▼波乱の種-2‐
いつの間にか10件超えてました。
ありがとうございま~す。
お父様は弱い者いじめが嫌い。
お母様も卑怯な事が嫌い。
「全く、余計な事をばらして下さいましたね、伯爵夫人。」
清く・美しく・気高くが家訓である私の家。
それからすると、私の社交界での行いや振る舞いは、著しく逸脱している。
でも、そうしなければ、私の望む平穏は手に入らない。
社交界と関らなくなれば、最新の情報は入らなくなるし、逆に目立てば動きづらくなる。
苦肉の策だと思っていたのに・・・。
「私は直接は関ってません。ただ、あのお可哀想なお姫様達の後ろに控えているだけですわ。」
そばで控えていたメイドに爪の手入れをさせながら、首を少し傾げ、微笑む。
足を組み、執事の淹れてくれた紅茶を飲む。
こんな風に偉そうにふるまうのも、仕事の内の一つ。
「だいたい、誰かが助けてくれる、守ってくれると思っているのは時代遅れです。これからの女性は強く在らねば。泣いてばかりでは、あの伏魔殿の様な世界で生き抜いて行けません。自分の身は自分で守る。それが出来ないのなら、結婚してしまうのがいいわ。」
私は悪くない。
悪いと言うのなら、真似をしなければいい。
自分なりの正義を振りかざすつもりはない。
私は泣いてばかりで、何もしない人の方が、あのヒト達より嫌い。
「リーシェ、貴女はなんて賢いの。流石は旦那様と私の娘だわ。」
「いやだ。あまり褒めないで、お母様。照れちゃうから。」
お父様は沈黙したまま、何も言わない。
伯爵夫妻も口を閉じたまま、何も言わなかった。
けど、あの小さな塊――どうやら、伯爵夫妻の娘――が、見覚えのあるコサージュを掲げ、私に見せてくれた。
それは、私が昨日仕方なく行ったパーティ-で、ドレスを汚された子にあげたものだった。
「このお花のお礼が言いたかったの。ありがとう、お姉ちゃん。」
――お姉ちゃん、ありがとう
小さな女の子に、3年前に死んだ双子の弟妹が重なる。
あれは、事故なんかじゃなかった。
なのに、私は弱くて、何も言えなかった。
「お姉ちゃん・・・?」
私の反応がない事を不思議に思った小さな子は、私の顔を覗き込み、お父様とお母様を見て、私の傍にいたメイドに縋りついた。
「ねぇ、お姉ちゃんの口、切れちゃう。泣きたいのに泣けてないの。助けてあげて!!」
その言葉にすぐ反応したのは、お母様だった。
「・・・っ、リーシェ、やめなさい。あの事故は貴女のせいなんかじゃないわ。」
「お嬢様、呼吸を楽になさって下さい。」
「リーシェ、お前は悪くない。お前も被害者だ。」
でも、でもっ・・・。
あの事故で、ハーラント家の双玉と称えられた、私の双子の弟妹は命を落した。
弟はこの子爵家を継ぎ、妹は婚約だって決まっていた。
なのに、私のせいで・・・。
「私が、悪いのよ・・・。私が、弱かったから・・・。だから、ロエルとノエルは・・・。」
段々と冷たくなっていく二人の身体。
怖くて、悲しくて、辛くて。
助けを求めたのに、誰も助けにきてくれなくて。
やっと助けが来てくれた三日後には、あの子達は冷たくなっていた。
苦しい、痛い、熱いよ、と言いながら、私の手を握りながら天に召された双子。
惨めだった。
何も出来なかった自分が憎かった。
だから私は、あの日から強くなろうと決め、今日まで生きてきた。
いつの日か生まれ変わる二人を、今度こそ守る為に。
「マリア、貴女の娘、どうかしたの?」
「煩いわね、少し黙ってて頂戴。リーシェ、リーシェ。お願いだから自分の殻に閉じ籠らないで。貴女は十分に傷ついたし、あの子達に償ったわ。悪いのは私と旦那様よ。だからお願い。そんなに自分を責めないで」
そうしたいのは山々だった。
なのに、呼吸の方法を忘れてしまった私の身体は、私の意思に反し、痙攣まで起こし始めた。
「お嬢様、いけませんっ。」
騒然とし始めたハーラント子爵家の客間。
それを止めたのは、意外にも、今まで一言も喋ろうともしなかった伯爵だった。
伯爵は、痙攣を起こしかけていた私の前まで来ると、ゆっくりと呼吸の方法を教えてくれた。
ゆっくりと、丁寧に。
そして、心安らかに。
なんとか伯爵の指示通りに呼吸を繰り返した私は、メイドと執事に支えられながら、頭を下げた。
「申し訳ありません。助かりました。久しぶりの発作で、危うく天に召されそうになりました。」
紅茶はこぼれ、ドレスは汚れてしまったけれど。
苦笑交じりに謝った私は、お母様の抱擁を受けながら、こちらの様子をずっと見守っていた伯爵夫人に目を向けると、伯爵夫人は何を思いついたのか、パン、と、両手を叩き合わせ、にっこり微笑んだ。
そして、次の伯爵夫人の言葉で、私は本日二度目となる、頭痛を味わうはめに。
「ねぇ、マリア。貴女の娘のリーシェさん、弟のお嫁さんとしてくれないかしら?そうすれば私達は親戚同士になれるわ。リーシェは私の義妹。そして、マリアは私と弟の義理の母。ね?良いアイディアでしょ?」
名案だと微笑む伯爵夫妻に(格下だから逆らえない)、私達、ハーラント家の人間は、何も言えなかった。
とりあえず、ここまで。