第17話:二人
「手伝ってあげる♪」
と言った優ちゃんだったが、特に何もせずにいた。
それから平凡な日常のまま日曜日になった。
『行ってきまーす。』
「行ってらっしゃい。お友達に迷惑かけないようにね。」
母さんは笑顔で見送ってくれた。
まぁ何はともあれ今日は北原さん(それと他2名)と遊園地に行く日だ。
心配事がないわけではないけど、心配してたってしょうがない。
今はこの日を楽しく過ごす事で精一杯だな。
遊園地までは各個人で行って皆が揃ったら入る、という事になっている。
こういう細かいのを決めたのは佐藤だ。
よほど楽しみなんだろう。
……まぁ、僕も人の事言えないのだが。
「ありゃ、ちょっと早かったのかな。」
「ホントだぁ。他に来てないね。」
「優ちゃんが早くしろって言うから…。」
「わ、私のせいじゃないもん!」
などとからかっているうちにみんな(と言っても二人だけなんだけど)来た。
「じゃあ入ろうか。」
「うん。」
この遊園地――ラタリルランドは創業40周年だ。
歴史自体はけっこうなものだが、何回もパビリオンが新しく入れ替わったりしてるので古さはまったく感じられない。
「じゃあ最初はどこ行く?」
「あっ!」
優ちゃんが急に声を張り上げた。
「どうしたの?優ちゃん。」
「えーっとね……。私いろいろ行きたいんだけど…。」
「じゃあ優ちゃんが行きたい所言っていいよ。」
「あ、でもホントいろんな所だからみんなに悪いよ。」
「でも一人じゃ――」
楽しくないでしょ?
と僕が言いかけた時、
「だからね……佐藤くん。」
優ちゃんは体を佐藤の方に向き直した。
「ん、何?」
「一緒にいろいろまわらない?」
『えっ?』
これは僕と佐藤の声だ。
優ちゃんの思わぬ発言にびっくりしてしまった。
どうやらそれは佐藤も同じだったようで、体が少し後ろに傾いていた。
口なんかみっともなく開いている。
「ねぇ、いいかな?」
優ちゃんがすがるような目で佐藤に聞いた。
こんな顔されちゃ僕は断れないけど……佐藤はどうだろう?
「も、もちろん!」
やっぱり佐藤もか。
しかも声が裏返ってるよ。
分かるけどさ。
「じゃ、行こうか。」
優ちゃんは佐藤の手を控えめに握り引っ張っていった。
二人の姿が人ごみに紛れ見えなくなったのを見計らうように北原さんは言った。
「優ちゃんって佐藤くんの事好きなのかな?」
「分からない。……でも…」
「?」
北原さんが怪訝な顔で僕を見る。
「ううん。何でもない。」
それにしても何で優ちゃんは佐藤と一緒に行ったんだろう。
「しょうがないね。」
「え?何か言った?」
真剣に考えていたので北原さんの言葉がよく聞こえなかった。
「優ちゃんたちが行っちゃったでしょ?だから私たちも二人で行こうよ。」
「あ、うん。」
僕は北原さんに手を引かれながら、優ちゃんたちが消えていった方向とは反対の方に進んだ。
(そうか。
優ちゃんはあの時の約束を守ってくれたのか。)
すぐに気付かなきゃいかない事に気付いたのは昼ご飯を食べた時だった。
それから帰ろうとする時まで優ちゃんたちには会わなかった。
「優ちゃん。」
佐藤たちと別れた後、僕は歩きながら言った。
「なぁに、明ちゃん?」
「今日はありがとう。」
「気にしないでよ。私が勝手にした事なんだから。」
「それでも…ありがとう。」
「うん。どういたしまして。それより明ちゃん、今日は楽しく過ごせた?」
「う、うん。おかげさまで。」
僕はできるだけ精一杯の笑顔を作った。
楽しくなかったわけではない。
でも心の底からは楽しめなかった。
ランドのどこかにいるであろう優ちゃんの事が心配で気が気でなかった。
何が心配かって言われても分かんないけど。
でもとにかく心配だった。
僕の近くにいない優ちゃんの事が。
その理由はいつまでたっても分からなかった。