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第5話:初夜

優ちゃんは僕の家の居候の幽霊だ。

幽霊と言ってもよくテレビとかで言われる亡霊みたいなもんのじゃない。

閻魔様の許可を受けて輪廻した幽霊だ。

だから基本的には僕たち人間となんら変わりない。

ご飯だって食べるし、お茶も飲む。

それに透き通ったりはしない。

ごくごく普通の女の子だ。

でも未練が無くなると成仏してしまう。

そんな不安定な存在。

しかし今は僕たちと同じように生活している。

だから、彼女が幽霊だなんて全然感じない。

それでもやっぱり幽霊だなって思う時がある。

例えば年齢を聞いた時、

「優ちゃんって何歳なの?」


だんだん僕も優ちゃんと打ち解けられた時に聞いてみた。

ちなみに僕は今年で14歳だ。

まだ誕生日は来ていない。

「享年14歳だよ。」


優ちゃんはあっさり言った。

享年と言うあたりが、やっぱり死んでしまったんだなと言う事を実感させられた。

でも優ちゃんちゃんと僕らの世界にいる。

それを心がけよう。

と、お風呂に入りながら今までの事を整理してみた。

ここまで理解するのにどれくらいの時間がかかったかな。

ちょっとのぼせてきたからずいぶんと入ってたんだと思う。

僕はお風呂から上がり、パジャマに着替えた。

「あら、明。上がったのね。」


ご飯の片付けが終わったらしい母さんが言った。

「うん。」


母さんと一緒にリビングに行くと、優ちゃんと父さんが一緒にテレビを見ていた。

まだお互いに会ってから二時間くらいなのに、もう本当の親子のようだ。

「優ちゃん。お風呂空いてるわよ。入って来なさい。」


「はぁーい。」


優ちゃんは母さんの言う事をしっかり聞いて、お風呂場に行った。

ちゃんとお風呂にも入るんだ。

ますます優ちゃんが幽霊に見えなくなった。

父さんと一緒にテレビを見てから40分ほどたった。

なんだかトイレに行きたくなり、僕はリビングからトイレに行った。

トイレはお風呂場のさらに向こうだ。

だいたい家のはじっこぐらいの場所だ。

お風呂場が近づいてくると、なんだか妙にドキドキしてきた。

いくら幽霊とはいえ、優ちゃんだって女の子である。

僕の家で女の子がお風呂に入るなんて有り得ない事だと思ってたのに。

僕が緊張しながら前に進むと急に

ガラガラ

と音をたて扉が開き、そこから優ちゃんがでてきた。

バスタオルを体に巻き付けたままのかっこで。

「!!!!!!!!!!」


僕が驚いたのは言うまでもない。

「お母さ〜ん、私何着たらいいの?」


優ちゃんは僕に気づいていないらしく、リビングに向けて声を出した。

「あら、忘れてたわ。ごめんなさい、ちょっと待っててね〜。」


遠くから母さんの声が聞こえた。

そしてすぐに階段をのぼる音がした。

その時、ようやく優ちゃんは固まりかけてる僕に気づき、

「あ、明ちゃん。どうしたの?」


と、なんともないように言った。

「ゆ、優ちゃん。そんなかっこで出て来ないでよ……」


僕は目をそらした。

優ちゃんは自分の姿を見て、納得したようにしゃべった。

「あぁ〜明ちゃん。恥ずかしがってるんだー♪かわいい〜〜♪」


「う、うるさいなぁ。優ちゃんこそ恥ずかしくないの?」


「うん。まあ、一応隠れてるしね。」


僕はこれ以上優ちゃんに言っても無駄だとさとり、優ちゃんを見ないように歩いた。

後ろでクスクス笑いが聞こえた。

結局優ちゃんは母さんの服を貸してもらっていた。

でも母さんの服は優ちゃんにとって少し大きく、服に着られているような感じだった。

「いつか買いにいかないとダメね。」


母さんは苦笑いを浮かべていた。

それから時間もたち、寝る時間になった。

「明。優ちゃんにベッドを貸してあげてくれないかしら。」


「え?なんで?」


「客間を優ちゃんの部屋にするにはちょっと時間がかかるのよ。いろいろと片付けないといけないし。だからその間だけお願い。」


「……うん。分かった。」


優ちゃんはどこか申し訳なさそうにしていた。

そして僕は自分の部屋に布団を敷いて寝る事にした。

「じゃ、寝ようか。」


僕が電気を消そうとした時、

「……ゴメンね。明ちゃん。」


ベッドに入ったままで優ちゃんは僕に言った。

「何が?」


「ベッドとっちゃって。」


「いいよ。きにしないで。」


僕は言いながら電気を消し、布団に入った。

なんとなくお互いに黙った。

まぁ、これから寝るんだから当たり前だけど。

僕は暗闇を見ながら優ちゃんに聞いてみた。

「優ちゃんの未練ってなんなの?」


優ちゃんはすぐには答えなかった。

もう寝ちゃったのかな。

そう思った時、優ちゃんは答えをくれた。

「……分かんない。」


その声は今まで聞いた事のないような暗い声だった。

明るい優ちゃんからは想像できない声だった。

優ちゃんにも分からない未練。

一体それは何なんだろう。

僕は寝るまでずっとその事を考えていた。

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