表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと恋のワルツを  作者: 杏美
3/14

▼波乱の種-2‐

いつの間にか10件超えてました。

ありがとうございま~す。

 お父様は弱い者いじめが嫌い。

 お母様も卑怯な事が嫌い。


「全く、余計な事をばらして下さいましたね、伯爵夫人。」


 清く・美しく・気高くが家訓である私の家。

 それからすると、私の社交界での行いや振る舞いは、著しく逸脱している。

 でも、そうしなければ、私の望む平穏は手に入らない。

 社交界と関らなくなれば、最新の情報は入らなくなるし、逆に目立てば動きづらくなる。


 苦肉の策だと思っていたのに・・・。


「私は直接は関ってません。ただ、あのお可哀想なお姫様達の後ろに控えているだけですわ。」


 そばで控えていたメイドに爪の手入れをさせながら、首を少し傾げ、微笑む。

 足を組み、執事の淹れてくれた紅茶を飲む。

 こんな風に偉そうにふるまうのも、仕事の内の一つ。


「だいたい、誰かが助けてくれる、守ってくれると思っているのは時代遅れです。これからの女性は強く在らねば。泣いてばかりでは、あの伏魔殿の様な世界で生き抜いて行けません。自分の身は自分で守る。それが出来ないのなら、結婚してしまうのがいいわ。」


 私は悪くない。

 悪いと言うのなら、真似をしなければいい。

 自分なりの正義を振りかざすつもりはない。

 

 私は泣いてばかりで、何もしない人の方が、あのヒト達より嫌い。


「リーシェ、貴女はなんて賢いの。流石は旦那様と私の娘だわ。」


「いやだ。あまり褒めないで、お母様。照れちゃうから。」


 お父様は沈黙したまま、何も言わない。

 伯爵夫妻も口を閉じたまま、何も言わなかった。


 けど、あの小さな塊――どうやら、伯爵夫妻の娘――が、見覚えのあるコサージュを掲げ、私に見せてくれた。

 それは、私が昨日仕方なく行ったパーティ-で、ドレスを汚された子にあげたものだった。


「このお花のお礼が言いたかったの。ありがとう、お姉ちゃん。」


 ――お姉ちゃん、ありがとう


 小さな女の子に、3年前に死んだ双子の弟妹が重なる。


 あれは、事故なんかじゃなかった。

 なのに、私は弱くて、何も言えなかった。


「お姉ちゃん・・・?」


 私の反応がない事を不思議に思った小さな子は、私の顔を覗き込み、お父様とお母様を見て、私の傍にいたメイドに縋りついた。


「ねぇ、お姉ちゃんの口、切れちゃう。泣きたいのに泣けてないの。助けてあげて!!」


 その言葉にすぐ反応したのは、お母様だった。


「・・・っ、リーシェ、やめなさい。あの事故は貴女のせいなんかじゃないわ。」


「お嬢様、呼吸を楽になさって下さい。」


「リーシェ、お前は悪くない。お前も被害者だ。」


 でも、でもっ・・・。


 あの事故で、ハーラント家の双玉と称えられた、私の双子の弟妹は命を落した。

 弟はこの子爵家を継ぎ、妹は婚約だって決まっていた。

 なのに、私のせいで・・・。


「私が、悪いのよ・・・。私が、弱かったから・・・。だから、ロエルとノエルは・・・。」


 段々と冷たくなっていく二人の身体。

 怖くて、悲しくて、辛くて。

 助けを求めたのに、誰も助けにきてくれなくて。


 やっと助けが来てくれた三日後には、あの子達は冷たくなっていた。


 苦しい、痛い、熱いよ、と言いながら、私の手を握りながら天に召された双子。

 

 惨めだった。

 何も出来なかった自分が憎かった。

 だから私は、あの日から強くなろうと決め、今日まで生きてきた。

 

 いつの日か生まれ変わる二人を、今度こそ守る為に。


「マリア、貴女の娘、どうかしたの?」


「煩いわね、少し黙ってて頂戴。リーシェ、リーシェ。お願いだから自分の殻に閉じ籠らないで。貴女は十分に傷ついたし、あの子達に償ったわ。悪いのは私と旦那様よ。だからお願い。そんなに自分を責めないで」


 そうしたいのは山々だった。

 なのに、呼吸の方法を忘れてしまった私の身体は、私の意思に反し、痙攣まで起こし始めた。


「お嬢様、いけませんっ。」


 騒然とし始めたハーラント子爵家の客間。

 それを止めたのは、意外にも、今まで一言も喋ろうともしなかった伯爵だった。


 伯爵は、痙攣を起こしかけていた私の前まで来ると、ゆっくりと呼吸の方法を教えてくれた。

 ゆっくりと、丁寧に。

 そして、心安らかに。


 なんとか伯爵の指示通りに呼吸を繰り返した私は、メイドと執事に支えられながら、頭を下げた。


「申し訳ありません。助かりました。久しぶりの発作で、危うく天に召されそうになりました。」


 紅茶はこぼれ、ドレスは汚れてしまったけれど。


 苦笑交じりに謝った私は、お母様の抱擁を受けながら、こちらの様子をずっと見守っていた伯爵夫人に目を向けると、伯爵夫人は何を思いついたのか、パン、と、両手を叩き合わせ、にっこり微笑んだ。


 そして、次の伯爵夫人の言葉で、私は本日二度目となる、頭痛を味わうはめに。


「ねぇ、マリア。貴女の娘のリーシェさん、弟のお嫁さんとしてくれないかしら?そうすれば私達は親戚同士になれるわ。リーシェは私の義妹。そして、マリアは私と弟の義理の母。ね?良いアイディアでしょ?」


 名案だと微笑む伯爵夫妻に(格下だから逆らえない)、私達、ハーラント家の人間は、何も言えなかった。

 とりあえず、ここまで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ