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あなたと恋のワルツを  作者: 杏美
7/14

▼毒と悪意-2-

更新しました。

 ぞろぞろと人間を引き連れ、部屋に雪崩れ込んできたのは、この国の王太子殿下だった。

 サラ様が必死で嫌われようと努力をしている相手であり、この国の次期国王。


「侍医なら連れてきた。」


 王太子が医師に目を向けると、薬を持っていた女医が私が横になっている寝台まで近づいてきた。


「これをお飲み下さい。--サラ様はこちらを。」


 銀色のトレイの上にある、二つの入れ物。

 触れているからこそ判る、サラ様の不安な心。

 冷たく、細かく震えるサラ様の細い指先。


 アン達にも飲み物が配られた。


 安心できるはずなのに、でも本能が、私に警告している。

 その薬は、飲み物は危険だと。


 迷っている隙はなかった。


 私は唯一自由な喉を酷使して、叫んだ。

 叫んで危険を知らせる筈だった。


「・・・で、・・・ま・・・いでッ」


 なのに、実際私の口から出た声は肝心なところが掠れていて、音にならなかった。でも、私のこの警告は無駄にはならなかった。


 メリッサが、私が声もなく必死に喘いでいるのをみて、すぐに何かを感じ取り、友人達に薬を飲まない様に瞳で言い含め、王太子に向き直った。

 

「恐れながら、王太子殿下に申し上げます。」


 メリッサは怒ると怖い。

 静かに怒りの焔を心の内に燻らせ、一気に放つ。

 

 父親の勝手で、生まれる前から捨てられ、母にも虐待されて育ってきたメリッサは、人一倍警戒心や、自立心が高い。


 今でこそ令嬢らしく振る舞ってはいるけれど、彼女に逆らう下町の子はいない。

 彼女に逆らうという事は、死を意味する。


「殿下はサラ様が手に入ればそれでいいのですか?」


「サラは、王太子妃第一候補だ。」


 不穏な空気が、メリッサの周りに漂いだし、私に向けられていた関心は、いつの間にかメリッサと王太子殿下の方に釘づけになっていた。


 女医はその隙を逃さなかった。


 痺れ薬で何も抵抗できない私に、無理やり薬を口の中に流し込み、一滴も吐かないように白い布で口を押さえ、暗く澱んだ瞳に光を宿らせた。

 

 その光は、憎い相手を確実に仕留めた達成感にも似ていた。


 その女医の行動が、激しい嫉妬から来ていた事を知るのは、私が恋心を自覚してからだった。

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