風邪引きと甘めの薬
風邪ひきと甘めの薬
きみが風邪をひいて
ぼくが看病に行った
はじめてのきみの部屋は
ある程度は整って
少なからず散らかって
きみらしくて 可笑しい
はりきって買い出しして
アイスクリームにプリンに
イチゴまで買って行ったら
小学生じゃないのにって
からかわれてしまった
袖をぐいとまくって
台所を借りて
ぼくはおかゆを
つくろうとした
少しはぼくも
頼れるところ
ここらで見せときたかったけれど
さっきつくったばっかりの
たくさん残ったたまご粥
ぽつんとコンロに
乗っていた
「ごめんなさいね
そろそろ来ると
思ったからね
あなたの分も
つくったの」
嬉し恥ずかし情けなく
気を取り直して
袋をがさがさ
アイスクリームに
プリンにイチゴ
風邪で弱ったときくらい
うんと甘やかしてあげようと
ガラスの器を引っ張り出して
ちょっと待ってて
盛り付けるから
勇んでプリンを逆さまに
ひっくり返してみたけれど
しまったプッチンできないやつだ
押せばなんとかなるかなあ
振れば出てきやしないかな
いろいろ試しているうちに
出てきたプリンは
ぐっちゃぐちゃ
「あははは やっぱり
すると思った
そうなるなあと
思ったからね
先にアイスは
分けちゃった
でもその気持ちが
嬉しいよ」
ぼくはしょんぼり
肩を落として
きみのベッドに腰掛ける
元気がないぞ 私より
手の上に乗る
きみの熱さが
つらさを静かにあらわして
なにもできない
歯がゆい自分
無性に情けなくなって
不意にばたばた
走り出す
「ど、どうしたの」
驚くきみに
しぼったばかりの
冷たい布を
ただおごそかに
あてがった
こんなことしか
できないけれど
朝までこうしていてあげる
少し決め顔 優しげに
きみの布団を直したら
ハクション くしゃみが
飛び出した
びっくりぼくに
きみはにやりと
「それじゃあ明日は交代で
私がこうして
いてあげる」




