ぎる風たちに

うちの子をよろしくお願いって

忘れずに言いました



蝉が鳴きはじめて

夏が来ました

使命を果たして

よぼよぼのわたしに

照りつける夏の日差しは

少しばかり強すぎて

わたしの身体は

お水がうまく飲めなくなって

萎びてきてしまいました

多分このまま

朽ち果てるのだなあと

少しずつ遠のく意識の中で

なんとなく思いました

おとなりのヨモギや

赤ん坊が大きくなったスギナが

心配してくれましたが

こればっかりは

華奢なわたしには

どうしようもなくて

ちょっとずつ吸い上げては

奪われていくお水を

ゆっくりと味わいながら

同じように華奢だった母の

遠い夏の日とわたしを

何処かかぶせながら

まぶしすぎる川面を

そっと見つめました



カワセミの鳴き声で

はっと我にかえりました

枯れて茶色じみてきた身体は

もう地に伏して

起き上がることもできません

子ども達はちゃんと

いい場所に根づけたかしら

きっと大丈夫

優しい風たちだったから

良くしてくれたと思います

わたしはこの最期の時に

ちゃんと母親になれたことに

やっと気づきました



今思えば

これ以上ないほど

満ち足りた生涯でした

今こうして

死を迎えようとしているのに

生きているんだって

わたしは生命なんだって

涙が出そうになります

お日様のあたたかさが嬉しい

せせらぎの音が優しい

風だって雨だって

みんなわたしのために

力を与えてくれます

花盛りの岸辺は

今まで見たことがないほど

美しい場所になっています

眩しいほどきれいな

花をつけた娘たちが

芳しい香りを風にのせて

わたしを元気づけてくれますが

わたしの周りの雄花たちは

その香りにどぎまぎしていて

可愛らしいったらないです

ああ、お母さん

あなたにもらった生命を

わたし精一杯生きてみました

この最後の風に乗って

あなたのところに行きます

話したいことがたくさんあって

どこからにしようか

まだ整理がついていないので

まとまるまでわたし

この美しい世界を

胸に刻みつけてゆきます

でも ひとつだけ

言いたいことがあります

わたしに生命をくれて

ほんとうにほんとうに

ありがとう



これは二十歳の春の、川べりに座って朝焼けの中で缶コーヒーをすすりながら書いた詩です。


あの頃の若さ、親への反抗、また芽生え出した大人としての自覚のようなもの。


それらが、このように寒く吐息も凍るような景色の中で、陽だまりを見つけることができた鍵だったのでしょうか。


絵本の文のようで、詩のようでもあって。

こんな詩が、ぼくはたまに書きたくなるんです。

心のカタチをひとつにとどめたくない。

ぼくなりの反抗心を、「ポエム」という大きな世界へ向けて、突き立てているのやも知れませんねw

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