▼波乱の種-4-
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これは何・・・?
紅茶に浮く虫は、明らかに故意に入れられたモノ。
誰が入れたとか、犯人は誰だとか追及するつもりはないけれど。
随分幼稚な悪意の向け方。
「どうしたの?リリー。お茶、飲まないの?」
のほほんと微笑まれてる方は、この国の王女様と、そのとりまきというか、金魚の糞。
私と話がしたいという王女様の命令で、貴族の令嬢の義務として伺ってみれば、案の定、これだった。
「ええ、いただきますわ。」
にっこり。
これくらいで柳眉を逆立て、喚き散らすのは、体力と時間の無駄。
曳いては、経済の無駄というもの。
この際、最初からお茶に入っていた虫は見なかったことにして、コクコクと飲み干す。
だけど、入っていたのは虫だけじゃなかったみたいで。
口の中に広がる臭さから、雑巾の絞った水も入ってるみたいだった。
ここまでとはね・・・。
クスクスと笑えるのはどうしてかしら。
私がかわいそうだから?
いえ、違う。
では、虐めの手段が幼稚だから?
答えは簡単。
きっと、この状況が愉快で堪らないから。
「王女様におかれましては、このような不衛生な飲み物を毎日召されているとは、私、今の今まで、全く存じ上げませんでしたわ。これでは病気になってしまわれます。今すぐ、環境を改善なさった方が宜しいかと存じます。」
優雅に見えるように立ち上がり、頭を下げ、王女の居室を失礼する。
と、そのとたん、激しい腹痛と、眩暈と痺れ、吐き気が私を襲ってきた。
ここでは倒れられない。
何が何でも倒れられない。
気力だけで王宮をさまよった私は、誰もいない部屋を見つけ、その部屋で倒れた。
虫に汚水に毒。
ここまでされるほど、私は軽んじられ、疎まれているの?
あぁ、ならば。ならば悪女魂も、役者魂も、それらが冥利に尽き、嬉しい。
けど、これは違う。
これは私があの侯爵と婚約したからこそ盛られた毒。そうでもなければ、説明がつかない。
「だから嫌いなのよ・・・っ。恋と嫉妬しか知らない女は・・・。」
他人を妬む事しか知らない愚かな姫たち。
そんな奴らといるくらいなら・・・。
と、そう思った時。
「だからサラと一緒にいるんですか?あんなに傲慢で高飛車なのに。」
「サラ様を、悪く言わないで頂戴っ!!」
痛む下腹部を抑えながら、聞こえてきた悪口に、私は反射的に叫んでいた。
確かにサラ様は高飛車だけど、傲慢だけど。
それでも優しい時もあるし、人の幸せを願える人だし、なにより、本当は寂しがり屋でもある。
きっと、どんな令嬢より繊細で美しく、儚い人。
あの問題さえなければ、サラ様だって本当は今すぐにでもあの方のもとに行きたいはずなのに。
「サラ様の事、なにも、知らない癖に、勝手なこと・・・、言わないでよね・・・。」
遠のく意識、翳む視界。
くたり、と、遂に力尽きた私は、失礼な暴言を吐いた男の顔を見ることなく、敢無く意識を手放した。
その時の顔色は、青を通り越し、蒼白だった、と、後日、私はサラ様達から聞かされた。
短いですけど、更新しました。