▼毒と悪意-3-
久しぶりの更新。
中身を大幅に改稿しています。
死んでなどやるものか・・・。
女医の顔は狂喜の色に染まり、歪んでいた。
女医は私をこの毒で殺せると、本当にそう思っているのだろう。
ならば、その歪んだ願いを、甘い願いを、毒の様な思惑を潰してしまおう。
三年前、私の双子の弟妹が死んだ後から、次々と送り込まれてくる刺客と毒と言う名の悪意。
日々、それらに慣れ、慣れさせられた私の身体は、一度毒を体内に取り入れ、一定の時が経過すると、その毒に対する抗体物質が出来るようになったらしく、今ではそのほとんどの毒は私を殺せない毒となった。
現に、今も徐々に痺れが消え、感覚も完全に戻りつつある。
そして、ついに。
完全に痺れが抜け、感覚を取り戻した意識と身体で、私は反撃の狼煙を上げた。
私の口許を塞いでいた女医の手首に、常日頃から綺麗に整えていた爪を立て、反撃する。
ガリっと、嫌な音が耳を通り過ぎた後、女の口から引き連れた醜い悲鳴が上がる。
「愚かね・・・。王族の前でそんな猛毒を使うなんて・・・。フフフ、そんなに私が邪魔なの?それとも、ただ私が気に喰わないだけ?」
女医の悲鳴に、異様な雰囲気を纏っていたメリッサやルエナ達が振りかえり、ベットの上で皮肉気に、愉快そうに嗤っている私に気付くと、一瞬でなにがあったかを悟ったらしい。
「何を驚いているの?あぁ、私が死なないのがそんなに不思議で怖いのかしら?」
今や、女医の顔色は恐怖で蒼くなり、ぶるぶると震え、ガチガチと噛み合わない歯が耳障りな音を立て、鳴らしている。
「ば、化け物・・・。」
「あら、そんな事が辞世の言葉で良いのかしら・・・・?」
ニタリ、と、意地悪く笑えば、たちまち女医は救命を嘆願してきた。
でも、私はそのくらいでは許さない。
「人の命を奪おうとしておいて、それはないわよねぇ~。」
今の私は生粋の悪女だろう。
何せ、サラ様達の瞳が爛々と輝いてるのだから。
それに勢いづいて、私は笑みをさらに深くした。
「靴を舐めて貰おうかしら・・・、それとも、這い蹲って床でも舐めて貰おうかしら?」
私のこの言葉に、女医は屈辱を覚えたのか、声を上げて私に襲いかかってきた。
「まぁ。どうしましょう。怒らせてしまいましたわ。」
ウフフフと、わざとらしく微笑めば、それがさらに女医の勘に障ったらしく、女医は遂に私の首に手を掛け、力の限り締め付けてきた。その女医の力の入れように、本気の殺意を感じた瞬間、ふと、呼吸が楽になった。どうしてだろうと目を瞬かせれば、その麗しい声は上から聞こえてきた。
「今のは、君が悪い。」
冷たい声の中にも、微かに感じ取れる安堵感。
どこかで聞き覚えがある様なない様なその声に、私は頭を悩ませた。
さて、何処で聞いたのだったか。
そんな私に、わっと声を上げ泣きながら抱きついてきたのは、サラ様達。
「良かった。リリー。貴女生きてるのね?無事なのね?」
「当然ですわ。だって私が死んでしまったら、サラ様、泣いてしまわれるでしょ?」
「もう、リリーの馬鹿。心配させないで頂戴」
いつもはそんな事無いわよ、と、意地を張るサラ様の素直さに、私は驚きつつも漸く人心地ついた。ルエナ達も心なしか驚いているのか、自分達の頬を抓んでいた。
そんな温かくも緩みかけた空気をぶち壊してくれたのは、どうやら私を助けてくれたらしき人の一言だった。
「全く、君が婚約者だと思うだけで、この先が思いやられる。」
婚約者。
その言葉に私の思考は止まり、ギシギシとブリキのおもちゃの様に顔を上げ、その声の持ち主である人の顔を見るなり、失神してしまった。