第19話:抽選
なんであの時気づかなかったんだろう。
肝試しの別名が度胸試しだという事を。
肝試しは普通幽霊やお化けが出そうな墓地、とかでするという事を。
そして僕の家は墓地付きの寺だという事を。
今までにも散々この事実を呪った。
けど今日ほど呪いたくなった事はない。
一人でいる分にはいくら怖がっても見てる人はいないから別にいい。
いや、良くはないけど……。
ま、まぁこの場合は良いとしよう。
でも!
今回は、今回だけは怖がってられない!
だって憧れの北原さんまでいるのだから。
考え方を変えれば北原さんと一緒にいれるから嬉しいとも言えるけど……
いやいや、やっぱり情けない姿は見せられない。
なんてゆうか男として!
あぁでもやっぱり一緒に……。
と、僕が二つの思いで悩んでいると、
「楽しみだねー、明ちゃん♪」
優ちゃんがニコニコしながら僕の部屋に入ってきた。
「優ちゃんは怖くないの?」
「……何が?」
「その、今日の肝試し……」
そんな僕のビビリ発言を、優ちゃんは笑いながら一蹴した。
「だって私自信が幽霊だもん。怖いわけないよ。」
「あっ……そういえばそうか。」
あまりに普通の生活してるから、たまにそんな事忘れちゃうよ。
「それより、みんなそろそろ来るよ。準備できた?」
「……もうこんな時間かぁ。」
悩んでる内に、とうとうその時が来てしまったようだ。
やるしかないかぁ。
なんとか……なってほしいなぁ……。
そして始まってしまった肝試し。
一応じいちゃんからお札を借りていったけど……果たして役に立つんだろうか。
じいちゃんの言う事によれば、先祖代々伝わるお札だとか。
でも古すぎて悪霊とかに取り付かれてないだろうな。
あのじいちゃんの事だし……。
「じゃあペアを決めようぜ!男女ペアな!」
妙に張り切りながら佐藤が言った。
……そっか。
そういう事か。
なんで肝試しなんかを提案したかようやく分かったよ。
僕は佐藤の下心が生んだ思いつきのせいで憂鬱になったのか。
ん?
でも待てよ。
「あのさ男子5人で女子3人なんだけど……。」
「まぁ一組は男子同士にしとけばいいさ。ホラホラ、早くくじ引いて。」
よーし、こうなったら北原さんとなってやる!
大丈夫僕ならやれる!!
と、根拠もなく意気込みながら引くと、
『3』
と書かれていた。
多分3番目に墓地に行く人なんだろう。
どうせなら最後が良かったなぁ。
皆にバレなくて済んだのに。
「あっ、明ちゃん3番なんだぁ。」
僕が、数字の書かれた紙とにらめっこしてると、優ちゃんが覗きこみながら話しかけてきた。
「そうみたい。優ちゃんは?」
「私も三番。一緒だね♪」
優ちゃんとか。
まあでも、考えてみれば一番良かったかな。
ありのままの自分を一番分かってくれているから。
「くっそー、いいなぁ中川。俺なんて春日だぜ。」
「何?其の言い草は。私とて貴方のような人と好んで組んだ訳では無い。」
「ま、まあまあ……。」
独特なしゃべり方をする春日は意外と血の気が多い。
なぜミス研の副部長をやっているのかは謎だ。
今にも破裂しそうな険悪な雰囲気をなだめていると、
「田辺君、分かっていますね。」
「はい部長。今回の事を利用して神田優の正体を暴くんですね。」
「その通りです。今度こそ霊である証拠を掴むのですよっ!」
あの、聞こえてるんですけど。
当の本人は北原さんと話してて聞いてないし。
そうして様々な人の想いをのせつつも、一番の人から行く事になった。